【原子力資料情報室声明】イスラエル・米国によるイランの「核施設」攻撃に抗議する
イスラエル・米国によるイランの「核施設」攻撃に抗議する
2025年6月25日
NPO法人原子力資料情報室
6月13日、イスラエルは、イランの「核施設」などへの攻撃を行い、イランも報復攻撃を行った。6月22日には米もイランのウラン濃縮施設など3つの「核施設」を攻撃した。イランにどのような問題があろうと、今回の攻撃は国際法上、違法なものである。また、「平和目的」名義の原子力施設への攻撃であり、きわめて危険な行為である。当室は当事国に対し、攻撃中止・停戦継続を強く求める。
イランは多くの「核施設」を保有しており、イスラエルはこれらが軍事転用されていると主張している。実際、近年イランは高濃縮ウランの保有量を急拡大させており、2025年5月時点の報告では、ウラン235の比率を60%以上に濃縮したウランを408.6kg[i]保有している。IAEAは20%以上に濃縮されたウランを高濃縮ウランと定義し、その有意量(核爆発装置製造を否定できない量)を25kg[ii]としている。なお、高濃縮ウランでも核兵器は製造できるが、一般には90%以上に濃縮されたものを兵器級ウランと呼んでいる。
高濃縮ウランの用途は主に、核兵器か、研究炉、原子力潜水艦に限られる。近年は核拡散防止の観点から、多くの研究炉が燃料を高濃縮ウランから低濃縮ウランに切り替えている。イランには原子力潜水艦計画があるものの、技術的には相当先のことになるとみられている。ちなみに、原子力潜水艦は、出力にもよるが、通常は500kg程度の高濃縮ウランを、出力の小さなものの場合で100kgの高濃縮ウラン(45%濃縮の場合)を用いるという[iii]。
核拡散防止条約(NPT)は原子力平和利用の権利を各締約国に認めており、ウラン濃縮もその範囲に入る。イランは自国の活動を平和目的であると主張している。実際、核兵器開発にむけた動きが様々に報告されているとはいうものの、IAEAはイランが核兵器開発しているという証拠はないと報告している。また、米国家情報長官も3月26日に、イランは核兵器を製造していないとの評価を継続しており、最高指導者のハメネイ師は、2003年に停止した核兵器プログラムを再開する権限を付与していない、と米議会に報告している[iv]。それでもなお、地域の安全と安定を脅かす疑わしい行為であることは間違いない。
今回のイスラエル・米国の国際法上の不法行為を改めて確認しておこう。国連憲章2条4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と武力による威嚇または行使の一般的禁止を規定している。42条で安全保障理事会での決定に基づき、武力行使を行えるとしているとはいえ、今回はそのような決定は一切存在しない。51条で武力攻撃があった場合、安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間、個別的又は集団的自衛権の行使を容認しているが、今回はイスラエル側の先制攻撃であり、そのような権利の発生する余地はない。
ジュネーブ条約第一追加議定書(イスラエルは不参加、米・イランは署名しているが未批准)は56条で、原子力発電所について「攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは」攻撃を禁止している。ただし、これまで攻撃を受けたとされる施設は、アラク重水炉は未稼働であり、イスファハン、ナタンズ、フォルドゥは原子力発電所ではないため、対象外だと考えられる。一方、攻撃で憂慮されるのは稼働中のブシェール原発への攻撃である。仮に原子炉建屋にミサイルが撃ち込まれた場合、大量の放射性物質が環境中に放出されることになる。送電網への攻撃により外部電源を喪失するだけでも事故リスクは高まる。このような攻撃は当然、ジュネーブ条約の禁止対象となる。
濃縮工程でウランは気体状の六フッ化ウランに転換されている。六フッ化ウランは比較的重い気体のため、相当量の放出がなければそれほど広範囲に影響を及ぼすことはないと考えられる。ただし、施設内では別だ。六フッ化ウランは空気中の湿分と反応して極めて人体に有害なフッ化水素を発生させるからだ。また古くからウランは重金属毒性により腎臓組織を損傷することが知られている。被ばくという観点で考えると、実効線量が1mSvとなる吸入ウラン量は20%濃縮ウランの場合で3.4mgである[v]。大気中では六フッ化ウランはすぐに二酸化ウランに変わるが、その場合、被ばく線量はより厳しくなる。
ウラン濃縮施設などへの攻撃が条約の禁止対象外だったとしても、民生用原子力施設への攻撃という、心理的なハードルを軽々と越えていくイスラエルや米国の行為は、原子力「平和利用」の土台を削っている。これまで、IAEA総会決議で繰り返し民生用原子力施設への武力攻撃および脅威は国際連合憲章の原則、国際法およびIAEA規約に違反すると明示している[vi]のも、民生用原子力施設を攻撃しないという国際規範を形成するためだった。こうした努力が、ロシア・ウクライナ戦争や今回のイスラエル・米国によるイラン攻撃により水泡に帰そうとしている。
今回の濃縮施設攻撃では、イラン側は事前に濃縮ウランを別の場所に輸送していたという衛星画像分析やイラン側の報道もある。米国の攻撃による施設の破壊状況はいまのところ未確定な部分が多いが、イスラエル・米国の攻撃は、これまで自制していたイランが核武装に向かいかねない危険な行為だ。6月24日7時2分(日本時間)、米トランプ大統領はイランとイスラエルが停戦に合意したと自身のSNSで発表[vii]した。その内容は発表から6時間後にイランが停戦を開始し、発表から12時間後にイスラエルが停戦を開始、さらに12時間(日本時間25日13時頃)後に終戦するというものだ[viii]。状況は流動的で見通すことは難しいが、日本政府には国際社会と連携して、関係当事国の自制を促すよう強く働きかけることを求めたい。
