原発の老朽化を問う[第1回] 高浜1、2号機&美浜3号機延長認可等取消訴訟 脆性破壊を警告する知見を受け止めなかった不当判決
『原子力資料情報室通信』第617号(2025/11/1)より
老朽原発40年廃炉訴訟市民の会 柴山 恭子
やっぱり。証人尋問のときには、すでに判決の筋は考えていたんだ…。証人尋問で懸念を抱いた裁判官の質問が、判決文の中で何度も出ていました。
関西電力高浜原発1、2号機と美浜原発3号機の運転期間延長認可等取り消し訴訟で、今年2025年3月14日、名古屋地裁民事9部(行政訴訟専門部)は、東電福島原発事故の深刻な被害の現実に向き合わず、同事故前と変わらない原子力規制委員会のずさんで無責任な許認可を追認する不当判決を出しました。全面的に被告・国(原子力規制委員会)の主張を書き写したような内容で、核燃料サイクルに至っては「取組みは続けられており、核燃料サイクルが破綻しているということはできない」とまで書く国策盲従の判決です。私たちは、当然ですが控訴して、名古屋高裁での審理が始まっています。
原発事故の被害の現実に向き合わない判決
当訴訟では、東電福島原発事故の被害の甚大さや深刻さを度々取り上げ、このような事故を二度と起こさないための原子力規制や司法判断でなければならないことを強く裁判官に訴えてきました。
しかし、判決本文約380ページ中(高浜事件)、東電福島原発事故について述べているのはわずか1ページ。しかも事故の概要のみで被害については一切記述がありません。また、判決が書いている事故の概要も、私たちが強調してきた、これでも想定された最悪の事故ではなかったという現実にも触れていません。
同事故において、冷却水が供給できなくなった4号機の使用済み燃料プールの当初の冷却ができたのは、工事の遅れにより隣の原子炉ウェルに水が張られていて、間の仕切りが何かのきっかけでズレてプールに水が流れ込んだからとみられています。全くの偶然によって東日本壊滅(当時の原子力委員会委員長・近藤駿介氏によるいわゆる「最悪シナリオ」)が避けられましたが、判決では触れていません。
核燃料サイクル破綻の現実を直視しない判決
当訴訟では、東電福島原発事故で現実のものとなった使用済み燃料プール、使用済み核燃料の危険性を踏まえ、20年もの運転期間の延長を認めるにあたり、安全に保管できるのか、処理・処分されるのかについて審査をしていないことの違法性も追及してきました。現実として、関電の原発の使用済み燃料プールの空き容量はひっ迫していて、高浜原発では3年くらいで満杯になります。長年に渡り関電は、福井県との間で使用済み核燃料の県外搬出を約束してきましたが、県外中間貯蔵施設建設の目処もなく、核燃料サイクルが破綻する中で、なし崩し的に原発サイト内に乾式貯蔵施設を建設しようとしています。
しかし、名古屋地裁は、高速増殖炉もんじゅが廃炉になっても核燃料サイクルは破綻していない、適切に処理される方針が審査されたと判断しました。
使用済み核燃料の行き場もないのに、老朽原発を使い尽くそうという無理無謀な原発回帰政策を支える判断に強く抗議します!
