原発救済「最後の手段」  8兆円超を消費者にツケ回し?

暴かれた内部資料

 「原発の廃炉費用等 国民負担8兆円超を検討」というニュースが9月16日、テレビ朝日系列で報じられた。資源エネルギー庁の「内部資料」をすっぱ抜いたものだ。電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は、そんな検討が行なわれていることは知らないとしつつ、福島第一原発事故による賠償や廃炉の費用は東京電力の責任で取り組む、他の原発の廃炉費用は引当金として適切に積み立てられているとコメントしていたが、8兆円超とは、それらではまかなえないと「内部資料」が考えている追加額である。送電線の使用料である託送費用にそれを乗せて回収しようと、同資料は提案している。当然ながら電気料金に新たに上乗せされることとなる。

 福島第一原発の廃炉費用の追加4兆円については、さすがに全国から徴収はできない。東京電力管内の消費者の負担となる。3人家族の標準家庭の電気料金の月額を、個人的感想では高いと思うが約6770円(うち約2400円が託送料金)として、追加額は120円になるそうだ。

 一方、事故の賠償費用の追加3兆円は、着実に賠償を実施するためとの名目で、全国の消費者が一律に負担する。「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が成立する前の「過去分」なのだという。これに全国原発50基の廃炉費用の追加分1.3兆円を加えて月額60円の負担増。東京電力管内では合計180円の増である。

 と、これだけ具体的な試算をしながら、世耕弘成経済産業大臣は「現段階では検討していない」と否定した。

 

2つの委員会がスタート

 9月27日、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会に設けられた「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹委員会)」が初会合を開いた。当日配布された資料は、「廃炉会計制度の在り方」を検討課題の5番目に挙げたのみである。この委員会には、10月5日に初会合を開いた「財務会計ワーキンググループ」と7日に初会合の「市場整備ワーキンググループ」が置かれ、廃炉会計については前者で議論されることになる。9月26日付の電気新聞は、このワーキンググループのテーマを「原子力環境整備」と説明している。

 10月5日には、経済産業大臣が設置した「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)」も初会合を開いた。福島第一原発の廃炉・損害賠償の追加費用がここで扱われる。「内部資料」は、「貫徹委員会」と「東電委員会」の双方に向けた準備作業(根回し用?)だったということのようである。

 

両委員会初会合の中身

 両委員会は、それぞれ「電力システム改革」「東京電力改革」と「改革」イメージをふりまきながら、電力システム改革で不利となる原子力事業の救済、福島原発事故の重荷からの東京電力の救済を図ろうとしている。

「貫徹委員会」では、検討事項例の筆頭に「ベースロード電源市場の創設」が掲げられた。また、「非化石価値取引市場の創設」もうたわれている。原子力発電ばかりを優遇し、そのために託送料金が値上げされることへの新電力(大手電力会社以外の電力小売り会社)の反発を懐柔する狙いである。

 大手電力会社が抱え込んでいる「石炭火力や大型水力、原子力等の安価なベースロード電源」からの電気を新設の市場に供出させ、新電力もベースロード電源を安く調達できるようにします、というわけだ。電力システム改革上の名目は「さらなる事業者間の競争の活発化」である。

 原発の電気が安いといっても「リスクを持っている」(第2回総合資源エネルギー調査会電力基本政策小委員会での廣江譲電気事業連合会副会長=関西電力常務取締役の発言)と供出を拒んでいた電力会社の抵抗を抑え込んでの新市場創設を表面に押し出す作戦らしい。

 これに関し、『エネルギーフォーラム』10月号にとんでもない「妙案」が紹介されていた。「経産省としては、地元対策として柏崎刈羽の保有を東電から日本原子力発電に移管しつつ、実際の運営は東電に委託する形で再稼働に持ち込む。そして柏崎刈羽で発電された電気の3割程度を取引市場に放出するというアイデア」とか。もともとの現実性はともあれ、10月16日の新潟知事選で再稼働に慎重な米山隆一氏が当選したことで、いずれにせよ単なる与太話に終わった。

 閑話休題。非化石価値取引市場は、2016年4月に改正されたエネルギー供給構造高度化法により非化石電源(再生可能エネルギーと原子力)の調達を迫られながら手段が制限されている新電力の義務達成を後押しする新たな市場という。しかし、実際のところは、原発をより優位にするものだろう。

 「東電委員会」のほうは、東京電力や提携先の内部情報を含むとして非公開で開かれている。初会合後に記者会見をした伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院特任教授・元東京電力報酬委員会委員)によれば、委員会に出席した東京電力(4月からのホールディングカンパニー制移行により、正式名称は「東京電力ホールディングス株式会社」)の広瀬直巳社長は「国の救済措置を受けることなく、事故の責任をまっとうしたい」と述べたとされる。

 発言は10月6日付毎日新聞からの引用で、同紙は続けてこう報じている。「だが、広瀬社長は会合後、記者団に『(費用の)見積もりをしていくと、東電が債務超過(借金が資産を上回る状態)となってしまうリスクがある。制度的措置を作ってリスクを取り除いてほしいとお願いした』と国の支援が必要になる可能性を示唆。伊藤委員長も国による救済を『最後の手段』と認めた」。

 この「最後の手段」との表現を世耕経産相は、10月11日付の電気新聞で「あらゆる選択肢を排除せずに検討するが、救済策には否定的であるという点に重点があったと認識している」と説明した。このかんの経緯を見れば、その信頼性は低い。7月28日に東京電力がまとめ、「東電委員会」の設置を促したとされる「激変する環境下における経営方針」の作成者は「経産省から出向中の西山圭太執行役で、同省の『自作自演』(9月21日付東京新聞)というが、それはともあれ政府に対して以下の項目への方針表明を明瞭に求めていた。

 ①福島復興加速化に係る閣議決定の着実な実施及び取り組み強化

 ②当初見込みを上回る賠償費用の負担のあり方

 ③福島第一原子力発電所の廃炉の推進に対する支援・環境整備

 ④エネルギー市場における垣根のない競争環境の整備のあり方や、目指すべき電源構成の実現に必要な事業体制のあり方

 

不合理なコスト負担はまっぴらごめん

 信頼性は低いと述べたが、とはいえ経済産業大臣の言である。最後まで責任を持ってもらおう。新たな消費者負担も、それを託送料金に上乗せすることも「検討していない」「救済策には否定的」と。

 原発の電気は使いたくないと非原子力の新電力を選んだ消費者に、「これは過去に大手電力会社の電気を使っていた時の分」との言い訳で原発のコスト負担を求めるのは、明らかにおかしい。発電所でも送電線網でも、他の電力会社などに売れるものは多くあるのに温存し、3期連続の黒字決算は「合理化の成果」だなんて、やっぱりおかしい。

 再稼働・寿命延長のコストを抱える電力会社の原発離れをつなぎとめる、経産省にとってそれこそ「最後の手段」なのだろうか。      

 (西尾漠)