第6次エネルギー基本計画素案に見る 危険な原子力政策
8月4日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で、第6次エネルギー基本計画の素案が大筋でまとまった。あとは分科会長に一任でまとめられ、パブリックコメントの募集となる運びのようだ。
中身はというと、求める姿が不鮮明で、かつ現実味にも欠ける中途半端な代物で、ていねいに読む気も起こらないが、各省の予算要求の根拠とされることを思うと、そうも言っていられない。原子力に絞って読んでみよう。
一貫性があるというか、使いまわしをしているというか、「東京電力福島第一原子力発電所事故の真摯な反省」などは現行基本計画と真摯にほぼ同文だ。ともあれ危険な兆候を中心に読むとする。
焦点は再稼働
2030年度の発電電力量に占める原子力発電の割合は20~22%と、現行計画の数字が維持された。ただし、発電電力量全体の量を「省エネ」で1割弱減らすことで、動かす原発を3、4基減らせるようにしている。それでも、新規制基準に合格したもの、審査中のものは、建設中もふくめてすべて稼働し、未申請のものも大半が再稼働して、いずれも高い稼働率で発電をしてはじめて達成される値である。
これは、申請されたものはすべて新規制基準に合格することを意味する。「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」と言いながら、「認められない場合」はないものとされている。
7月27日に原子力委員会がまとめた2020年度版の『原子力白書』は「『世界で最も厳しい基準』を満たせば安全であるという慢心により、『新たな安全神話』が生み出される懸念」を表明したが、むしろ「新たな安全神話」を確かなものにしたいようだ。
再稼働については、こんな記述もある。「原子力事業者をはじめとした産業界は、新たな連携体制として『再稼働加速タスクフォース』を立ち上げ、外部専門家を含め人材や知見を集約し、審査中の泊、島根、浜岡、東通、志賀、大間及び敦賀において、原子力規制委員会による設置変更許可等の審査や、使用前検査への的確かつ円滑な対応、現場技術力の維持・向上を進める」。
4月16日の池辺和弘電気事業連合会会長の定例会見では、「2030年に向けて再稼働を加速していくため、新たに『再稼動加速タスクフォース』を設置。業界全体で努力し、早期再稼働に取り組む」と宣言された。2月25日の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会に提出された「事業者の不断の安全性向上の取組み」では、こうも説明されている。「現状の取組みは、適合性審査に関する技術的情報の共有が中心であったが、業界大の取組・連携のスコープを、使用前事業者検査や運転員・保守員の力量向上など再稼働全般に関係するものに拡大し、現状の取組みの深堀りをするために、新たに『再稼働加速タスクフォース』を設置」。
それだけ再稼働は容易ではないということだ。
新増設・リプレースは?
自民党などが盛んに働きかけ、基本政策分科会の委員にも賛同者の多かった新増設・リプレースだが、けっきょく今回も記述は見送られた。反発する声も大きいが、日本原子力産業協会は7月28日に新井 史朗理事長が会見を開き、「原子力を活用する方針が示されたものと認識する」とコメントした。同日付の電気新聞では自民党の山際大志郎衆議院議員が「原子力はゼロにならないことを今回宣言した」と言う。「原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」と書き込まれたからである。
資源エネルギー庁はせめて「一定規模の持続活用」としたかったが首相官邸や公明党は慎重だった、と27日付日本経済新聞のコラム「底流」で江渕智弘記者は書いている。それでも何とか「持続活用」はもぐり込ませた。山際議員は新増設・リプレースを書き込む必要性について「30年までにそうした可能性があるのに記載しないのであれば問題だが、再稼働が進んでいない。まずはそこに最大限注力すべきで、その後にリプレースが必要になるというのがコンセンサスだ」と一蹴した。
持続活用の条件整備にノーを
今回のエネルギー基本計画素案は、まさに持続活用に向けた条件整備を打ち出し、予算要求の根拠を与えている。パブコメでストップをかけたい。
新増設・リプレースよりも現実的と考えられているのは、長期運転である。素案に「メーカー等も含めた事業者間の連携組織が中心となり、保全活動の充実や設計の経年化対策、製造中止品の管理等に取り組むとともに、安全性を確保しつつ長期運転を進めていく上での諸課題について、官民それぞれの役割に応じ、検討する」とあることについて山際議員は、最大60年の運転制限をなくすことも「直接的表現ではないが素案に書き込まれている」としている。
同議員が30年までに新増設・リプレースの可能性がないとしたのは、それを実施することに資金回収のめどが立たず、電力会社が及び腰だからだろう。そこで素案では、こう記述される。「原子力事業者は、高いレベルの原子力技術・人材を維持し、今後増加する廃炉を 円滑に進めつつ、東京電力福島第一原子力発電所事故の発生を契機とした規制強化に対し迅速かつ最善の安全対策を講じ、地球温暖化対策やベースロード電源による安定的な供給に貢献することが求められている。このため、国は、電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、原子力事業者がこうした課題に対応できるよう、海外の事例も参考にしつつ、事業環境の在り方について引き続き検討を進める」。
原子力事業優遇策が、やはり「直接的表現ではないが素案に書き込まれている」ようだ。
危うい後始末政策
従来から言われてきたことだが、使用済み燃料対策と廃炉の後始末が喫緊の課題とされている。
廃炉廃棄物では「国内において適切かつ合理的な方法による処理が困難な大型機器については、海外事業者への委託処理を通じ、輸送も含む運用の実績を積むことが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める。また、クリアランス物については、廃止措置の円滑化や資源の有効活用の観点から、更なる再利用先の拡大を推進するとともに、今後のフリーリリースを見据え、クリアランス制度の社会定着に向けた取組を進める」とされた。廃炉廃棄物の輸出について、詳しくは「原子力発電所から発生する大型機器の処理について(原子力発電所廃止措置調査検討委員会技術レポートシリーズVol.3) (iae.or.jp)」。
新型炉開発という無理筋
「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた産業・競争・イノベーション政策と一体となった戦略的な技術開発・社会実装等の推進」には、次の記述がある。「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉をはじめ、安全性等に優れた炉の追求など、将来に向けた原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や人材育成を進める。このような取組を支えるため、人材育成や研究開発等に必要な試験研究炉の整備を含め、産学官の垣根を越えた人材・技術・産業基盤の強化を進める」。
「いずれは新増設・リプレース」の根拠でもある。ただし、しょせん徒花であることは、本誌565号、566号の小型炉論が雄弁に示している。
(西尾 漠)