原子力資料情報室声明 原子力規制委員会の「もんじゅ」停止命令を歓迎する 機構は「もんじゅ」を廃炉にすべき

2013年5月16日発表

 5月15日、日本原子力研究開発機構(以下、機構)は高速増殖原型炉「もんじゅ」における約1万件におよぶ点検漏れとその後のずさんな対応により、原子力規制委員会(以下、規制委員会)から保安措置命令と保安規定変更命令を受けることが決まった。具体的には、保守管理体制及び品質保証体制の再構築、点検管理システムの構築、また安全を最優先する活動方針、法令順守の徹底、経営層や発電所幹部の責任の明確化などを保安規定に盛り込むことなどが命令される。これによって保安確保に必要な点検などを除き、使用前検査を進めるための活動、例えば、燃料交換などの活動が停止される。停止は上記命令への改善が実施され、その報告にたいする規制委員会の確認が終了するまでの間である。

問題の発端は昨年11月に、保全計画に定められた機器の点検時期を超過して未点検状態となったものが9,679件確認されたことである。その後もさらに未点検機器が見つかり、最終的に合計9,847件(うち安全上重要な機器55件)に上る未点検機器が確認された。さらに、機構が規制委員会に提出した報告書が全体として不十分であり、また提出後に記載に誤りが見つかり訂正報告が行われるなど、内容の信頼性にも疑義があった。また、規制委員会の立ち入り調査後にも不備が見つかった。こうした事態を重く見た規制委員会の厳しい対応が今回の命令である。

本日の委員会では、不備を報告しているのにちゃんと対応していないのは、作文してその場しのぎをしているにすぎない、と言った意見が出されていた。あるいは、こういった組織が存在していること、存在していることを許していることが問題であると言った指摘もあった。

点検漏れなどのトラブルは今回に始まったことではない。そしてトラブルが起きるたびに「根本原因分析」として組織風土の改善などを謳ってきた機構であるが、同分析は今回を含め7回に達する。だが、「組織的背景要因が未だに解決されず残っている」のだ。

「もんじゅ」は使用前検査中の1995年にナトリウム漏えい火災事故を起こし、生々しい現場映像を隠蔽したことで社会的な指弾を受け、以来15年ほど停止していた。その間、名古屋高裁金沢支部が「もんじゅ」の原子炉設置許可処分の無効確認判決を言い渡したこともあった。2010年5月に出力ゼロ%で試験運転を再開、成功したが、8月には燃料交換のための炉内中継装置を原子炉内に落下させ、また、非常用のディーゼル発電機のシリンダーに亀裂が見つかるなどのトラブルが相次ぎ、試験運転再開は遠のいた。この間にナトリウム漏えい警報が誤って発表するなどのトラブルが頻繁に起きていた。機器や電気系統などのシステムは20年以上も前のもので、すでに相当劣化していると言える。

この18年の間に「もんじゅ」の開発に携わった人たちは退職し、システム全体を知る人はいなくなっていると考えられる。また、機器の点検などは納入メーカーが実施するのだが、各メーカーも同様な事態になっている。各メーカーが提案した点検間隔はあるものの、時期の定めがなく、部署ごとの手作業の管理でコンピュータによる統一的な管理が行われていなかった。そして「上層部」は規制委員会の指摘で点検漏れを知った次第である。

他方、「もんじゅ」はこれまで1兆円を食いつぶしてきた。運転停止中もナトリウムを液状に暖めておく必要があるので、維持費だけで年間200億円に達する。民主党政権時代の事業仕訳では3度も俎上に上がり、開発の成功に疑問が出され、見直しが求められたのだった。

機構は10月から試験運転の再開を計画していたようだが、今回の命令でそれは遠のいた。いや、もともと10月の再開など不可能だったのだ。それを計画変更せずに済ませていることこそが問題である。敷地内断層の再確認、研究炉に対する規制基準への設備対応と適合審査など、簡単には済まないことが山積みとなっているからだ。

こんな「もんじゅ」の運転を目指すことは大変危険だ。このまま開発を続けるなら、トラブル続きは必至で、結局は、動かぬ「もんじゅ」に巨額の費用だけが湯水のように注がれ、消えていくだけだろう。

安全を確保する唯一の方法は「もんじゅ」を廃炉とすることだ。これによって国費をドブに捨てなくても済み、その分は震災復興に振り向けることができる。