長尾原発労災裁判への国の補助参加に抗議しよう
『原子力資料情報室通信』375号(2005年9月1日発行)より
長尾原発労災裁判への国の補助参加に抗議しよう
川本浩之
(よこはまシティユニオン/神奈川労災職業病センター)
裁判の争点
2004年10月7日、福島第一原発などで被ばく労働に従事して「多発性骨髄腫」になった長尾光明さんが、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)に基づいて、東京電力に約4000万円の民事損害賠償を求める裁判を起こした。これまで、04年11月26日、2005年2月25日、4月22日、7月1日に口頭弁論が開かれてきた。
長尾さんの病気については、04年1月に、労働基準監督署に労災認定されている(本誌357・363号参照)。つまり国が因果関係を認めている。にも関わらず、東京電力は因果関係そのものを否定している。厚生労働省の専門検討会議の結論を批判して、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告などを根拠に、放射線と多発性骨髄腫は関係ないと言うのだ。そして、長尾さんの病気も加齢によるものだと決め付けている。また、診断されてから3年経てば、時効で権利は消滅していると主張。以上のとおり、全面的に争う姿勢である。さらに、鑑定申請を準備していると言う。
原告側は、労働基準監督署の資料などを送付嘱託で入手する一方、東電が出してきた科学的文献などの証拠を分析、長尾さんの多発性骨髄腫が、原発被ばく労働によるものであることを改めて主張してきた。もちろん科学・医学論争に必要以上に深入りするつもりはない。そもそも厚生労働省は国の権威で専門家を招集して、その結論が、因果関係ありとしたのである。原発被害において、それ以上の立証を一市民、労働者がしなければならないのであれば、何のための原賠法なのか。時効については議論が複雑なので省略するが、もちろんいろいろな判例などをあげて、反論している。
裁判長はなかなか考え方を表明せず、7月の法廷でも、双方に今後の立証をどのように進めていくのかを尋ねる程度。鈴木弁護団長は、東電の鑑定申請に対してどのような態度をとるかが、一つの見極めになるだろうと話す。つまり、もしも因果関係など労働基準監督署の決定や原告の主張で十分だと考えていれば、一蹴するに決まっているし、もしも鑑定を検討するなどと言い出せば、原告の主張も病気のこともまったく理解が不足していることになる。
国が東電の助太刀へ
ところで2005年4月8日付けで、国が訴訟に補助参加すると申し立て、4月22日の口頭弁論からは、代理人弁護士と文部科学省の役人たちがぞろぞろと被告席に座ることになった。原賠法と「原子力損害補償契約に関する法律」に基づくものだ。
つまり、原子力損害の発生原因から10年経過後に請求されて賠償した場合、その損失については政府が補償するとされている。長尾さんは、1970年代後半に被ばくしているので、確かにそれにあたる。もしも東電が裁判で負けて賠償した場合に、国が請求される可能性があるから、補助参加するというのだ。
文部科学省へ抗議の声を
それにしても国の補助参加はおかしい。厚生労働省が労災と認定して、因果関係ありとしている国の決定について、東電は間違っていると主張している。そんな企業を応援すると言うのだ。一体どういうことだ。さらに、判決が出たならともかく、可能性段階から補助すると言うのは、手回しが良過ぎるではないか。
7月11日に担当官庁であり代理人を出している文部科学省に、よこはまシティユニオンとして、支援する会のメンバーと共に、以下の通り要請、交渉を行なった。
1 国が長尾原発労災裁判への補助参加の経過や理由などを説明し、対応の基準や決定過程を示す行政文書があれば、全て資料提供すること。
2 労災認定における因果関係と原賠法上の因果関係は、同一のものであるのか、否か、国の基本的な見解を明らかにすること。
3 国は長尾労災原発裁判に補助参加するのではなく、むしろ早期解決に向けて東京電力を指導すること。
文部科学省は、基本的に係争中の事案なので詳細についてはコメントできないとしながらも、「東電を勝訴させるために補助参加している」、「東電の主張は否定しない」と平然と述べている。原発で働いて健康被害を受けた被ばく労働者の健康よりも、原発推進企業を守る立場の言明に他ならない。国が因果関係を認めたものですら、企業が認めなければ賠償しなくていいとなれば、ガンや白血病のように被ばくして年月が経ってから発症する疾患は、すべて否定してくるだろう。「争えるものは何でも争え」、「やっぱり国も応援してくれるぞ」、そんな東電の笑い声が聞こえてくる。
厚生労働省の決定を踏みにじり、いや、労働者・市民を保護すると言う国家としての責任を放棄した文部科学省に対して、より強い抗議の声をあげていきたい。