控訴理由書では、核燃料サイクル破綻、使用済み核燃料の行き場がない問題を補強しました。
脆性破壊のおそれが高まる高浜1号機の認可取り消しは認めてほしかった
裁判官が原発の許認可を取り消したり、運転差し止めを認めやすいのは、他の原発に影響しない個別の事情がある場合、と考えると、せめて高浜1号機の原子炉容器が非常にもろくなっていることと、美浜3号機の震源極近傍問題で勝訴できないかと願っていました。
原発の心臓部である核燃料を入れた鋼鉄製の原子炉容器は、長年、中性子を浴び続けて鋼鉄がもろくなります。これを中ちゅうせいし性子照しょうしゃぜいか射脆化と言います。
高浜1号機(今年で運転開始51年)は、原子炉容器の中性子照射脆化が全国の原発の中で最も進んでいる数値が出ています。
中性子照射脆化の進み具合を監視するために、原子炉容器と同じ鋼材の監視試験片を炉内に入れておき、10年おきくらいに取り出してもろさの具合を調べます。その結果と予測式などを使って、今後、運転を続けると原子炉容器がどのくらいもろくなるかを予測評価する決まりになっています。地震による配管破断などで原子炉容器に冷却水が届かなくなった場合に緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動し、原子炉容器が冷却水で一気に冷やされ収縮した時に、外面との温度差で強い引っ張り応力がかかります。この時に内面にひび割れがあると、ひびを広げようとする力を受けて、原子炉容器がもろくなっていると脆性破壊を招いてしまうからです。
この脆化の将来予測をする評価手法として、原子力規制委員会は、日本電気協会が作った規格を採用しているのですが、その評価手法には様々な問題があって過小評価となっています。高浜1号機は、この現行の手法でも運転開始60年時点の脆化予測はかなり厳しく、脆性破壊の危険ラインが迫っていますが、保守的(安全側)に適切に評価すると50年目の評価時点(2022年末)でも脆性破壊の域に入っていることを当訴訟で徹底的に明らかにしました。
しかし、裁判官は被告の主張に依拠して評価手法は不合理ではないとしました。
「疑わしきは老朽原発の運転のために」
高浜1、2号機と美浜3号機の原子炉容器内に装荷された監視試験片のカプセルは8体で、1カプセル当たりシャルピー試験片44体、破壊靱性試験片4体、引張り試験片4体が入っています。脆化予測に使うのはシャルピー試験片と破壊靱性試験片です。シャルピー試験は、振り子を振り下ろして試験片を割り、その吸収エネルギーを測定する簡易な方法で、機械で引っ張って材料の粘り強さを計測する破壊靱性試験の方が正確に測定できるのですが、破壊靱性試験片は大きいため、カプセルに少ししか入っていません。そこで、脆化予測においては代替的にシャルピー試験片から得たデータを使って予測曲線をシフトする手法を使っているのですが、この手法が過小評価であると当訴訟で主張してきたところ、2023年7月に原子力規制庁が公表した実機のデータによりこれが裏付けられ、1審の証人尋問の主要な論点の一つになりました。*1
判決は、同実機データにそのようなことは一定程度認められるが、今の手法を否定するほどの専門的な知見はないとしました。原告側が専門的な知見に基づき立証した一方で、被告側の証人は、そのデータにつき判断を避けました。そのような時、司法は「疑わしきは安全のために」、つまり保守的な(安全側の)知見、危険を警告する知見を考慮して判断すべきだと原告側は訴えてきたのに、「疑わしきは老朽原発の運転のために」判断してしまいました。
中性子照射脆化の将来予測の評価手法に問題なしとした「技術評価において付加された条件」
原告側証人の井野博満さん(東京大学名誉教授、金属材料学)の証人尋問の最後に裁判官からの質問があり、判決を起案したとみられる佐久間隆裁判官は、「原子炉から取る破壊靱性試験片は、将来の加速照射されたものですよね。放射量が今よりも多くの放射線を受けた、将来の状態を示した試験片が取れますよね。」「(シャルピー試験片のほうはシフト量不足の問題があるかもしれないが破壊靱性試験片はないので)それで将来部分を確認して、それまでに新しいのを取り出していって、60年後の様子まで確認した場合に、まずいことはありますか。」「もう少しすると、60年分くらいの加速照射されたものが取れるんじゃないでしょうか。」などと質問しました。
