六ヶ所再処理工場は「平和利用の目的以外に利用されるおそれ」がある

原子力資料情報室通信377号(2005/11/1)より

六ヶ所再処理工場は平和利用の目的以外に利用されるおそれがある
事業指定取り消しを求める裁判に準備書面提出

西尾漠

 9月16日、青森地裁で開かれた六ヶ所再処理工場の事業指定取り消しを求める裁判に、同工場が平和利用の目的以外に利用されるおそれがあるとする準備書面を、原告の一人として提出した。平和利用の担保は再処理事業の指定に際して要求される第一の要件であり、きわめて重要なものである。要件に適合していない場合、核兵器の製造につながり、その使用ないし事故により甚大な被害を原告らにもたらしうる――というのが、準備書面の趣旨だ。
 今この時にそうした準備書面を書いた背景には、六ヶ所再処理工場の強引な運転開始への動きが国際的な核武装疑惑を呼び、また、各国の核開発の言いわけに使われることで核拡散を促しているという現実がある。政府や電力業界が核武装のために六ヶ所再処理工場を動かそうとしているとは思わないが、同工場が計画通りに運転されればプルトニウムが年間に核兵器1000発分も生産されることになる。総選挙で当選した議員たちのアンケート結果や憲法「改正」の動向などを見れば、やがて核武装が日程にのぼらないとも言えなくなってきている。
平和利用の担保は事実上無審査
 もう一つ、今の時期に準備書面が書けたのは、これまで隠されてきた資料をこの8月に原子力委員会から入手できたからでもある。それは、科学技術庁(当時)が再処理事業の指定のための一次審査を終え、平和利用の担保や経済性などについての二次審査を内閣総理大臣が原子力委員会に諮問した際に付された科学技術庁の審査結果だ。
 そこには、こうあった(文中の日本原燃サービスは現在の日本原燃である)。
「本件事業を行う日本原燃サービス株式会社は、国内の原子力発電所から生ずる使用済燃料の再処理役務を行うことを主要な事業目的としており、原子力基本法にのっとり、『原子力開発利用長期計画』(昭和62年6月原子力委員会決定)に従い、厳に平和利用に限り再処理事業を行うとしている。以上のことから本件の再処理施設は、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める」(1981年8月22日、内閣総理大臣から原子力委員会への諮問「別紙」)
 申請者が「厳に平和利用に限り再処理事業を行う」と言っているから「平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める」というのは、およそ審査ではない。そして原子力委員会の二次審査の結果(これは以前から公開されている)は、「[原子炉等規制法に]規定する基準の適用については妥当なものと認める」(1992年12月15日、原子力委員会答申)というだけ。何も書いていないものだった。平和利用に関する審査は形式的なものに過ぎず、事実上は無審査だったのだ。
 しかし、六ヶ所再処理工場の保障措置の実態は形式的な審査でよしとされるべきものではまったくない。しかも、六ヶ所再処理工場のような大型再処理工場の査察は、国際原子力機関(IAEA)にとって未経験のものである。他の大型再処理工場は核兵器国にのみ存在し、IAEAの査察を受けていない。技術的対応策も未完成である。
保障措置の目的
 日本・IAEA保障措置協定(INFCIRC/255)の第28条は、保障措置の技術的な目的を次のように規定している。「この協定に規定する保障措置の手続の目的は、有意量の核物質が平和的な原子力活動から核兵器その他の核爆発装置の製造のため又は不明な目的のために転用されることを適時に探知すること及び早期探知の危惧を与えることによりこのような転用を抑止することにある」
 ここで「有意量(SQ)」とは、核爆発装置1個を製造するのに必要なおおよその量で、製造の過程でのロスも含むとされている。プルトニウム(プルトニウム-238の含有量が80%未満のもの)については8キログラムが有意量である。また、「適時に」とは、核爆発装置の金属構成部分への転用を防ぐ措置を講じられるだけの時間的余裕を言う。IAEAの査察では、転用可能な状態の金属への転換に要する時間(核物質の輸送・装置組み立ての時間は含まない。金属プルトニウムなら7~10日、化合物や混合酸化物なら1~3週間、使用済み燃料中のプルトニウムでは1~3ヵ月)や施設の運転状況、査察検認に利用可能な機器、充当できる人的資源等を考慮して、金属プルトニウム、化合物、混合酸化物では1ヵ月以内、使用済み燃料では3ヵ月以内などと「適時性ゴール」が設定されている。