以上
[i] IAEA. 2025. Verification and monitoring in the Islamic Republic of Iran in light of United Nations Security Council resolution 2231 (2015). Accessed June 24 2025. www.iaea.org/sites/default/files/25/06/gov2025-24.pdf
[ii] IAEA. 2022. IAEA Safeguards Glossary 2022 edition. Accessed June 24 2025. www.iaea.org/publications/15176/iaea-safeguards-glossary
[iii] Hanlon, B. P. 2015. Validation of the Use of Low Enriched Uranium as a Replacement for Highly Enriched Uranium in US Submarine Reactors. Accessed June 24 2025. dspace.mit.edu/bitstream/handle/1721.1/103656/953286533-MIT.pdf
Heinonen, O. 2012. Nuclear Submarine Program Surfaces in Iran. The Belfer Center for Science and International Affairs. Accessed June 24 2025. www.belfercenter.org/publication/nuclear-submarine-program-surfaces-iran
[iv] Office of the Director of National Intelligence. 2025. DNI Gabbard Opening Statement as Delivered to the HPSCI on the 2025 Annual Threat Assessment of the U.S. Intelligence Community. Office of the Director of National Intelligence. Accessed June 25, 2025. www.dni.gov/index.php/newsroom/congressional-testimonies/congressional-testimonies-2025/4061-ata-hpsci-opening-statement-as-delivered
ただし、Santos, S. F. 2025. Tulsi Gabbard now says Iran could produce nuclear weapon “within weeks.” BBC. Accessed June 25, 2025. www.bbc.com/news/articles/c056zqn6vvyo によれば、国家情報長官は、6月21日、数週間以内に核兵器を製造できると発言を翻している。
[v] 六フッ化ウランの化学的有害性とその規制. 2014. ATOMICA. Accessed June 24 2025. atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_11-02-03-03.html
[vi] IAEA. 1983. General Conference resolution GC(27)/RES/407. Accessed June 24 2025. www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc27res-407_en.pdf
IAEA. 1985. General Conference resolution GC(29)/RES/444. Accessed June 24 2025. www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc29res-444_en.pdf
IAEA. 1987. General Conference resolution GC(31)/RES/475. Accessed June 24 2025. www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc31res-475_en.pdf
IAEA. 1990. General Conference resolution GC(34)/RES/533. Accessed June 24 2025. www.iaea.org/sites/default/files/gc/gc34res-533_en.pdf
[vii] Trump, J. D. 2025. Truth social. Jun 24, 2025, 7:02 AM. Accessed June 24 2025. truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/114734934153569653
[viii] Cook, S., Joe, W., Fin, D. G., & Brian, D. 2025. Trump announces Israel-Iran ceasefire. CBS News. Accessed June 24 2025. www.cbsnews.com/news/trump-israel-iran-ceasefire/