[参考資料]内部放射線被曝リスク調査委員会(CERRIE)プレスリリース

[参考資料]内部放射線被曝リスク調査委員会(CERRIE:Commitee Examining Radiation Rusks of Internal Emitters)プレスリリース

発表:10月20日(水)午前11時

翻訳:米倉由子

レポート、内部放射線被曝への予防措置を呼びかけ

内部放射線被曝リスクに関する最新情報を考慮にいれられるよう、もっと断固とした行動をとる必要がある。リスクに関する情報が不確実であるため、我々が以前考えていた10倍のリスクに曝されている場合があれば、リスクは、殆どゼロである場合もあるかもしれないと言うことである。内部放射線被曝リスク調査委員会(CERRIE)が今日発表したレポートによれば、現在の内部放射線被曝リスク評価方法は不確定であり、内部放射線被曝問題取り扱い時に、政策立案者や監督機関は予防措置をとる必要がある。レポートは、こうした不確定にもっと注意を払うよう提言している。

レポートはまた、最近発見された放射線の影響、ゲノムの不安定性(細胞およびその子孫内の継続的、長期的突然変異の増加)、バイスタンダー効果(放射線を照射された細胞の隣の細胞もまた、損傷されることがある)、ミニサテライト突然変異(遺伝で受け継いだ生殖細胞系のDNAが変化する)は、さらなる研究を要する本当の生物学的な出来事であると警告している。しかし、レポートは、現在の放射線被曝リスクは実質的に間違っていると言う明らかな証拠を挙げていない。

委員会は、2001年に当時の環境大臣により設立された。それは、原子力発電所隣接地およびチェルノブイリ事故以後の癌発生件数増加報告を含め、内部放射線被曝リスクへの危惧からであった。

レポートの発表にあたり、委員会委員長のダドレーグッドヘッド教授は以下のように述べた:「委員会レポートの主な結論は、体内放射線源リスク評価にとても慎重であるべきだということです。こうした内部放射線被曝リスクの不確定性が大きいことを考えられ、それを十分考慮に入れて政策と規制の決定をおこなうべきであります。」

「電離放射線の健康リスクについて、国民的論議が起きていますが、意見は多岐に渡っています。核物質の放出であれ、空気中及び食物内の自然起源の放射能であれ、体内に取り込まれた放射性物質からの放射線被曝についてはなおさらであります。CERRIE委員会は、こうした異なる見解を反映するために設立されたのです。」
「レポートでは、2人の委員が立てた非常に大きなリスクの仮説を含め、委員全員の見解が検証されていますが、結局、この二人は、レポートに反対しました。科学的な証拠は、これらの仮説を裏付けるものではなく、むしろ矛盾するものが多かったと委員会は結論づけています。」
「この2人の委員を別にすれば、NRPB、原子力産業、環境団体の代表、独立した意見を持つ科学者を含め、残り10人の委員の意見はかなりよく一致していました。」

注:
1.委員会は、「最近の研究に鑑みて、内部にある放射性核種からの被曝に適応する放射線と健康についてのリスクモデルを考察し、これからどんな研究が必要かを確定する」という付帯事項をつけて、設立された。
2.委員会のメンバーの詳細は最後のページに記載されている。
3.委員会の仕事は、保健省と環境・食料・農村問題省(DEFRA)から資金援助を受けているが、委員会はCOMAREと政府の省庁からは独立して運営されている。レポートは、発行前に政府機関の検査を受けていない。
4.委員会は、イギリス政府の環境における放射線の医学的局面に関する委員会(COMARE)にレポートを提出して、審議の上、政府に提言するよう求めた。
5.委員会のレポートおよびプレス・リリースは、 www.cerrie.org からダウンロードできる
6.レポートのコピーは、CERRIE事務局およびe-mailで cerrie@defra.gsi.gov.uk から入手できる
7.CERRIEレポートの科学的背景の説明が添付されている。

CERRIEレポートの科学的背景説明

不確定性
内部被曝の線量とリスク評価における不確定要素に、今まで十分な注意を払わなかったと言う点で委員会の意見は一致した。ある範囲の放射性核種の線量係数に関しての不確定性の量的評価で信頼できるものはまだない。当量線量評価の不確定性は大きくまた様々で、良くて係数2、悪い場合は係数10以上となり、真ん中より上と下にある。これは放射性核種の型、その化学形態、被曝の型、そして当該の体内器官といった要因によるであろう。このように、ある環境の下では、現在の最上の評価よりも、当量線量はずっと大きいかもれしれないし、あるいは、ずっと小さいかもしれない。実効線量に関しては、組織荷重係数の使用に関して更なる不確定性がある。重要な放射線核種の線量評価に関わる不確定性を定量化するために、さらなる研究が必要である。不確定性全体へのすべての潜在的な貢献と、それらをどのように組み合わせるかを明白に特定する必要があり。委員会は、線量とリスク評価には、関係する不確定性を明確に表示すべきであると結論した。このアプローチは、予防的アプローチが相応しい情況を見極めるのに役立つだろう。またその方が、モデルに保守的・悲観的な仮定をするよりも好まれる。
線量・リスク評価に使用されている現在のモデルは、組織内の微細な線量不均一性の原因となっている非常に短い到達距離の粒子を放射する放射性核種の取り扱いに特に限定されている。これには、アルファ粒子放射体、低エネルギーのベータ粒子放射体、そしてオージェ電子放射体が含まれる。このような放射能線放出対には、微小な部分の線量微線量測定分析を使うべきである。