LASCARの現実的適用は
 大型の再処理工場では、大量のプルトニウムを時に液体、時に粉体で、かつ連続運転で扱うため、保障措置は困難をきわめる。また、ほとんどの機器は、重たい放射能しゃへいで囲まれることになり、工場の操業が開始されるしばらく前にアクセス不能となる。
 そうした大型の再処理工場に保障措置を適用する最初のケースが六ヶ所再処理工場である。IAEAのS.J.Johnsonらは言う。
「IAEAは30年以上にわたって世界中の再処理施設に対する国際的な保障措置を適用してきている。しかしながら、大型の商業規模の工場への信頼に足る保障措置のアプローチを検討することは、これまで求められてこなかった」 (7th International Conference on Facility Operations-Safeguards Interface, 2004)
 そこで、1988年から92年にかけてLASCAR(大型再処理工場保障措置検討会合)と呼ばれる多国家間のフォーラムが、日本政府がIAEAに対し特別拠出金を提供して設けられた。国際フォーラムのメンバーには仏、独、日、英、米、ユーラトム及びIAEAから核物質管理の研究者、運転中の工場の技術者、国際保障措置の経験者、政府関係者が参加した。1992年にIAEAがまとめた『LASCARフォーラム報告書:大型再処理施設の保障措置』は、「LASCARの参加者は、工場の特徴に応じて選ばれた技術の組み合わせが、LASCARにおいて検討された大型再処理工場における効果的な保障措置の成功的実行を可能にすると結論した」としている。
 しかしながら現実的な適用は、LASCARの結論ほど甘くはなさそうだ。IAEAのT.Sheaらも、「LASCARは大きな成功を収めたが、その勧告を新しい大型プラントにおける特定の実用のアレンジメントに適用するにはかなりの努力が求められる」とし、「特に大型の再処理施設では、現存の検証機器や手続きは不十分かも不適当かもおよそ効果的でないかもしれない」と述べている(JNMM July1993)。
計量能力の限界は有意量を大きく超える
 また、核物質管理学会日本支部の前支部長だった萩野谷徹元核物質管理センター専務理事・IAEA保障措置実施委員会委員は、より率直に次のような疑問を投げかけている。
 「六ヶ所再処理工場の保障措置についての発表は多々あるが、『計量検認ゴール』の量的な説明が何もなされていないので、果たしてこの再処理工場で年間8㎏のプルトニウムが行方不明になった場合に、IAEAの保障措置当局がそれを探知できるのかが気にかかる」
 「保障措置の最大の技術的目標は『有意量の転用の適時の探知』であるが、六ヶ所再処理工場でも『有意量の転用の適時の探知』が可能であるとの論文は残念ながら見たことがない。IAEAや日本の保障措置関係者に聞いてもはっきりした答えは返ってこない」
 「さて、六ヶ所再処理工場でプルトニウム年間1SQの転用があってもIAEAはそれを探知できないとのことになってもこの工場の運転は認められるのであろうか。日本では、米国原産の使用済み燃料が殆どで、日米原子力協定の枠の中で再処理するわけであるが、IAEAの保障措置では1SQの転用の探知は不可能であっても最終的に米国は六ヶ所再処理工場に包括的同意を与えるのであろうか」(第22回核物質管理学会日本支部年次大会(2001年)論文集)
 結果から先に言えば、IAEA、米国ともに六ヶ所再処理工場の運転を認めることとなった。日本政府とIAEAは2004年1月19日付で、査察の内容等を具体的に記載したという非公開の文書(保障措置協定の施設附属書)に合意した。これを受けて日本政府は3月17日付で米国政府に、日米原子力協定実施取極の附属書で包括同意の対象とされている「運転中施設」に六ヶ所再処理工場を追加することを通告、同日付で米国政府から受領通知を得ている。
