労災認定された長尾さんの多発性骨髄腫を東電側が否定

『原子力資料情報室通信』382号(2006年4月1日発行)より

労災認定された長尾さんの多発性骨髄腫を東電側が否定
4月6日、本人尋問の傍聴にぜひ参加してください

渡辺美紀子(原子力資料情報室)

 福島第一原発などで被曝労働に従事して多発性骨髄腫になった長尾光明さんは、2004年1月労災認定された(本誌350、357号参照)。長尾さんが最も大量に被曝した福島第一原発では、1981年にアルファ核種の汚染があったことが内部告発により明らかになっている。長尾さんは大量に被曝したのは東京電力が安全配慮義務に違反したからだとして、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)に基づいて、東京電力に民事損害賠償を求める裁判を起こした(本誌363、364、367号)。第7回口頭弁論が、2月17日、東京地裁で開かれた。
 東京電力側は、「長尾さんは多発性骨髄腫ではない」と主張してきた。長尾さんのカルテをすべて提出させ検討した結果、長尾さんが発症してから7年間も生きていることや病気の経過を多くの検査データなどからみて、多発性骨髄腫に罹患しているという確定診断はまちがいだというのだ。
 東電側は、私たちが追及している長尾さんが作業をした福島第一原発2号炉におけるプルトニウムなどアルファ核種汚染による被曝問題などの争点は避けている。そして、長尾さんの多発性骨髄腫発症と放射線被曝の医学的因果関係、時効、さらに診断そのものにまでと次つぎに争点をふやし、裁判の引き延ばしをはかっている。
 昨年12月、これからの裁判をどう進めるかを話し合う進行協議が持たれた。私たち原告側は、長尾さんの本人尋問をできるだけ早く行なうことを求めた。そして大阪地方裁判所での出張尋問が4月6日、午後1時30分から202号法廷で開かれることになった。
 闘病中の長尾さんにとって、寒い冬はとりわけつらい時期だ。寒さで体全体が痛むのだ。そんな中、長尾さんは大阪地裁での尋問にそなえている。
 長尾さんの労災認定は、厚生労働省が専門家を集めて行なった労災認定の検討会できびしい審査を経て、国が認めたものである。東京電力は、長尾さんの労災認定は労働者保護の観点でなされたにすぎないと主張し、多発性骨髄腫発症と放射線被曝の因果関係を否定している。
 また、国がこの訴訟に補助参加すると申し立て、昨年4月22日の第3回口頭弁論から代理人弁護士と文部科学省の担当者たちが東電の代理人とともに参加するようになった(本誌375号)。原賠法と「原子力損害補償契約に関する法律」に基づくものだ。国は厚労省の決定を否定したうえ、原発で働き健康被害を受けた労働者を守るという責任を放棄し、その企業を応援するというのだ。文部科学省に補助参加の経過と理由を示す文書の開示を求めたところ、法務省に移送された上で、完全に墨塗りで「開示」された。
 これから多発性骨髄腫という診断がまちがいではないということを立証し、その後因果関係についての論証と、長い裁判になりそうです。ご支援をよろしくお願いします。