新しい効果の生物学的証拠

現在の被曝予防の基礎となっているICRP(国際放射線防護委員会)の1990年の勧告以降の放射線生物学の新しい局面について、委員会は詳細に考察した。これらには、誘発ゲノム不安定性(放射線が継続的、長期的に細胞とその子孫の突然変異率の増加を誘発し、それがガン発生原因になっている可能性がある)、バイスタンダー効果(放射線被曝した細胞の近辺の被曝していない細胞も放射線の影響を受ける可能性がある)、生殖系細胞のミニサテライト突然変異誘発(遺伝で受け継いだDNA変化を引き起こし、健康被害を引き起こす可能性がある)が含まれている。委員会は、これらは実際には生物学的な現象であり、原則的には放射線被曝リスク評価に影響を及ぼす可能性もあるという点で意見の一致をみた。委員はどのような影響を及ぼすかについては意見を異にしたが、見解相違の原因は、主として現在、確固たる情報が欠如しているからであるという点では意見が一致した。見解の相違が原因で、原則的に、ある状況下では、低線量のリスクが過小評価されたりあるいは過大評価される可能性がある。
委員会のおよそ半分は、こうしたメカニズムについての生物学的証拠が現在のICRPのモデルに十分に反映されていないとの見解であった。従って、現在のリスクは、少なくともある程度まで過小評価、多分ある核種の場合にはかなり過小評価されている可能性がある。委員会の他のメンバーは、影響についてはきりとした意見を示さなかった。これらの中には、現在のモデルと疫学的所見はリスクを十分に考慮していると考える委員もいた。特に生体内低線量被曝へのこれらの影響についての知識が現在欠如していることが、こうした見解の相違の原因であった。委員会は、放射線誘発バイスタンダー効果と放射線誘発ゲノム不安定性に関する新しい研究成果を、低線量健康リスクとその量的不確定性の考察に含めるべきだとの点で意見が一致した。この点では、委員会は、現在のICRPの勧告は1990年に発表されたが、レポートで論じられている生物学的情報の多くに先んじていると認めた。
委員会のほとんど半数は、こうした新しい副作用の生物学的証拠は、放射線予防基準に直接影響を与え、政府は予防原則について検討すべきであると考えた。他のメンバーは、大体予防的アプローチを支持しながらも、主として、現在は実験データに一貫性が見られないことと、健康被害との明確な因果関係が見られないことから、同意しなかった。

疫学的証拠

委員会は、ICRPモデルのリスク予測が不十分であるとの確たる証拠として提出された多数の疫病学研究を検討した。委員会はこうした主張を精査し、さらにテストするためにオリジナルのデータをも入手して、独自に2つの分析を行った。一つは、チェルノブイリ事故以降のイギリス国内での小児白血病発生率についてであり、もう一つは、北半球での大気圏内核兵器実験の放射能降下以降の時期を含め、イギリス国内での小児白血病発生率傾向についてである。委員会の核兵器実験の放射能降下についての分析では、イギリス国内で小児白血病の発生率が増加している傾向は見出せなかった。一方、チェルノブイリ事故によるイギリス国内での小児白血病発生についての研究では、一般的な増加の傾向を認めたが、統計的に有意の差ではなく、まったくリスクの増加がないという可能性も排除できない。
委員会は、疫学的な証拠から、中程度と高レベルの体内に取り込まれた放射性核種にさらされた人たちの健康に悪影響を及ぼすリスクが高くなるという説が説得力をもつという標準的な見方に同意した。放射性核種の低レベルでの摂取については、一人を除いて全委員が、器官と組織の内部放射線被曝の結果、健康に悪影響を及ぼすリスクは恐らく多少高まるという説を受け入れたが、増加は、検出されないぐらい微小なものという可能性があるとの見解であった。
現在ある疫学的証拠は、現在のリスクモデル予測が著しく間違っていることを示唆していない、と考える委員会のメンバーが何人かいた。現在のリスクモデルは、ある種の放射性核種の摂取によるリスクを、控え目の係数で過小評価している可能性があると考えるメンバーもいた。そして、現在のモデルは、放射性核種の摂取によるリスクを非常に大きな係数で過小評価していると考える委員も二人いた。意見の不一致の原因の一部は、疫学的研究に使われたデータと方法論の妥当性についての見解の相違と、研究結果の解釈が異なることにある。核心となる方法論的限界は、低レベルでの被曝とリスクについての疫学的研究の統計による力が本質的に減少したことで生じた。
委員会は、疫学的研究には正確な科学的方法を用い、いくつかの研究に見られたような間違いを防止するために手順を決め、チェックをすべきだということで意見が一致した。さらに、委員会は、疫学的研究は、査読があってかつ定評のある学術専門誌に発表すべきだと提言している。研究結果を自費出版する場合には、発表者は出版に先立って、快く引き受けてくれる他の科学者に、自分の研究分析を注意深くチェックし、精査してもらう科学的にも公的にも責任がある。