監視試験片カプセルは、炉壁よりも核燃料に近い位置に装荷されるため、炉壁よりも多くの放射線を受けており、その試験片を取り出して試験することにより、炉壁の脆化の先読みができる、取り出した試験片の放射線量に炉壁が達する前に次の試験片を取り出してさらに先の予測をするから問題ないという認識で、これは被告が主張していたことです。
判決では、「原子炉圧力容器内面における中性子照射量が各原子炉施設から取り出された監視試験片の中性子照射量を上回る前に新たな試験片を取り出し、追加データも用いて特定時点の関連温度を再予測することとする条件(以下、「技術評価において付加された条件」という)」があるから問題ないとした箇所がいくつもあります。概略を紹介しますと、
▶(脆化予測式自体に問題があって正しく予測できないことについて)それぞれのパラメータの意味が脆化のメカニズムを正確に反映していない可能性は否定できないものの、中性子照射量が高い領域では従来の予測以上に脆化するメカニズムがある可能性を考慮して「技術評価において付加された条件」等の対策をしていることも考慮すれば予測式が現在の科学技術水準に照らして不合理であるということはできない。
▶(高浜1号機の30年目時点と40年目時点で行った60年目の脆化予測評価が大きく違っていることについて)「技術評価において付加された条件」なども考慮すれば、高照射領域において予測を超える脆化が生ずる可能性は否定できないとしても、現時点において現行手法による予測が不合理であるということはできない。
▶(実測値が予測値を超えた場合に実測値から更にマージンを上乗せしないことについて)「技術評価において付加された条件」などの種々の保守的な考慮がされていることからすれば不合理であるということはできない。
▶(シフト量不足と見られるようなデータがあるとしても)「技術評価において付加された条件」等を付していることも考慮すれば審査基準が不合理であるということはできない。
▶(高浜1号機の50年目時点の脆化予測が40年時点の評価よりもさらに脆性破壊の域に近づいたことについて 注:しかもその間、ほとんど運転を停止していて照射量の増加はわずかだった)シフト量が十分でない可能性をうかがわせる事情といえるが、「技術評価において付加された条件」等の条件を付していることや評価の全体として保守的な条件があるから直ちに評価手法が不合理とはいえない。
佐久間裁判官は中性子照射脆化の論点について一定の理解を示していました。その上で、こんな理屈づけを考えて、証人尋問で質問していたのかと思うと悔しいです。
なお、裁判官は通常3年で異動するところ、佐久間裁判官は判決時に4年目でした。判決後、最高裁の調査官に異動となっていました。そういえば、2020年、同じ名古屋地裁民事9部で、争点をよく理解していて、この裁判体で判決を書くと言って主張・立証を急がせた結果が「最低最悪」と評される判決だった生活保護基準引き下げ取消訴訟でも、起案を担当したとみられる佐藤政達裁判官が、判決後に最高裁調査官に異動となっていたなぁと思い出しました。
試験片自体に問題も求められる将来予測の保守性
確かに、高浜1号機の5回目の監視試験(50年時点の評価)で取り出した監視試験片の照射量は運転開始後約63年に相当するとされています。その評価でギリギリ脆性破壊の域に入っていなかったからとしても全く安心はできません。シフト量不足に加え、規制委員会自身が、照射量が高い領域では従来の予測以上に脆化するメカニズムがある可能性を否定できないとしています。取り出した試験片が予測よりもずっと脆化が進んでいる可能性もあります。
そもそも破壊靱性試験片は数が少ない上、試験結果のばらつきが大きいといわれています。もともと1回の試験あたり4体しかない破壊靭性試験片ですが、低温から高温の4段階の温度で試験をして、高温では延性破壊してデータがとれないため、とれるデータは1回あたり2、3個。40年目の評価までの4回の試験全て合わせても高浜1号機が9個、同2号機が10個、美浜原発3号機が12個と極めて少ないのです。しかも、関電の破壊靱性試験片は一つのカプセルの中に、母材か溶接金属かどちらか1種類しか入っておらず(他の原発では両方入っています)、1回の試験でどちらかのデータしか得られていないのです。高浜1号機で見ると、4回の試験のデータ9つのうち、母材は5個、溶接金属は4個です。このように少ないデータで脆化を適切に捉えることができるでしょうか。それに、4回目の試験(40年目の評価)で溶接金属しか試験していないので、肝心の母材の脆化は把握できていません。シャルピー試験片は母材と溶接金属を両方入れており、それぞれの脆化を別々に評価していることから、両方を把握する必要性は明らかで、過去のデータを全部使っているから問題ないという被告の主張を容認してしまった判決は不当です。控訴理由書では、破壊靱性試験片の少なさを他の原発と比べて主張しました。
