「原子力2法案」の廃案を求める

「原子力2法案」の廃案を求める

 政府は2月18日、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」案および「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」改正案を閣議決定し、国会に提出した。これら法案は、エネルギー供給のためには必要がない上、日常的な放射能汚染、大事故、核拡散など多くの危険をもたらす六ヶ所再処理工場をむりやり動かすため、電力会社の負担を軽減して、そのつけを消費者にまわすものである。また、被曝の機会を増大させ、「核物質防護」の名の下に基本的人権を侵害するものでもある。私たちは、このような法案の提出に強く反対し、廃案を求めている。

《再処理積立金法案の問題点》

 「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」案は、使用済燃料の発生者たる電力会社が小さな額を積み立てることで、六ヶ所再処理工場の巨大な操業リスクを肩から下ろすための法案である。電力会社が再処理から逃げ出すのを防ぐ法案と言える。そんな費用の負担はごめんこうむりたい。
○経済産業省の法案説明資料では「発生した使用済燃料のうち、当面は、合理的な費用見積もりが可能な六ヶ所再処理工場分に対応した金額を積立て」という。これは使用済燃料3.2万トン分とされるが、それより多い3.4万トン分が「当面は貯蔵」されることになる。この貯蔵分の再処理等に要する費用が加算されることにより、将来の世代が過大な費用負担を強いられることになる。
○使用済燃料「既発生分」の未回収費用(現行「再処理引当金」の対象となっていなかった費用)の回収は、新規参入事業者に電力供給先を変更した顧客からも、託送料金にふくめて同事業者に代行回収させると言われている。これを公正・公平な制度と言えるか。
○高レベル放射性廃棄物の処分費用については電力会社からの拠出金が積み立てられている。TRU廃棄物の処分費用は再処理等積立金として積み立てられることになる。ところが現在、高レベル放射性廃棄物とTRU廃棄物の並置処分案が検討されている。また、英国BNFL社に再処理を委託している分の返還TRU廃棄物を放射能量が同等の高レベル放射性廃棄物に置き換えて返還する案も検討されている。これらの案が実現する場合、2つの積立金はどう調整されるのか。
○「40~70年超の期間において」(経済産業省法案説明資料)設定された割引率の不確かさも考慮すると、積立金が不足する蓋然性は高い。そうした場合に、不足額は電力会社から追加積立てされるのか。あるいは積立金の額を算定し通知した国が補填することになるのか。
 いずれにせよ、中間貯蔵後の費用をふくめ、将来の世代に大きくしわ寄せされることは避けられそうにない。六ヶ所再処理工場の巨大な操業リスクを電力会社の肩から下ろし、将来の世代をふくめた消費者に転嫁することを狙った法案に、私たちは強く反対する。

《原子炉等規制法改正案の問題点》

 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」改正案では、一定レベル以下の放射能濃度の放射性廃棄物について同法の規制対象から外す「クリアランス制度」の導入により、一部の原子力産業以外には誰のメリットにもならないことのために広く被曝の危険を増大させる。また、「核物質防護の強化」として関連事業者の従業員らを監視する一方、従業員らに守秘義務を課す。そこまでして守らなくてはならない、そしてそこまでしても守り切れない核物質は、そもそも生み出されてはならないと、私たちは考える。
○原子力施設において発生した廃棄物をあえて「放射性廃棄物」と「放射性廃棄物でない廃棄物」「放射性物質として扱う必要のない廃棄物」に分け、施設外に持ち出さなければならない理由は存在しない。「循環型社会の形成に資する」との意義づけは、とうてい社会的な同意を得られるものでないのではないか。社会は、原子力施設において発生した廃棄物の循環より隔離を望むことは、火を見るより明らかである。
○クリアランス制度の導入に際し、原子力安全・保安院の説明資料に「事業者には、搬出先の記録・保管などを求めていく」「事業者では、業界内での再生利用を進める意向」とあるが、そのことは制度的にどう保証されるのか。総合資源エネルギー調査会廃棄物安全小委員会の報告書では、不測の事態には「国は必要に応じ事業者に対して放射性廃棄物の回収を含む適切な措置を講ずることも必要」とあるが、回収を可能とする制度的な担保は?
○業界内での再生利用は「制度が定着するまでの間」と言われている。それでよいと考えるのか。その理由は? 制度が定着したと誰がどのような基準で判断するのか。
○上記小委員会の報告書によれば、110万キロワット級原発の廃止に伴う廃棄物の試算では放射性廃棄物でない廃棄物が90パーセント以上を占め、クリアランス適用対象の廃棄物は数パーセントである。それでもクリアランス制度を導入しようとするのはなぜか。
○この法案が可決されると、従来は「放射性物質によって汚染された物」として環境省の所管外であったものが「核燃料物質によって汚染された物でないものとして取り扱う」こととなるが、このことについて環境省のみならず、一般廃棄物・産業廃棄物を扱う地方公共団体や事業者等、そしてまた国民全般にどのように説明してきたのか、十分に周知されていると言えるのか。法案には環境大臣の意見表明、環境大臣への連絡・協力要請が条文化されているが、連絡を受けた環境大臣は具体的に何をするのか、何ができるのか。
○クリアランスを制度化した61条の2には、罰則規定がない。確認を受けずに事業所外に廃棄した場合等の罰則を規定すべきではないか。
○核物質防護対策の大義名分のもと、従業員を「仮想敵」として監視するような人権侵害を認めることはできない。なぜそのような法をつくろうとするのか。
○「特定核燃料物質の防護に関する秘密」とは、どのようなものか。具体的に秘密の範囲を定めないと拡大解釈につながる。法文に明記すべきではないか。
○秘密保持義務の違反者には「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」こととなる。これは、たとえば「指定保障措置検査等実施機関の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者」の秘密保持業務違反の罰則が「一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金」で併科なしとされているのと比べて、著しく均衡を欠くものではないか。
 この法改正案も、六ヶ所再処理工場の操業の条件整備が主要な狙いとなっており、その意味でも、私たちはこれに反対する。これら法案はそもそも提出されるべきでなく、廃案を求めるものである。