原子力長計策定会議意見書(第20回)

長計策定会議意見書(20)

2005年3月4日
原子力資料情報室 伴英幸

第19回策定会議資料第3号について

1. 医療被ばく
資料では明確でないようですが、診断と治療を区別して、かつ広く使われているものとそうでないものを正しく評価する必要があります。診断時の被ばくについては、個人管理も大切で、少なくとも希望者には「放射線管理手帳」を持つことができる制度つくりの必要性を再度訴えます。ガン治療については放射線が重要な治療法である場合があることは確かだと思いますが、資料では、より広く使われている方法に比べて、重粒子線治療の記載は多すぎます。また、中性子捕獲療法などは応用例がはるかに少ないはずです。これらの治療法の利用拡大に際しては患者に対する十分なインフォームドコンセントが欠かせないと考えます。
インフォームドコンセントは大前提として論点整理が行なわれているとは思いますが、医療現場では十分でない事例があることを考えれば、明記するべきことだと考えます。

2. 食品照射
日本でも食品照射の対象を広げようという意見がありますが、他国で使われているからといって日本も導入しようでは慎重さに欠けると思います。その理由は:
資料第3号に示されているように、馬鈴薯の発芽防止目的の照射だけ、0.15kGy以下や表示義務などの条件付きで認められています。しかしタマネギは認められませんでした。ジャガイモとタマネギの差は、結局のところ生で食べるかどうかにあるでしょう。タマネギが認められなかったのには、それ相応の議論や理由があったはずです(それらの内容が資料には書かれていません)。
放射線が食品に入ったときに問題になるのは、水の放射線分解です。水(H2O)からH+とOH-ができて、それがどこに収まるのかが問題です。これをミクロな視点で調べるのは困難なので、動物実験が頼りです。
これまでに多数の実験があるようです。その中には照射食品による影響を示唆するものがあります。例えば、日本で行なわれた『放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書』(国立衛生試験所(当時)、1971年6月)のγ線照射馬鈴薯の安全性に関する研究では、「マウスおよびラットにおける長期慢性毒性試験においては、諸種の検査項目において馬鈴薯を飼料に混入したことによる影響が明らかに認められているが、照射馬鈴薯摂取によると考えられる影響はほとんど認められない。しかしラットの30および60krad群の雌における体重抑制と60krad群の卵巣重量の変化が認められた。後者については実験6ヶ月後において、negative及びpositive controlに対して有意の減少を示し、12ヶ月後においては推計学的に有意ではないがやはり減少の傾向を示していた」と、影響がほとんど認められないとしつつも、ある種の変化を認めています。また、『放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書』(同、1979年8月)の中の、④照射玉ねぎの毒性試 に関する研究、ラットによる慢性毒性試験(玉ねぎ25%添加)では、「照射によると考えられる明確な悪影響は認められなかった」と小括するものの、「自然死亡動物数および死亡率は、表B-2および図B-4に示すとおりで、各群の死亡数は、雄で5~ 10例、雌で5~11例の範囲にある。雄では、0-15および0-30で高く、cont.および0-0に比べいずれも有意の差を見る。また、雌では、cont.に比べ添加群で、いずれも有意に高い。しかし、雌で は0-0と照射群の間に著しい差を見ない」と部分的には変化を認めています(ここでの各群とは対象群、非照射群、7、15および30kradの各γ線照射群)。
さらに、資料で引用されていますCODEX General Standard for Irradiated Foods (CODEX STAN 106-1983, REV.1-2003) では、食品照射が消費者の健康を守るために役立つものであるべきこと、衛生確保のために利用するべきでないこと、また、食品加工業や農業における品質をカバーするために利用するべきでないとしています 1)。

1)
“The irradiation of food is justified only when it fulfils a technological requirement and/or is beneficial for the protection of consumer health. It should not be used as a substitute for good hygienic and good manufacturing practices or good agricultural practices.” (4.Technological Requirements 4.1 General Requirement)