新大綱策定会議奮闘記(5)形式的やりとり続く各委員会

『原子力資料情報室通信』第452号(2012/2/1)より

新大綱策定会議奮闘記(5)
形式的やりとり続く各委員会

●基本問題委員会

 総合資源エネルギー調査会基本問題委員会は12月6日の会合で論点整理(案)を発表した。この案には、多くの委員が違和感と反対を表明した。なぜなら、5回の会合が行われたが、それまで各委員が自分の意見を発表し、質疑を交わしただけだったからだ。事務局としては2ヵ月の間、各委員の意見を聞いてきてそれをまとめたつもりだろうが、納得する人はほとんどいなかった。

 三村明夫委員長も「議論はしない、質疑だ」と仕切ってきたのだから、整理とは言えないことは、明らかだった。しかし、枝野経済産業大臣がこの基本方向で議論してほしいと仕切る形で決まっていった。「整理」された論点によれば、重視して推進する政策は①需要サイド、②消費者、生活者、地域、③国力を支える、④多様な電源・エネルギー源の活用、である。望ましいエネルギーミックスの基本方向は①省エネルギー・節電対策の抜本的強化、②再生可能エネルギーの開発・利用を最大限加速化させる、③天然ガスシフトを始め化石燃料の有効活用、④原子力発電への依存度をできる限り減らす、としている。

 この基本的方向の上で、3月までに政策選択肢をまとめるために、会合は4月までに9回以上開催されることとなった。議論を深めるために自主分科会が提案され、委員長から認知された。筆者も積極的に参加していくつもりだ。

 エネルギー・環境会議は、基本問題委員会と策定会議の結果を得たのち、政策選択肢を複数提示し、国民的議論を経て、夏ごろまでに新しいエネルギー政策を決定する。エネルギー・環境会議は内閣の国家戦略室内に設置された組織で、委員は大臣で構成されている。これらの組織は官僚主導でなく政治主導で政策決定を行うことを目指して設置されている。枝野大臣がエネルギー政策を考えるにあたって意見を聞く場のうちの一つが基本問題委員会だ。どのように国民的議論が行われるのか、基本問題委員会では、全国各地で、特に福島で開催する意見を出し(大島堅一委員)、筆者も支持したが、現時点で明瞭な説明はない。

●新大綱策定会議

 基本問題委員会で示されることになる複数の選択肢に関して、第11回1月18日に行われた新大綱策定会議では、「今後の重要政策課題の整理(案)」が事務局から提出された。本格的な議論は次回からになるのだろうが、この中に「意見分類」として、①一定の原発規模を維持、②原発規模を低減させていく、③原発を今年より利用しない、の3つの分類が出てきた。福島原発事故後も言葉だけの反省に終始している原子力委員長と事務局なので、①で原発の一定の維持を図ろうとしているのだろう。基本問題委員会の「整理」にも反するこのような恣意的な分類が出てくることは極めて僭越だと考えるが、それはともかく、この選択肢が基本問題委員会へ逆滑りすることは避けたい。筆者は③を支持し、②の選択肢を「低減させていき、中長期的にゼロにする」との修正案を提案した。

 12月22日の新大綱策定会議に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理』をそれまでの発言をまとめるかたちで事務局が提出してきていた。委員から批判が続出し、これを引っ込めるかたちで新しい案が出てきた。基本問題委員会と共通する問題点は、福島原発事故以降の新たな状況の中で、資料やデータに基づいて論点ごとに議論をすることなく、いきなり事務局主体で意見の整理をしている点だ。今後に議論をしていくと言うが、3月までに政策選択肢の提示という与えられた締め切りへ向かって、強引にまとめていると言える。

 話は前後するが、第9回の新大綱策定会議では、浅岡美恵委員が気候ネットワークの評価論文について発表した。浅岡委員の提出した資料は3点あり、①3.11大震災・原発停止電力需給問題と地球温暖化対策について、②すべての原発が停止する場合の影響について、③2012年に脱原発を実現する場合の検証、である。原発が止まると電力が不足する、コストが上がるなどさまざまにネガティブな意見がこの策定会議でも出ているが、これに対して、「短期的には、適切な省エネの実施と高効率の火力発電への切り替えで電力不足に対応でき、コストも1世帯あたり1ヵ月300円程度に抑えられ、それほど高くならない。そして中長期的には再生可能エネルギーの導入でCO2削減目標も達成できる」と計算結果を示しながら説明した( www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei9/siryo2-2-3.pdf )。この試算を、さっそく基本問題委員会に資料として提出した。

●原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会

 エネルギー・環境会議から原子力委員会に諮問されている内容は核燃料サイクル政策に関する政策選択肢を提示することである。そこでこのミッションについて、小委員会で論点を提示することになった。1月11日の会合では、大きな方向性が議論され、本格的な議論はこれからだが、ここも3月末までに選択肢をまとめるために、急いでいる。「資料やデータに基づく熟議」が行われなければならない。

 まずサイクル技術について議論することになった。その後、政策にともなう問題や経済性などに議論を広げていく。2004年と同様に選択肢ごとのメリット・デメリットをまとめる形になるのだろうと推測している。

 ただ、今回の政策大綱の見直しでは、使用済み燃料の中間貯蔵施設を確保する重要性や使用済み核燃料の直接処分の研究を不確実性への対応として予算を割いて進めていくことが重要な議題となるはずと推察している。もちろん、原発がどのように位置づけられるかでこれらは大きく変わってくる。

