福島第一原発の最終形の議論なしに汚染水の海洋放出やデブリ取出しをすべきでない

『原子力資料情報室通信』第559号(2021/1/1)より

福島第一原発(以下、1F)では廃炉作業が行われているが、福島県は事故から30~40年で「放射線のない更地にする」ことを求めている。一方、中長期ロードマップは建前上これを踏襲しているが、建屋解体以降の扱いについては曖昧なままである。
この状況に一石を投じるような報告書を原子力学会が公表した。同学会の福島第一原子力発電所廃炉検討委員会による「国際標準からみた廃棄物管理」(20年7月公表)1がそれだ。報告書は、廃炉を進めるには原発サイトの最終的な状態(エンドステートと表現している)をあらかじめ設定することが重要で、この設定は廃炉に関する多様な課題解決、また、福島復興の将来像と密接に関係しており、ステークホルダー間での議論を深化させるきっかけにしてほしいとしている。
そして、報告書では1Fの廃炉で発生する放射性廃棄物の推定も行っており、これを含めて、本号ではこの報告書の内容を紹介したい。

福島第一で発生する放射性廃棄物の推定
報告書は表のように推定している。今日の時点での量である。区分の説明が記されていないが、ここで注目しておきたいことは、通常炉では推定されるクリアランスレベルや放射性廃棄物でない廃棄物に区分されるものがない点である。多核種除去設備で発生するフィルターや吸着塔、免震棟や事務棟などの建物や立木なども放出された放射能で汚染されているのだから、当然ではある。汚染の激しさをよく示している。報告書は1Fに特化した放射性廃棄物でない廃棄物の区分の考え方の整理を課題としている。課題ではあるが、廃棄物の量を減らすために基準を緩和されることがあってはならない。
なお、日本では使用済核燃料は有価物であり、廃棄物として定義されていないから、燃料デブリも形式上は含まれないことになるが、「現実的に考えて」含めたとしている。

エンドステート議論のための4シナリオ
廃止措置の基本的な方針は次の3つのどれかになる。1)即時解体、2)遅延解体、3)長期保管。
即時解体は日本の原子力事業者がとっている方針である。汚染の強い原子炉の解体までに10年ほどの安全貯蔵期間を設けているが、周辺設備や施設から解体を進めている。遅延解体はイギリスが採用している方針と言える。80~100年ほど保管したのちに解体する方針だ。チェルノブイリの石棺方式もこれにあたるといえる。長期保管は解体せずに放射能の減衰を待つ方針だ。シナリオ作成では長期保管を除いている。なお、シナリオでは遅延解体を安全貯蔵と表記している。
他方、エンドステートの想定として、1)機器・構造物および汚染土壌・地下水等の汚染が全て取り除かれた状態(以下、全撤去)、2)機器・構造物および汚染土壌・地下水等の汚染の一部を管理・監視する状態(以下、部分撤去)、の2パターンを設定している。これらの組み合わせによりシナリオは4つとなる。
1) 即時解体・全撤去:全ての機器、建屋などが解体され、サイト内全域が修復される。発生する放射性廃棄物は全てサイト外へ搬出される。サイトは解放され、利用に制限はない状態となる。
2) 即時解体・部分撤去:機器、建屋の地上部を解体撤去する。部分的にサイトが修復される。地下構造物はそのまま管理を継続。サイト内の汚染土壌や地下水などの一部を処理・撤去。発生する放射性廃棄物は処分施設に搬出できるまでサイト内の保管エリアに保管。なお残存する放射性廃棄物は管理・監視を継続する。サイト利用は制限付き解放となる。
3) 安全貯蔵・全撤去:一定期間の安全貯蔵後に、全ての機器、建屋などが解体され、サイト内全域が修復される。発生する放射性廃棄物の全量を必要に応じてサイト内の保管エリアに保管し、処分施設が確保された時点で搬出する。サイトは解放され、利用に制限はない状態となる。
4) 安全貯蔵・部分撤去:一定期間の安全貯蔵後に解体する。解体や対象廃棄物などは2)と同様。サイト利用は制限付き解放となる。

シナリオの時間軸
どのシナリオも施設や建物の除染・解体を実施した後に、土壌や地下水などの処理といったサイト修復を行い、サイトが解放されることになる。そこで、即時解体の場合の時間軸は除染解体に30年(ロードマップを踏襲)サイト修復完了までに100年と置いている。また安全貯蔵の場合は廃炉完了までの期間を100年としている。放射性廃棄物の管理・監視継続期間を300年としている。安全貯蔵期間を長く取れば、放射性物質はそれに応じて減少し、処理・処分すべき放射性廃棄物の物量も減少する。

デブリ取り出し困難の場合
燃料デブリの取り出しの着手は21年からとされている。まずは少量の取り出しが行われ、性状が確認される。溶融燃料がコンクリートと反応し岩石のように固まったコリウムも存在する。これらの取り出しのための機器の設計・製作はこれからであるが、そのためにはどこにどのように燃料デブリやコリウムが存在しているかを調査する必要がある。この調査ができない。強烈な放射線により、無線が使えない、集積回路が破損する、レンズが変質し見えなくなる、などの障害が起きる。こうした機器の開発がいまだ途上なのである。現行ロードマップの時間内で、これらの取り出しが可能だとはとうてい考えられない。
こう考えると、必然的に安全貯蔵期間をとるシナリオ3)もしくは4)にならざるを得ない。

廃炉が終了するとは

市民の間では廃炉が一般的な言い方だが、法的には廃止措置という表現が使われている。報告書では、1Fは通常の廃止措置とは異なるので、廃炉という表現を使っている。それはともかく、廃止措置が終了の条件とは、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」では、1)核燃料物質の譲渡の完了、2)敷地の土壌および残存施設の放射能の除去(基準以下)、3)放射性廃棄物の廃棄の終了、4)放射線管理記録の引き渡しの完了、の4点である(121条)。
福島第一ではこれらの条件をクリアすることはできないだろう。なによりも条件3)が不可能だ。放射性廃棄物を引き受ける自治体はないだろうからだ。1Fは放射性廃棄物の管理施設と位置付けて数百年にわたって監視を継続することになるかもしれない。

私たちとしてなにが教訓・参考となるか
報告書は汚染水は処分されたことを前提としているが、安全貯蔵を継続する場合には、海洋放出を前提としなくてもよいことになる。全国の漁業者団体、多くの自治体が反対していることから、政府としても海洋放出の決定をすることができないでいる。海洋放出の前にエンドステートの議論を進めていくことが求められている。

1:

国際標準からみた廃棄物管理 -廃棄物検討分科会中間報告 -(2020年7月)https://www.aesj.net/permalink/%e5%9b%bd%e9%9a%9b%e6%a8%99%e6%ba%96%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%bf%e3%81%9f%e5%bb%83%e6%a3%84%e7%89%a9%e7%ae%a1%e7%90%86-%e5%bb%83%e6%a3%84%e7%89%a9%e6%a4%9c%e8%a8%8e%e5%88%86%e7%a7%91%e4%bc%9a%e4%b8%ad/

(伴英幸)