原子力小委員会参加記⑯いつか見た風景、前のめりな新設議論

『原子力資料情報室通信』第617号(2025/11/1)より

46回原子力小委員会

10月1日、46回原子力小委員会が開催された。テーマは「原子力政策の具体化に向けた論点」だった。事務局から「次世代革新炉の開発・設置」の見通しが論点として提示されたうえで、電気事業連合会から将来必要となる原発設備容量、日本電機工業会から劣化するサプライチェーンの維持強化の必要性、三菱総合研究所から複数基建設による建設コスト低下効果などが説明された。目玉は電事連の見通しで、2040年代に約550万kW、2050年代には約1,270~1,600万kWの建て替えが必要となる、というものだ。

私は以下の通り発言した。

1 総括原価方式時代にも大きな原子力の新設目標をたて、失敗してきた。資金面での予見可能性がそれほど低いわけではない状況でも投資が出てこなかった。リスクは国民に全て転嫁というのであれば、そのことは正直に説明するべきだ。

2 7次エネ基では原発のコストは他電源と遜色ない水準とした。だが長期脱炭素電源オークションは大規模・建設期間の長い電源は1.5倍の値上がりまで転嫁を容認することにした。それは遜色ない水準とはとても言えない。そのような見直しをするのであれば、コスト計算においてリスク評価ができていなかったことの表れだ。国際再生可能エネルギー機関によれば、2024年の世界に追加された電源の92.5%、2023年も86%が再エネだった。投資額でも原子力は総額で30億ドルそこそこなのに対して再エネは700億ドルを超えている。原子力のような成長の無いニッチな産業に固執し続けることで日本は成長分野への投資機会を失っているのではないか。原子力への巨額の投資を行う前に、国民経済の観点から、電源の経済性評価は改めて行うべきだ。

質問1:日本電機工業会の資料ではメーカーで働く原子力関連従事者数の減少傾向が指摘されているが原子力産業協会の産業動向調査では、原子力産業全体の従事者数は2005年度の32,000人をボトムにむしろ増加し、現在は37,000人だ。メーカーではなく建設業などの従事者を含むが、事故前の54基体制から30基台へと原発基数が減っていく中で、産業をいかに縮小させていくかが重要な課題なのではないか?

質問2:三菱総研の資料で、英EPRの建設コスト・期間は説明いただかなかったが、どう評価しているのか? また、p.13でEDFの再国有化は原子力再興のためと説明いただいたが、コスト高原発建設などで経営危機に陥ったからではないのか? 採用数増も再国有化の決定以降のはずだ。

目立った発言として遠藤典子委員(早大教授、NTT社外取締役)がSMR、MMR(マイクロ炉)でも構わないが商船利用も検討するべき、という提案をした。確かに一部の国で商船への利用が議論されているが、いずれも新型炉な上、船舶利用とあまりに多くの障壁がある。なお遠藤氏は9月19日に報告書が発表された「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」にも参加していた。同報告書は「次世代の動力」とオブラートに包みながら原子力潜水艦保有検討を提言している。遠藤氏の提案は、むしろこの提言と重ねて考える必要があると考える。また田村多恵委員(みずほ銀行)から、新設リプレースの想定が出てくるのは妥当だが、2050年代の目標は1年あたり1基以上の建設が必要、労働力不足の中、可能な工事量という観点からは厳しいので2040年代目標の前倒しが必要ではないか、という発言があった。私の質問に対して三菱総研から、前者は2割程度の削減効果を想定、後者は指摘の通り、との回答があった。電機工業会からは回答がなかった。

9回革新炉ワーキンググループ

46回原子力小委から2日後の10月3日、ほぼ1年ぶりに9回革新炉ワーキンググループが開催された。革新炉ワーキンググループは革新軽水炉・小型軽水炉・高速炉・高温ガス炉・核融合炉の開発を検討するWGだ。今回のテーマは開発の道筋についてで、革新軽水炉と小型軽水炉が議論された。事務局からの論点の説明の後、三菱重工、日立GEベルノバニュークリアエナジー(GEのエネルギー事業分社化に伴い、日立GEから社名変更)、東芝エネルギーシステムズ(2026年4月、東芝本社に統合予定)から自社の開発する革新軽水炉と小型軽水炉、日揮・IHIから出資するNuScale社のSMR事業の状況について説明があった。

私は以下の通り発言した。

1 IAEA SMRカタログ2024に掲載されているSMRは70種類以上。一方、国際エネルギー機関が予測する2050年における世界の電力供給に占める原発シェアは10%に満たない。老朽化した原発の建て替えや一部新規建設があったとしても、それらの大半は大型軽水炉だ。熟度はそれぞれ異なるが、始まってもいないのにすでにレッドオーシャンになっているのがSMR市場。この市場に日本が政府資金を投じることにどれだけの意味があるのかは冷静に議論するべきだ。たとえば10年以上後にできるデータセンター用SMRや電力需要もさほどない途上国に1地点SMRを導入することの意義は何か。

2 SMRは大量生産でコスト低下というコンセプトだが、たとえば、フランスでは標準化された原発で欠陥が見つかった結果、水平展開により複数基が停止に至った。原発のライフサイクルは長く、すぐに欠陥が見つかるとは限らない。大量導入されたのちに欠陥が見つかったとして、対処は可能か。電力需要の大きくない国にSMRを導入した場合、大規模停電という事態すらありうる。メーカーとしてリスクが大きすぎるのではないか。

3 事務局資料2のp.7の指摘、特に「日本特有の条件への適合の必要性」という論点は重要だ。この点はぜひ深掘りしてほしい。

4 事業者から再エネの負荷追従性の機能の説明があったが、機能として追加されていても、この機能の実用性があまり理解できない。原発は高い建設コストを長期安定運転することで、コスト回収を図るというビジネスモデルだ。原発比率があまりに高いフランスではやむを得ず一部原発で負荷追従をおこなっているが、日本においては優先給電ルールのもと、原発は優先して給電することを認められている。他の国でも基本的には負荷追従運転はやらない。再エネと競合しないと強弁したいだけなのではないか。

5 私は原発建設に反対しているが、学習曲線という観点では、様々な炉型を少しずつ建設するよりも1つの炉型を建設したほうが効率的。現状、全ての炉型を支援しているが、絞り込みが必要ではないか?

質問:三菱重工の開発するSRZ-1200の建設費はいくらぐらいと想定されているのか?

このWGでも遠藤委員は商船用SMR・MMR開発を提案していた。また田村委員はロードマップの定期的見直しを、黒﨑健委員(京大複合原子力科学研究所所長・教授)からはロードマップは熟度を違うものを並べているので違いをわかるようにするべきといった発言があった。高木直行委員(東京都市大教授)からはSMRの輸出は良いが、敷地効率、資源効率も悪く、現状の核燃料サイクルとの適合性も悪いので、日本への導入意義は検討すべき、との発言もあった。

三菱重工からは私の質問に対し、メーカーではなく、今後、事業者が算出するもので、メーカーの立場では回答を差し控える、という回答があった。

(松久保 肇)

第46回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/046.html

第9回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/009.html

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。