2委員の提案による仮説

委員会は内部放射線被曝リスク調査のために設立された。そこには、委員会のメンバーである、バスビー博士とブラマル博士の二人が、この十年の間に提案した多数の仮説を調査する期待が込められていた。これらの理論をかなり詳細に調査するのに、委員会は多くの時間と労力を費やした。これは、レポートに十分に記載されている。これらの理論には、いわゆる第二事象理論(SET、ここでは、ある特定の時間の間に二度放射線が当たれば細胞の感受性は非常に高いと仮定する)、ホットパーティクル理論、ニ相的線量応答、そして人工と自然の放射性核種の相違は種類として存在するという理論が含まれる。バスビー博士とブラマル博士は別として、委員会は、入手可能な科学的証拠はこれらの理論を支持をしていないと考えた。例えば、科学的証拠はSETとは大いに矛盾した。レポートによれば、SETの基本的な前提条件は、生物学的妥当性に欠け、提案者のSET再調査では、支持の証拠はなく、SETを支持するとして引用されている研究は弱く、委員会が委任した独立再調査での実験的な研究でも支持の証拠はなかった。

結論(第5章も参照)

委員会は、ICRP(国際放射線防護委員会)は、線量限度以下の線量での放射線防護目的にのみ実効線量の使用を留保することを提言していると強調した。特定の評価では、ICRPは、特殊な放射線被曝と関係する器官に対する相対的生物学的効果比(RBE)に関する具体的なデータと、吸収線量の使用を提言している。 委員会は、このような具体的情報は、線量が線量限度に近い場合、遡及的線量査定、疫学的データの解釈の際に使用されるべきであると考えた。委員会はさらに、ICRPの方法論の科学的根拠に挑戦し続けることが重要であり、微線量測定と放射線生物学の継続的発展に照らしてその信頼性を評価すべきだと結論した。
線量限度、制限条件、そして実に組織荷重係数は、日本の広島と長崎の外的ガンマ光線被曝を原因とする放射線誘発ガンに対するリスク評価に大体は基づいていた。これらのリスク評価が到達距離の短い荷電した粒子放射能による内部放射線被曝に応用できるかどうか疑問視された。しかし、いくつかのアルファ粒子放射体からのリスクに関するヒトについてのデータでは、これらのリスク査定の応用を支持していた。
委員会の委員の大半は、適切なパラメーター(つまり、RBE=相対的生物学的効果比 あるいは、速度の影響)を使用により、内部および外部放射線被曝間には、調整不可能な根本的相違はないとのことで意見が一致した。委員の何人かは、この見解を受容せずに、特殊なケースでは、外部放射線被曝よりも内部放射体の効果比を高くするような生物物理学的そして生物化学的メカニズムがあるということは、現在の方法論では考慮されていないと考えた。DNAと放射性核種との結合により効果比が高くなるかもしれないとの点では意見が一致したが、大半の委員は、これは低エネルギーベータ放射体とオージェ放射体に特有の問題であると考えた。

提言(第6章も参照)

関係機関および研究団体は、科学的手続きと内部監査体制を確立し、データを配布あるいは疫学的分析を行いその結果を公表する前に誤謬防止すべきだ、とのCOMARE提言を委員会は支持した。さらに、委員会は、疫学的研究は査読があってかつ定評のある学術科学専門誌に発表すべきだと提言している。しかし、委員会は、学術誌へ発表すると、現在のパラダイムに一致しない証拠は拒否される傾向がありうることを認めている。疫学的研究結果を自費出版する場合には、発表者は出版に先立って、快く引き受けてくれる他の科学者に、自分の研究分析を注意深くチェック、精査してもらう科学的にも公的にも責任がある。
内部被曝と外部被曝の放射線リスクに関して、「新しい生物学的メカニズムの示唆するものを長期的に研究する必要がある点についてメンバーは一致している。

2004年10月20日

CERRIE名簿

委員長
ダドレー・グッドヘッド教授 OBE
MRC放射線・ゲノム安定性部
オックスフォード市、ハーウェル

会員
リチャード・ブラモール
英国低レベル放射線キャンペーン

クリス・バズビー博士
グリーン・オーデイット

ロジャー・コックス博士
NRPB

サラ・ダービー教授
オックスフォード大学

フィリップ・デイ博士
マンチェスター大学

ジョン・D・ハリソン博士
NRPB

コリン・ミュアヘッド博士
NRPB

ピーター・ロシュ
元英国グリーンピース

ジャック・シモンズ教授
元ウエストミンスター大学

リチャード・ウエイクフォード博士
BNFL

エリック・ライト教授
ダンディー大学