宮城県牡鹿半島沖の地震で女川原発1・2・3号炉が自動停止―設計用最強地震を超える地震動!―
宮城県牡鹿半島沖の地震で女川原発1・2・3号炉が自動停止―設計用最強地震を超える地震動!―
『原子力資料情報室通信』375号より(図表略)
追加情報
cnic.jp/214
cnic.jp/220
8月16日午前11時46分に宮城県牡鹿半島の沖で発生したマグニチュード7.2(震源の深さ42キロメートル)の地震で、東北電力の女川原子力発電所にある3つの原子炉がすべて自動で緊急停止しました。
原子炉が停止した直接の理由は「地震加速度大」で、地震の揺れの大きさが表1に示した設定値を超えたためです。こんどの場合には、原子炉停止用の地震感知計で横揺れが200ガル(ガル=1cm/s2)を超えたことを検知して、原子炉が自動停止しました。
■3度目の自動停止で女川原発は?
女川原発は、地震によって原子炉が自動停止したことがこれまでに2回あります。1回目は1993年11月27日の宮城県北部で起きたマグニチュード5.9の地震のときで、1号炉の出力が急上昇したことに対して制御棒の緊急挿入の機構がはたらきました。燃料集合体が地震によって揺らされたことが原因だとメーカーは説明しています。2回目は2003年5月27日に宮城県沖でマグニチュード7.1の地震が起きたときです。このときは3号炉が「地震加速度大」により自動停止しました(1・2号炉は定期検査のため停止中)。その時の揺れの大きさは最大225ガルでした。
今回の地震で女川の3つの原子炉にどのような影響があったのか、まだ詳しいことは公表されていません。3号炉の原子炉建屋にある見学者用ギャラリー室の窓ガラスにひびが入った被害があったほか、構内にある環境放射能測定センター屋上に設置されている希硫酸タンクからの希硫酸約45リットルの漏えいが見つかった、ということが発表されていますが、規定の時間内に制御棒が挿入されたか、原子炉の圧力や水位の状態はどうだったのか、シュラウドや配管のひび割れにどんな影響をあたえたのか、などなど、非常に気になります。
女川原発以外では、東通1号炉(試運転中)、福島第一2・3・5・6号炉、福島第二2号炉(福島第一1・4号炉、第二1・3・4号炉は定期検査やトラブルで停止中)、柏崎刈羽2・3・4・6・7号炉(1・5号炉は定期検査で停止中)は運転を続けていました(東海第二は事故停止中)。地震の揺れによってプールの水が揺れ、水面近くに設置してある換気口へ流入し、空調ダクトの継ぎ目から漏れでているのが、福島第一2・6号炉、福島第二4号炉でみつかりました。
■「設計用最強地震」の想定を超える揺れの大きさ
今回の地震で設計の想定を超える地震動が女川原発を襲ったことが明らかになりました。
原発の耐震設計用の地震には2種類あります。「設計用最強地震」(歴史地震と1万年以内に動いた活断層による地震から想定)と「設計用限界地震」(5万年以内に動いた活断層による地震とM6.5の直下地震とから想定)です。原発を設計する側からみてかんたんにいえば、設計用最強地震は起こりそうな最も大きな地震、設計用限界地震は起こりそうもないが万一を考えて想定する地震、ということになるでしょう。
女川原発ではそれらの地震による揺れの大きさを、すこし余裕をみこんで表2のように想定したと、それぞれの原子炉の設置許可申請書に記述しています。
8月16日の地震によって、女川1号炉の原子炉建屋基礎部分(地下2階)で最大251.2ガルが観測され、設計用最強地震による想定地震動を超えていたというのです。起こりそうな最も大きな地震を超える地震が現実に起きてしまったのです。これは、電力会社およびメーカーの設計上の想定が不十分であり、さらには国の安全審査に重大な欠陥、ないしは手抜かりがあったことになるのではないでしょうか。
非常用炉心冷却系、残留熱除去系(格納容器スプレイモード)のポンプや弁や配管、炉心シュラウド、炉心支持板、冷却水源としてのサプレッションプール、中央制御室、主要設備としての原子炉建屋などは、安全上大事なものでありながら、設計用最強地震に耐えることだけが求められています。今回の地震による揺れの大きさは、これらの施設・機器に対する想定範囲を超えていたことになります。これらのどれも曲がったりゆがんだりしていてもおかしくないのです。また、主蒸気系、タービン系、給水系のポンプ・弁・配管は、設計用最強地震に耐えることは要求されていません。
設計用最強地震の想定を超える地震の揺れが起きたことに関して、東北電力は、「原子炉格納容器、非常用炉心冷却系統などの健全性を確認した後に運転を再開する予定」と言っていますが、そんなのんびりした話ではないはずです。原発の耐震設計に対する重大な欠陥が明らかになったのですから、東北電力が原子炉設置許可を返上するか、原子力安全・保安院(経済産業省)が設置許可を取り消すかすべきでしょう。(上澤千尋)