原発の老朽化を問う[第2回] 高浜1、2号機&美浜3号機延長認可等取消訴訟 老朽原発の危険性に向き合わなかった名古屋地裁判決の問題点
『原子力資料情報室通信』第618号(2025/12/1)より
弁護士 小島 寛司
名古屋地裁判決
2016年4月14日、関西電力高浜原発1、2号機の運転期間延長認可の差し止めを求めて名古屋地裁に提訴した老朽原発40年廃炉訴訟(認可後、請求を取り消しに変更、のちに美浜原発3号機も提訴)は、約9年が経った2025年3月14日、名古屋地裁民事9部(行政訴訟専門部)によって判決が言い渡されましたが、判決は原告らの請求を棄却する不当なものでした(一部の原告については原告適格がないとして請求却下)。
高浜原発1号機、同2号機、美浜原発3号機は日本で稼働する最も古い原発です。
原発の運転期間を原則40年に制限し、例外的に20年の延長を認める制度は、福島原発事故の教訓を踏まえた大きな制度改正でした。
原告らは、ただでさえ危険な原発に、さらに老朽化という二重の意味で危険であり、現在の原発の審査内容は、老朽化に関する審査が不十分であり長期運転における安全性を確保できないと裁判において訴えてきました。
しかしながら、裁判所は、被告国の主張を安易に認め、老朽原発について原子力規制委員会の審査には問題がないと結論付けてしまったのです。
各論点についての判決概要
まず、本判決は、司法審査の在り方について、被告国に、新規制基準適合性審査において用いられた具体的審査基準及びこれに基づく基準適合判断に不合理な点がないことの立証責任を負わせながら、規制行政の判断を安易に追認し、これらに不合理な点は認められないとしました。福島第一原発事故後、安全を高め、規制行政に厳格な審査を行わせるよう原子力関連法令等が改正されたにもかかわらず、今や裁判所は同事故を忘れ、行政盲従の姿勢を鮮明にしていると言わざるを得ません。
老朽化の問題に関しては、詳しくは後述しますが、判決は各論に終始しており、原告らが主張した老朽化による総合的な危険性や型の旧(ふる)さなどの総論についてはおよそ判示すらしませんでした。私たちはこの点は大きな問題であると考えています。
原子炉圧力容器の中性子の照射による脆化に関する審査についても、基本的に被告国の主張を受け入れ、現状の規制基準は種々の保守性を有していて不合理ではなく、審査及び判断の過程にも看過し難い過誤、欠落があるとは認められないとしました。
電気ケーブルなどの問題においても、国の主張に追随する内容に終始していました。
地震動に関する審査については、美浜原発3号機における震源が敷地に極めて近い部分について白木(しらき)‐丹生(にゅう)断層と敷地全体との最短距離を600mと認定しましたが、これについて、被告国の後付けの理屈をもって震源が敷地に極めて近い場合に該当しないと判断してしまいました。この点は、原子力規制委員会が自ら示した2kmや1kmといった目安に照らしても、明らかに誤りというべきです。
さらには、火山に関する審査では、原子力規制委員会は、現在の火山学において噴火の時期や規模を予測できないことを認めながら、分かることやできることだけに対処すればよいという前提に立ち、大山(だいせん)における過去最大規模の噴火(大山倉吉噴火)を考慮する必要はないなどとしました。できることだけに対処してきた結果として福島第一原発事故が起こったことをこの判決は見落としているのではないでしょうか。
また、令和元年火山ガイドは、平成25年火山ガイドを非保守的に変更したようにも読めるとしながら、後付けの「基本的な考え方」を根拠として、非保守的な変更ではないとしました。このような判断を許せば、後から理屈を考えれば、実際上ルールを変更しても許されるということになってしまいかねません。極めて問題の大きい判決といえます。
中性子照射脆化とPTS問題の控訴内容
以下では、原子炉容器の中性子照射脆化(ちゅうせいししょうしゃぜいか)(長年、中性子を浴び続けると原子炉容器の鋼鉄がもろくなる)の論点について、名古屋地裁判決の不当性に触れながら、控訴理由書の一部をご紹介します。
なお、同論点では、中性子照射脆化が進んだ原子炉容器がPTS(加圧熱衝撃。配管破断などで緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動し、原子炉容器が冷却水で一気に冷やされ収縮した時に、外面との温度差で強い引っ張り応力がかかること)に耐えられるかが審査されますが、その詳細なメカニズム等は本原稿では割愛させて頂きます。
▶運転期間延長認可における司法審査枠組みについて
まず、私たちは控訴理由書において、名古屋地裁判決がほとんど判断をしなかった老朽化の総論的論点について、あらためて強調して主張しました。具体的には、控訴理由書において、老朽化全般の危険性・リスク等、特に型の旧さや劣化管理の困難性等をあらためて主張しました。また、40年ルール策定の経緯についても改めて主張しました。