検証された電源コスト

 12月22日の第10回新大綱策定会議で、エネルギー・環境会議に設置されたコスト等検証委員会の中間報告を聞いた。計算の詳細も公開されて、国民からの意見を募集中だ( www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20111221/siryo3.pdf )。原発の発電コストに関しては、1kWhあたり8.9円以上と特殊な示し方になっているが、これをどう解釈するのか、自分なりにコメントしたい。

 他の電源は、石炭火力9.5~10.3円、LNG火力10.7~10.9円、風力発電(陸上)9.9―17.3~8.8―17.3円、太陽光発電(住宅用)33.4―38.3~9.9―20.0円などである。これ以外にも洋上風力や石油火力、バイオマス発電、ガスコジェネや省エネなども計算されている。省エネが発電と同様の効果を上げるとの位置づけでカウントされていることは興味深い。すべてモデルプラントで計算していて、数字の幅は、前者が現時点、後者が2030年の時点での評価である。化石燃料は燃料費の上昇があることから2030年のコストは上がっているが、再生可能エネルギーは導入が進むことからコストが下がっている。表1 損害額の考え方 表2 事故コストを共済制度に載せる考え方

 原子力の場合は120万キロワットの電気出力の設備を建設し、平均設備利用率70%で40年間運転する時のコストだ。今回の評価では原子力発電のコストに上限がない表現となっているのが特徴だ。今回の事故の損害賠償の金額が未定で想定できないために上限が決まらないわけだ。

 化石燃料が高騰すればウランの取引価格も上昇するのだが、原発の燃料費の上昇はこれまで同様に、考慮されていないようだ。長期契約しているから変動がないというのがこれまでの説明だが、どの程度長期の契約をしているのか、明らかにされていない。

 8.9円/kWhのベースとなっているのは5.9円で、これは2004年時の評価を現時点に引き直した単価だ。過去の単価はこの部分だけが発表されてきた。これまで交付金や膨大な宣伝費など単価に組み入れるべきではないかと批判してきたが、今回は政策経費(交付金や研究開発費)としてこの分1.1円を上乗せした。加えて、今回の福島原発事故以降は追加的な安全対策費が必要になるだろうから、この部分を1.4円、さらに事故リスク対応費用を0.5円とした。

 本誌450号で報告した原子力委員会の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会で審議した事故確率に基づく事故リスクのコストは採用されず、保険制度を参考にした方法が使われた。損害金額を40年間かけて全原発で補てんする方法だ。全原発分とは2010年の発電電力量から福島の1~4号機の分を差し引いた量(2,722億kWh/年)である。これを分母として、分子は、事故炉の廃炉費用1兆円と分かっている損害額6.1兆円、これに除染費用6000億円、その他3000億円を加えた8兆円をベースにモデルプラントに補正して5.8兆円とした。結果が0.5円だ。そして今後、損害額が1兆円増えるごとに0.1円コストが上がるとしている。これも同様の分母で按分した結果だ。

 筆者は疑問を説明者にぶつけてみた。つまり、福島県は県内10基を廃炉にすることを求めているのだから、発電実績から福島の4基のみを除くのは、分母を過大評価することになり、結果としてコストを安くしていると。確かにそのような議論は委員会内部でもあったとの返答だが、修正はしていない。加えて、脱原発依存という政府の方針からは、福島分を超えて発電電力量は大きく下がることが予想される。この点でも分母を過大に見積もっている。さらに、40年間運転することを前提にすることにも疑問がある。

 他電源と比較して原子力が有利という結果を導いているが、初めに結論ありきではないか? 仮に発電電力量が3分の1に減ることになれば、そしてそれは十分にあり得ることだが、事故コストは1.6円になり、合計は10.0円となる。損害額1兆円あたりの追加コストも0.3円となる。

 そもそも長期にわたって原発が健全に運転されることを前提とした共済的な負担の考え方は、福島原発事故の後では通用しないだろう。

(伴英幸 2012.1.23)


 今号より、原子力政策の初心者である谷村暢子が新人目線で傍聴の感想をお伝えします。新大綱策定会議、今回のポイントです。①廃炉までの費用約1兆円に現時点では根拠がない主旨の発言(近藤議長)、②国民理解を得られたか判断するのは政府であると発言(資源エネルギー庁事務局)。原発のコストを正しく評価することと国民の理解を得ることは、非常に重要な2つの柱です。根拠ない数値と不十分な議論のまま、強引に原発再稼働へ進むつもりか、と憤っています。

(谷村)


■【VIDEO】CNIC伴英幸による委員会報告(2) 2012/2/2
 http://www.ustream.tv/recorded/20164870

■【VIDEO】CNIC伴英幸による委員会報告(1) 2011/10/6
 http://www.ustream.tv/recorded/17706995

伴英幸提出の新大綱策定会議奮闘記

(1)脱原発・核燃料サイクル政策の転換を求め続ける
  https://cnic.jp/977

(2)柏崎刈羽原発「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりません」(清水電気事業連合会会長)
  https://cnic.jp/988

(3)基本問題委員会も設置され、エネルギー政策の見直しへ
  https://cnic.jp/1233

(4)原発の安全文化は根付かない
  https://cnic.jp/1248

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