韓国の「927気候正義行進」ルポ

『原子力資料情報室通信』第617号(2025/11/1)より

2025年9月27日、筆者は韓国で行われたアクション「927気候正義行進」に、同世代の仲間とともに足を運んだ。

気候正義行進とは

韓国・ソウルでは、2019年から毎年のように大規模に呼びかける気候アクションを行ってきた。2022年からは「気候正義」を掲げたデモを開催し、原発や気候危機を含む様々な問題について、民主主義、平等、環境・人権保護などを求めて幅広く連帯し声を上げている。
毎年2~3万人の人々が集まっている。今回はソウル以外の11の地域でも同時にデモが行われ、地域特有の課題を訴えることにも注力された。
今年のスローガンは「気候正義で、広場をつなごう」。「広場」とは、昨年12月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領によって戒厳令が出された後、多くの人々が数ヶ月間にわたって粘り強く守り抜いた、民主主義を象徴する場所を示している。

背景となるエネルギー政策の課題

6月に始動した李在明(イ・ジェミョン)政権は、経済回復や先端産業投資を打ち出している。AI、半導体、空港やダムの建設は、資本主義・開発主義を助長している。エネルギー消費量を増やすことで気候危機の対応が遅れるだけでなく、環境汚染と人権侵害が懸念される。先端産業によって電力需要が増大するとして、小型原発の新設も推進されている。
2035年までの温室効果ガス削減目標の議論も重要な局面を迎える。憲法裁判所は2024年、青少年グループなどが提起した訴訟において、2031年から2049年までの具体的な削減目標が定められていないのは違憲と判断した。韓国政府は、2026年2月末までに法改正をしなければならない。
気候正義行進の組織委員会は、「6大要求と18の細部要求」を示し、気候危機緩和のためにも、老朽原発の寿命延長やSMRを含む新規原発建設を中止し、公共再生エネルギーを拡大することを求めている。公共再生エネルギーとは、政府と自治体、公営企業、協同組合を通じた市民の、3者の参加による運営形態で、地域への適切な利益還元と労働者の雇用の公正な移行を目指す。
また要求では、農民の権利保護、武器輸出停止、マイノリティ差別撤廃など、要求している分野は多岐にわたるが、すべて正義(公平性)の観点からつながっている問題だ。

気候正義行動の様子

お昼過ぎから、デモ行進が始まる夕方までの約4時間、光化門前の路上で行われるオープンマイクや様々な団体のブース、メイン集会を回った。会場全体が、20~30代と見られる市民で溢れかえった。オープンマイクでは、筆者と友人もスピーチする機会をもらった。日本の朝鮮半島への侵略、日本国内でも見られる地域差別と福島、そこから共通してみられる植民地主義についてお話しした。歌やラップ、ダンスを披露する団体もあり、一緒に体を動かす参加者の様子に、文化祭のような楽しさと一体感を感じた。
メイン集会では、9名の市民団体活動者や労働者から訴えがあった。個人のストーリー、気候危機、労働問題、パレスチナ虐殺など社会の不正義が語られた。加えて、エネルギーの公共性やケア、脱植民地主義という言葉と問題をつなげ、共通の価値観をつくり、人々の連帯感を強めているように感じた。
脱原発団体「エネルギー正義行動」のイ・ヨンギョンさんは、「AIにより? 炭素削減により? それともソウル首都圏の電力のために? このような言い訳はもうやめましょう」「光の広場で私たちはみんなに尊厳のある生活を語り、気候正義の広場で誰も排除されない転換を語りました。私たちは脱原発市民としてより大きく声を上げるでしょう」と聴衆に叫んだ。
午後4時から、一斉に行進が始まった。大量の旗に大きな横断幕、オブジェ、手作りプラカード、K-pop音楽に合わせたシュプレヒコール…言葉だけにとどまらない表現の場が、複雑な社会に対抗する大きな市民の力を作っていると感じた。劣悪な労働環境で亡くなった人々の写真を持って行進していたグループがいた。より良い未来のために、被害を受けた人の痛みとともに声を上げていた様子が印象に残っている。

(川﨑 彩子/写真:927気候正義行進組織委員会)

オープンマイクを楽しむ参加者
①オープンマイクを楽しむ参加者。

登壇者が声明文を発表する場面。手前にはスローガン「気候正義で、広場をつなごう」
②登壇者が声明文を発表する場面。手前にはスローガン「気候正義で、広場をつなごう」

「脱原発!脱石炭!公共再生エネルギーの拡大!」の横断幕とデモ隊列
③「脱原発!脱石炭!公共再生エネルギーの拡大!」の横断幕とデモ隊列

デモの途中、路上でダイインをする様子
④デモの途中、路上でダイインをする様子

脱原発を中心に訴えるデモ隊列
⑤脱原発を中心に訴えるデモ隊列

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