2021年度 茶葉の放射能測定 福島原発事故後10年のまとめ

『原子力資料情報室通信』第566号(2021/8/1)より

原子力資料情報室は東京電力福島第一原発事故の後、継続的に流通品茶葉(乾燥状態)の放射線量を測定している。昨年は都合により実施できなかったが、今年までの結果をまとめた(図1)。

図1 茶葉に含まれるセシウム濃度(当室測定) 測定機:NaIシンチレーション検出器(EMF211)、 測定時間は24時間、試料は900 ml(約500g)。

原発事故の翌年である2012年は、埼玉産で86 Bq/kg、静岡産で40 Bq/kgの放射性セシウム(137と134の合計)が検出された。埼玉産で高い汚染が確認されたため13年には同じ関東地方の茨城産も測定対象としたところ、埼玉と同等の汚染(およそ30 Bq/kg)だった。静岡産は13年に濃度が3 Bq/kgへと大幅に減少し、15年以降は不検出(およそ1Bq/kg以下)が続いている。
毎年、同じ茶園の商品を測定しているのだが、2015年の埼玉の1件のセシウム濃度のみが、全体の減少傾向から外れた値を示した。同じ地域の茶畑の中でも局所的に汚染の濃淡があると思われたが真相は分からない。
2017年以降は半減期が約2年のセシウム134は検出されなくなり、セシウム濃度は10Bq/kg以下となった。液体のお茶に希釈されると重量当たりのセシウム濃度は1/100程度に下がるため、ペットボトルのお茶などとして流通している場合は汚染を把握することはほとんどできない。
本年度は鹿児島産の茶も測定した。環境放射線データベースで鹿児島産の茶からも2019年にセシウム137が検出されていることを知ったので、茶葉中の微量のセシウムまで検出して、半減期が約2年のセシウム134が検出されるかどうか調査したいと思ったのである。セシウム134が検出されれば、福島原発由来のセシウムが鹿児島の茶に影響を与えていると捉えることができる。NPO法人新宿代々木市民測定所にゲルマニウム半導体検出器で測定していただいた結果は、セシウム137が0.93Bq/kg(±20%)、セシウム134は不検出(0.5Bq/kg以下)だった。
公開データから、茶に含まれるセシウム濃度の長期推移を九州産とそれ以外に分けて示したのが図2である。福島原発事故以前は、九州産の茶葉の方がその他の地域よりも比較的に汚染が高い傾向にあった。長期トレンドから推定すると現在の汚染はチェルノブイリ原発事故や大気圏核実験時代の影響が大きいと考えられる。なお、九州産では2011年のみわずかな濃度(0.03~0.75 Bq/kg)のセシウム134が検出された。
10年間にわたり流通品茶葉の測定をおこない、継続的に放射能汚染の実態を調査・報告することができた。ここ数年はセシウム濃度の変動が少なくなっているが、現状を市民の手で把握するためにも今後も定期的に調査していきたい。

図2 茶葉に含まれるセシウム137濃度 長期推移 環境放射線データベースのデータをグラフ化 (https://www.kankyo-hoshano.go.jp/data/database/)

  (谷村暢子)

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