その中でも今回特に強調したのが、運転期間延長認可制度が、現在時点の原発の状態・危険性を審査するだけでなく、現在の劣化状況を前提として延長しようとする20年の期間経過後という将来の状態・危険性を予測する点で、極めて不確実性の大きい事柄を審査するものとならざるを得ないという点です。
特にこの観点から、通常の設置(変更)許可の場面以上に、不確実性を適切に織り込んだ安全性判断が重要となると主張しました。
この点、弁護団でも議論を重ねたのですが、老朽原発であることから求められる安全の水準は通常の原発でも老朽化原発でも異なるところはなく、判断枠組み自体に違いはありません。
とはいっても、老朽化原発が通常の原発と比べて重大事故を生じさせやすいことは、既に述べたことを思い返さずとも一般的な感覚として明らかであり、実際に安全かどうかについては、老朽化原発や延長認可制度の特殊性を踏まえた個別の具体的判断が不可欠となる、と主張しました。
また、私たちは控訴審においては、あらためて下山憲治教授の見解に基づく主張を強調しました。すなわち、科学に不定性(不確実性)が存在する場合に、行政庁の判断に過誤、欠落がなく、行政庁の判断が不合理とはいえないと評価されるためには、次のような観点が考慮されるべきであると主張しました。
①その時点において利用可能で、信頼されるデータ・情報のすべてが検討されていること
②採用された調査・分析及び予測方法の適切性・信頼性が認められること
③法の仕組みや趣旨などに照らして必要な権利・法益のすべてを比較衡量していること
④その選択・判断のプロセスが意思決定の理由と共に明確に示されていること
⑤全体を通じて判断に恣意性・不合理な契機が認められないこと
⑥事後的に、必要に応じて当初の決定内容を修正・変更する義務が尽くされていること
これらの各点について、被控訴人側はすべてを満たしていることを立証すべきであり、いずれか1つでも満たさない場合には、行政庁の判断に過誤、欠落があると推認すべきである、と主張しました。
本来、こういったより緻密で分析的な観点から司法審査がなされなければいけないというべきです。
▶運用ガイドに基づく「照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価」を行っていないこと
私たちは原子炉容器の中性子照射脆化の問題についていくつかの主張を展開していますが、ここでは表記の論点に関する主張をご紹介したいと思います。
以下、控訴理由書を抜粋します。
「運転延長認可申請に際し、実用炉規則第113条第2項第2号は、「技術的な評価の結果を記載した書類」の提出を求めている。
そして、その運用ガイド(甲B76)は、「3.2 実用炉規則第113条第2項第2号の「延長しようとする期間における運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況に関する技術的な評価の結果を記載した書類」について、以下の通り規定する(傍点は控訴人ら代理人。以下同じ)。
「(1)…(前略)…特に運転期間延長認可申請に伴うものとして評価を行い、その結果の記載が求められる事項は次のとおり。
①上記3.1の特別点検の結果を踏まえた劣化状況評価。
②運転開始後30年を経過する日から10年以内のできるだけ遅い時期に取り出した監視試験片の試験結果(監視試験片の取り出し時期は、試験等に要する期間(3年程度を目安)を考慮した上で、1.の申請書の提出期限に最も近い定期事業者検査(原則として計画外の原子炉停止によるものを除く。)とする。)。
③加圧水型軽水炉に係る上記②の試験結果に基づく健全性評価等における以下の事項。
・(略)
・照射脆化の将来予測を伴わない実測データに基づく評価及び照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価。
・原子炉容器炉心領域内表面から深さ10ミリメートルの部位における破壊靱性値を用いた加圧熱衝撃評価。」
以上の通り、運用ガイド③の二つ目の「・」においては、単に実測データによる現時点の健全性評価だけでなく、将来予測の場合には別途保守性を求めている(以下、この条項を「将来予測の保守性条項」という)。
これは、現時点の脆化の状況すら正確に把握できず、予測に頼らざるを得ないことに加え、更に20年といった長期間稼働を続けた場合に状況の予測はより一層困難となるし、国内外問わず稼働期間40年を超えるような高照射領域は未知の部分が大きく、前述の通り外挿については原子力規制委員会自体が否定的であること、そして、原子炉の健全性が保たれない場合のリスクが極めて大きいことからして、合理的な規定といえる。
上述の通り、将来時点の安全性を評価する以上、その不確実性を考慮して特に保守的な評価がなされているべきことは、運転延長認可において、安全性審査の根底に共通する留意事項であるが、「将来予測の保守性条項」は、そのような観点を破壊靱性値の把握について特別に定めたものであるといえる。」
