ソープ再処理工場漏えい事故(続報)大事故を招いた「新プラント信仰」

ソープ再処理工場漏えい事故(続報)大事故を招いた「新プラント信仰」

『原子力資料情報室通信』375号より(図表略)

 イギリスのソープ(THORP)再処理工場で4月に確認された漏えい事故について、施設を運転している英国原子力グループ・セラフィールド(以下BNGS : British Nuclear Group Sellafield)の『調査委員会報告書』(以下『報告書』)が公開された。『報告書』はBNGの議長、調査委員、組合代表等数名に、工場の所有者である原子力廃止措置機関(以下NDA:Nuclear Decommissioning Authority)代表がオブザーバーとして参加しまとめたもので、あくまでもBNG内部のものだ。一方NDAの調査は今も続いており、結果は今年中にまとめられる予定である。

配管破断原因は「金属疲労」?

 ソープ再処理工場で4月18~19日、計量セル(計量槽の設置された小部屋)で約83立方メートルもの使用済燃料硝酸溶液の漏えいと、計量槽へ接続された配管が破断していることが確認された。商業再処理工場で、大規模な漏えい事故が発生したのである。次ページの図は、事故を起こしたソープ再処理工場の清澄・計量工程部分の断面図だ。図にはないが向かって左側に燃料プールや燃料の剪断(せんだん)工程があり、使用済燃料を硝酸に溶かした溶液が作られる。この溶液が図の清澄機供給槽→清澄機→分配機→計量槽→中間貯槽→次の化学分離工程へと移送される。清澄機は、硝酸に溶けない使用済燃料の残りカス(不溶解残渣)を遠心分離法によって分離する。計量槽では、次の工程で行われる死の灰(核分裂生成物)、ウラン、プルトニウムの分離のために、溶液の計量、硝酸濃度の測定・調整等が行われる。
 計量槽は2つ設置されていて(A,B)、破断した配管はB槽へ接続されていたもので、破断箇所は槽の上部と配管のノズルの部分だ(写真参照)。計量槽は図のように天井から吊下げられ計量台に4本のロッドによって支持されており、また上下に移動する仕様だった。さらに計量槽の当初の設計が変更され、容器の動きを抑制する目的の「耐震ブロック」が設置されていなかったことなどにより、配管の接続部分に“過大な負荷応力”がかかり「金属疲労」が生じていたために破断した、と『報告書』は断定している。

2004年7月頃から亀裂発生

 『報告書』は「金属疲労」の根拠として、1)運転中に計量槽が振動していたデータ、2)溶液の撹拌・吐出のサイクルの間に容器が動いていた記録、3)容器の振動サイクルが設計値より増幅された可能性等を指摘している。そして「配管が破断したのは2005年1月15日前後と推定されるが、これ以前からこの配管では漏えいが始まっており、それは2004年7月くらいまでさかのぼる」というのだ。漏えいがすでに事故発覚の約9ヶ月も前から発生していたことを示す証拠としては、2004年7月から溶液の発送受領データで核物質量の不一致が確認されていたことや、同時期から2005年3月までにサンプ水位警報器が100回以上警報を出したが、運転員がこれに注意を払わなかった事実が報告されている。

「新プラント信仰(NewPlantCulture)」

 『報告書』で一番驚かされる内容は、「新プラント信仰」とでも呼ぶべき考え方が、ソープ再処理工場の運転員らを支配していたという事実である。「計量担当者や運転員、チームリーダー、そして管理担当者ら、聞き取り調査を受けた全てのスタッフの回答は、このような規模の漏えいはありえないことであり、書類に何かの間違いがあるにちがいない、と彼らが信じていたというものであった。」「大規模な破断などありえないとする観念の奥には、ソープには漏えいなどあり得ない、最高の水準で建設された新しいプラントであるという思い込みがあった」等々、現場の生々しい声が報告されている。
 全工程にわたって大量の高レベル放射性物質を扱い原子力プラントとしての危険性と化学プラントとしての危険性を合わせ持つ再処理工場の運転員たちが、施設の持つ危険性を何ら自覚しないまま、工場の運転を10年間も続けていたのである。工場竣工直後だけではなく10年経っても、「新プラント信仰」が「ソープ工場内のあらゆるレベルに浸透している」というのだ。原子力産業における「安全神話」という虚偽性はこんな状態に至っている。私たちは「安全性」の考え方を、再度検証する必要に迫られているのではないだろうか。

事故調査自体が不可能

 『報告書』は、例えば配管破断の原因として腐食や応力腐食割れ、配管材料の欠陥などを否定している。しかしこの調査は、これらの要因を完全に否定できるだけの科学的な根拠を持っていないことも明らかだ。「破損したサイトを真近で検証できないため…、完全な結論を出すことは不可能である。」と『報告書』に述べられているように、ソープ工場では事故原因究明のための検証さえ高放射線のために阻まれているのが実情だ。また『報告書』は様々な膨大な運転データ等について「さらなる調査が必要である」、「調査を継続するべきである」としており、事故原因の特定にはほど遠い状態といえる。継続中のNDAの調査報告を待つ必要がある。しかしそれでも事故の全体像が解明できない可能性さえあることを、私たちは忘れてはならない。(澤井正子)

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