さらに、本件3基の破壊靱性試験片はWOL試験片という今は原発では使われていないタイプで、試験方法を定めている規格にもありません。今はCT試験片が使われています。WOL試験片は破壊靭性値を正しく測定できない問題があります。WOL試験片をCT試験片と同じように扱うには、WOL試験片にサイドグルーブと呼ばれる溝をつけて破壊しやすくするなどの修正を行う手法があるそうですが、原子力規制委員会が審査の中で、WOL試験片が適切な方法で試験されたかどうかを確認した記録はありません。いや、破壊靱性試験片がWOL試験片であることさえ記載されていませんでしたし、当訴訟では、被告も関電も、破壊靱性試験片として現在使われているCT試験片の図を書いて主張を行ってきました。*2 WOL試験片に気づいて原告側が主張したところ*3 関西電力は、回転アダプタを取り付けるなど適切な方法で試験を実施している、試験片にサイドグルーブ加工を行うなどの都度改良も行いながら試験を行っていると主張しました。判決では、回転アダプタを取り入れているから問題なしとしましたが、それで適切に試験できているかどうかを規制委員会が審査していないことはスルー。また、関電が都度改良していることもスルーしています。試験ごとに加工を変えて試験していいのでしょうか? 規制委員会の審査もなく。
そして、緊急炉心冷却装置が作動して冷却された時の原子炉容器にかかる力の想定においても過小評価となっていて(通信第604号でご報告したクラッドいいとこどり問題)、こちらも適切に評価すると、高浜1号機の原子炉容器の中性子照射脆化は50年目の評価時点(2022年末)でも脆性破壊の域に入ってしまうのです。
規制委員会が定めた運転期間延長認可の運用ガイドでは、「照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価」を求めているのに、評価が全く保守的ではないことを控訴審でも追及していきます。
名古屋高裁での控訴審は第1回が10月9日に行われました。次回は来年2月27日です。引き続き、ご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。
老朽原発40年廃炉訴訟:運転開始40年を超える関西電力高浜原発1、2号機と美浜原発3号機の運転期間延長認可や設置変更許可等関連する許認可を対象として、その取り消しを求める行政訴訟。被告は国(原子力規制委員会)、関電は参加人として訴訟に参加。争点は大きく分けて4つ、①老朽化(原子炉容器の中性子照射脆化、電気ケーブル)②地震③火山④その他(使用済み核燃料の保管や核のごみ最終処分先確保の審査不存在ほか)。『原子力資料情報室通信』第604号(2024/10/1)で、中性子照射脆化についての証人尋問の成果を報告。判決や控訴理由書はホームページに掲載。 toold-40-takahama.com
*1 『原子力資料情報室通信』第604号(2024/10/1)掲載の証人尋問報告参照 cnic.jp/59821
*2 関電は福井県にはWOL試験片の図を提出していた。左図は2016年5月13日第85回福井県原子力安全専門委員会の関電資料より(WOL試験片にサイドグルーブがみられる)。右図は2021年10月28日付関電の高浜準備書面(11)より。CT試験片が描かれている。
*3 2023年5月19日付原告準備書面(105)で主張。原子力規制庁は、同年12月12日「高浜発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(1号炉の高経年化技術評価等)に関する面談」において関電に対し『「破壊靭性試験片」の種類を記載すること』を求め、同社は翌年3月28日の面談で「WOL試験片」に修正したと報告。WOL試験片であることを審査したことを示すためか。



原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。