「…(現状の審査基準の列挙)…以上のように、これらの審査基準は、一定の評価時点における原子炉容器の脆化の度合いを評価するものとして規定されているものの、「将来予測の保守性条項」が規定するような「照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価」を規定したものとはいえない。(中略)
原判決は、高いフィッティング性があれば、「それ自体をもって本件保守性条項に基づく保守的な将来予測がされているということができる。」とするが、高いフィッティング性が仮にあるとすれば、②技術基準規則に定める基準として合理性があると言いうるとしても、①延長しようとする期間(その期間の最終時点)において、原子炉その他の設備の劣化について保守性をもって将来予測を行ったとはいえないというべきである。」
私たちは、このように主張した上、ばらつき条項の不考慮を違法とした大飯原発に関する大阪地裁令和2年12月4日判決を参照して、本件において関西電力は、将来予測についての破壊靭性値の温度移行量についてこのような「将来予測の保守性条項」に基づく別個・独立の保守的な評価を何ら行っておらず、規制委員会はこの点を看過した、と主張しました。
そして、この過誤・欠落はデッドクロスの危険性を見落としかねない重大なものであり、その審査過程には重大な過誤・欠落があるというべきである、と主張しています。
▶クラッドの考慮について
私たちはPTSの想定についても違法性をいくつか主張していますが、ここではその代表的な主張である、クラッド(原子炉容器の内面に肉盛溶接されているステンレス製の内張り)の考慮の違法性を紹介したいと思います。
「原判決はp.327の第2段落において「クラッドに関する規定がないことをもってJEAC4206-2007が熱伝導解析でクラッドを考慮することを禁止しているとは認められず、現に本件各原子炉圧力容器表面にクラッドが存在する以上、熱伝導解析においてクラッドを考慮することは不合理であるとは言えない。」としている。そして、その根拠としては次の3点を主な理由としている。
ⅰ「JEAC4206-2007の基になったPTS調査報告書においても、熱伝導解析についてはクラッドを考慮し、応力解析についてはクラッドを考慮せずにPTS状態遷移曲線を設定していること」
ⅱ「高経年化技術評価に関する意見聴取会に提出された電事連の回答においても、…原子炉容器内表面にき裂のないクラッドがあり、母材き裂部分には直接冷却水が接触しない想定をしている(乙B113)が、これが問題視された様子はうかがわれない。」
ⅲ「JEAC4206-2007を策定した日本電気協会も、JEAC4206-2007においてクラッドに対する要求を規定しないが、クラッドを考慮した解析を禁止はしていない旨の回答…をしている。」
これらの根拠については、私たちは詳細に反論をしていますが、より根本的には、関西電力の解析は解析モデルを途中で変更をしており、それが保守的なものではなく応力拡大係数が小さくなる方法であえて行われている点が問題です。
PTSの解析においては、①熱水力解析、②熱伝導解析(温度分布解析と同義)、③応力解析、及び④応力拡大係数の解析の順に行われます。
「クラッドにおいては本件では、主に熱伝導解析及び応力解析において問題としている。
この点、参加人はPTS解析において、圧力容器の温度分布の解析ではクラッドの存在を考慮し、他方で応力解析や応力拡大係数の計算ではクラッドを考慮しない解析を行っている。つまり、熱伝導に関しては、クラッド部をステンレス鋼として扱い、応力解析ではクラッドを取り除いて計算を行ったことになる。
しかし、PTS解析は温度分布解析だけでなく、応力分布の算出から応力拡大係数を計算するという一連の過程を示すものである。技術的に考えても、一連の解析の途中で形状モデルを変更するのは合理的とは言えない。
また、これは下記で論じるように熱伝導解析では、熱伝導率が小さい(温度分布が緩和され、熱応力も小さくなり、応力拡大係数が小さくなる方に作用する)物性値で解析しておきながら、応力解析では熱膨張率が大きく熱応力も大きくなるクラッドを取り除いて母材のみで解析するものあり、不合理に応力拡大係数を小さい計算結果をもたらすものである」。
以上の通り、関西電力はクラッドについて解析モデルを途中で変更をしており、しかもそれが保守的なものではなく応力拡大係数が小さくなる方法で行われているという重大な問題があります。
名古屋地裁判決からは「実際にクラッドはあるんだからいいでしょ」という本音が漏れ出てくるようですが、そのような単純なものではなく、都合良く応力拡大係数が小さくなる物性値を利用した解析がされている(言わば「いいとこどり」)のであって、高度な安全性が求められる原発においては許されない解析なのです。
最後に
今回は、紙幅の関係で、中性子照射脆化に関する控訴理由のうち、ごく一部だけご紹介させて頂きました。私たち弁護団としては、今後も控訴審において名古屋地裁判決の不当性を認めさせるべく闘っていきますので、そのほかの論点も含め、老朽原発訴訟に引き続きご注目いただければ幸いです。
以上


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