【福島はいま】9年目に入ろうとして - 復興とは何を言うのだろうか

【福島はいま】 9年目に入ろうとして - 復興とは何を言うのだろうか

『原子力資料情報室通信』第537号(2019/3/1)より

〈福島復興〉の声がかまびすしい。来年の東京五輪を控えているせいがおおきい。福島はコントロールされていると公言して招致した手前もあって、政府は放射能禍が無かったことにしたい。それは、明らかに、被害者を切り捨てることだ。環境に放出された放射能のうち、半減期が約2年のセシウム134は、満8年して4半減期が経過した今日、(1/2)を4回掛けあわせて(1/16)に減った。しかし、セシウム137は半減期が30年なので、あと22年待たないと、(1/2)にならない。

 

そもそも、フクシマ事故は解明されたのか。日本の原子力業界は繰り返し、「自己検証の無さ」をさらけだしてきた。きわめて深刻な体質的欠陥を持つ。フクシマ事故後、世に4つの事故調報告書が出されたが、いずれも、未完である。しかし、国会事故調に加わった人たちの中に「もっかい事故調」グループができて、その後も事故の因果関係を明らかにする努力が続けられている。議論は新潟県技術委員会の場で公にされつつあって、検証総括委員会(池内了委員長)に有力な知見を提示するだろう。

去る1月末、日本原子力学会「未解明事項フォローWG」の山本章夫幹事は新潟県技術委員会に出席して、73項目に抽出された課題について調査結果の概要を報告した。それによれば-

A:合理的な説明がなされていると判断されるもの、45%

B:既存発電所の安全対策高度化や廃炉作業の進捗の観点から重要でないと考えられるもの、8%

C:重要度は高いが、現時点では、これ以上の調査が困難であるもの、4%

D:重要であり、今後も継続した検討が望まれるもの、43%

だという。新潟県技術委員会のメンバーとの今後の真摯な議論を望みたい。それにしても、原子力を推し進める側の言うことなので、そのまま受け入れることはできないが、CとDを合わせて、47%もある。あまく見ても、半分しか説明できていないというわけである。

 

放射能被害に関して幾つか重要な事実が浮かびあがってきた。

  • 伊達市における住民被ばくに関する分析論文で、住民の同意を得ないデータを用いて、しかも、線量評価が3分の1と低く見積もられていたことが、発覚した。すでにイギリスの専門誌に公表された論文である。また、この論文は放射線審議会における審議で資料として使われていた。科学は中立でありたいが、原子力を批判的に見るか、行政側に立って肯定的に見るか、どうしても偏りを避けられないということではないか。学術論文に欠かせない査読制度はどうしたんだろう。
  • フクシマ事故直後、双葉町の11歳の少女が甲状腺等価線量で100ミリシーベルト(全身では4ミリシーベルト)被ばくしていたことが判明した。把握できていないが、ほかにも多数あったはずである。
  • 福島県三春町では、県の指示に従わずにヨウ素剤を配布し、子どもたちに服用させたことが知られている。実際どうだったか。この1月の京都大学などの研究グループの発表によると、0~2歳児で約半数、3~9歳児で約3分の2だったと判明した。

 

フクシマ事故被害者たちの受けた底知れなく深い傷は、金銭で償えるものではないが、それにしても、東電には責任をとる姿勢がない。浪江町、飯舘村などのADR集団申し立て事件で、東電が賠償金額に同意せず、事故との因果関係にも異議をとなえ、仲介和解案を拒んだ。損害賠償の解決の見通しが立たない。東電が宣言していた3つの誓い(①最後の一人まで賠償貫徹、②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、③和解仲介案の尊重)に真っ向から反している。

東電の責任を問う福島原発被害者たちの集団訴訟は仙台、群馬、東京、神奈川、千葉、名古屋、大阪、愛媛など全国で約30提訴がされている。また、東京電力の元会長らに対する刑事訴訟は起訴から2年近くして、3月中旬の最終弁論で結審する。

 

あらためて問う。〈復興〉とは何を指すのだろうか。

(山口幸夫)