 萩野谷徹前支部長は、年間に約8トンのプルトニウムを扱う六ヶ所再処理工場(RRP)では、探知精度の格段の向上を見込んでも、「計量能力の期待値」が年間50㎏に達するとした。実際には機器に付着したり放射性廃棄物に混入したりしているとしても、外部に持ち出されていないとの確認はできない「行方不明量」の計量能力である。日本原燃再処理事業部核物質管理部の中村仁宣らは、「RRPのような大型再処理施設では、幾ら精度を向上させても有意量の探知は困難」とし、六ヶ所再処理工場では1年を物質収支期間として「簡易的に評価した場合、20~30㎏Pu程度の値が得られ」るとしている(第25回核物質管理学会日本支部年次大会(2004年)論文集)。いずれにせよ1SQ=8キログラムを大きく超えることに違いはない。
追加的手段は有効か
 そこで「LASCARでは従来の保障措置手法、即ち核物質の計量管理、封印・監視装置(C/S)、NDA検認システム及び近実時間計量管理(NRTA)の適用に加え追加的保障措置手段の適用を推奨している。そのためRRPでは、追加的手段として溶液工程に溶液モニタリング測定システム(SMMS)を、粉末工程にはプルトニウム在庫量測定システム(PIMS)を設置することで、MOXの生産に係るモニタリングを可能にし、核物質管理の透明性を図っている」と中村らは説明している。
 「従来の保障措置手法、即ち核物質の計量管理、封印・監視装置(C/S)、NDA検認システム及び近実時間計量管理(NRTA)の適用」では不十分なのである。追加的手段の決定的な重要性が理解できよう。それでは追加的手段はほんとうに有効なのか?
 プルトニウム溶液取り扱い区域の液位、密度、温度等を連続的に監視し、施設の運転が事業者の申告どおりであること、プルトニウム溶液の損失がないことを確認するのが、ソリューション・モニタリング測定システムである。しかし、その有効性には、なお疑問符が付く。前出のT.Sheaらの論文も「スループット(年間処理能力)の0.1%がプルトニウムの1SQより大きいことを考えれば、溶液計量技術は想定されるニーズに対し満足のいくものではない」と述べていた。もちろん、意図的にデータを喪失させることも不可能ではない。
 プルトニウム在庫量測定システム(PIMS)は、グローブボックス内のプルトニウム粉末の在庫を連続的に監視し、損失がないことを確認するシステムである。ただし「計数値からプルトニウム量が求められるまでの過程が全て複雑な計算により行われる。このため、パラメーターの決定の良否がPIMSの性能を左右すると考えられる。また、検出器の配置と機器の位置関係は固定した設計となっており、想定外の場所に核物質が滞留すると正確な測定ができないため、粉末を設計上想定される機器内のみで取扱うことが必要である」と中村らは言う。
 追加的手段も、「行方不明となる量」を直接減らせるわけではなく、複雑な計算に依拠することなどからさまざまな不確かさがあり、想定外の箇所にプルトニウムが飛散・蓄積するような場合の対策にも欠ける。それらの対策は「性能確認試験及び運転開始後初期」に期待されている。
 以上に見てきたように、六ヶ所再処理工場の保障措置はきわめて多くの困難を抱えている。文部科学省の片岡洋保障措置室長も言うように「物質収支の算定・評価は今までに経験のない規模のものであり、保障措置の実施過程でさまざまな実際的課題に遭遇することが予期される」(『原子力eye』2005年4月号)のである。つまり、こっそり核兵器をつくるのを阻止することすらできないのだ。
増え続けるプルトニウム
 さらに、再処理事業指定当時のプルトニウム利用計画は破綻し、プルトニウムの在庫量は2004年末には43トンにふくれあがっている。六ヶ所再処理工場が計画通り動けば毎年8トンが、しかもこれまでのように海外にではなく国内に加わる。工場から取り出された後も、軍事転用の可能性がつきまとうことになる。「平和の目的以外に利用されるおそれ」は相当程度大きいと言わざるをえない。
 六ヶ所再処理工場の運転は、決して認められるべきではない。

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