食品中の放射性セシウム新基準値案 新基準値は安全か?測定体制の強化と情報公開を求める

『原子力資料情報室通信』第452号(2012/2/1)より

食品中の放射性セシウム新基準値案
新基準値は安全か?
測定体制の強化と情報公開を求める

渡辺美紀子

 食品中の放射性セシウムの新たな基準値案が12月22日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会で了承された(表1)。
www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yw1j.html

 福島第一原発の事故後、厚労省が採用した暫定規制値は、2000年に原子力安全委員会が示した「飲食物摂取制限に関する指標」をそのまま流用したものだ。国際放射線防護委員会(ICRP)が示した値に準拠したきわめて高い値の設定(表1)で、年間被曝限度は5ミリシーベルトとされていた。

表1 食品中の放射性セシウムの基準

 新基準値案では、食品を食べることで内部被曝する線量限度を年間1ミリシーベルトとした。この判断の根拠は、食品の国際規格を作っているコーデックス委員会が提示している、介入免除レベルとして年間1ミリシーベルトを採用した基準をふまえたものだ。

 また飲料水については、世界保健機関(WHO)が基準としている被曝限度年間0.1ミリシーベルトを採用し、基準値を10ベクレル/kgとした。そして、食品の50%が汚染されていると仮定し、一般食品で残りの0.9ミリシーベルトを超えないように検討した(図1)。その上で、年齢別・男女別(妊婦含む)に10グループに分けて、グループの人たちが食べる食品の種類や平均的な摂取量をふまえ、計算している。

図1 一般食品の新基準値の考え方

 その結果、一般食品で最もきびしい規制が必要なのは成長期で摂取量が多い13?18歳の男性で、120ベクレル/kgとなった。基準値はより安全側に切り下げ100ベクレル/kgとすることが適当であるとされた(表2)。

表2 年齢区分別の限度値(一般食品)

 年齢によるセシウムの影響については、ICRP72報の経口摂取に係る内部被曝線量係数を用いて計算しているらしいが、納得できるものではない。小さい子どもは食べる量が少ないから汚染濃度が高いものを食べてもよいという結果になっている。

 新たに食品群に加わった乳児用食品と牛乳については、一般食品の基準値100ベクレル/kgの半分の50ベクレル/kgと設定された。粉ミルクやベビーフードなど乳児向けの食品である「乳児用食品」と子どもの摂取量が特に多い「牛乳」については、子どもは放射線感受性が高いとされているため、「一般食品」の半分とされた。

 お茶や乾燥食品の検査方法について、お茶は「乾燥させた原材料の状態と飲用にする状態で形態が大きく異なる」として、お湯に入れた状態で検査し「飲料水」の基準値を適用する。乾燥シイタケなどは、原材料と水で戻して食べる状態の両方に対して「一般食品」の基準値を適用するとした。

 今後、文部科学省の放射線審議会に諮問し、国民からの意見募集などを経て、4月1日から施行される見通しとなっている。暫定規制値の検査をパスして流通しているコメや牛肉は、市場の混乱を避けるため経過措置として9月末日まで、大豆は12月末まで暫定規制値が適用されるという。

新基準値は安全か?

 新しい基準値は、暫定規制値よりきびしくなる。しかし、「放射線にはこれ以下なら安全」というしきい値はない。新基準値も安全とはほど遠いものだ。「流通する食品の汚染割合を一般食品については50%と仮定」しているが、こんな甘い仮定はとうてい許されるものではない。また、コメなどの主食は食べる量が多いので考慮が必要だ。福島県やその周辺の高濃度放射能汚染地域では、地元の生産物の汚染割合が高くなるので、抜き取り検査からもれて基準値を超える食品が出回る可能性も大きい。

 福島県など空間線量が高く、外部被曝の影響が大きい地域に住む人たちには、もっときびしい基準値が必要ではないか。

 食品の基準値は、放射線感受性の高い子どもや妊婦の安全を最優先に考え、よりきびしく設定すべきである。そのためには、厚労省が示した新しい基準値案を1桁くらい下げなければならない。

 そして、市民と生産者が食品の汚染状況・汚染傾向を正確に把握できるよう測定体制を強化することが、なによりも必要だ。測定の検出限界を1ベクレル/kgとして徹底的に調査し、測定結果と合わせて装置や時間など条件、検出限界値を明確にして公表する。各地に検出限界値1ベクレル/kgの正確に測定できる検査機関を設置し、流通する食品に測定結果とその検出限界値を表示する。流通業界ではもうすでに実行しているところもあるが、ベクレル数を表示して販売するなど消費者が選択できる体制が必要だ。学校給食の食材に測定もしないまま地産地消を押し付けるのではなく、汚染のない食材を提供する体制をつくることも求められている。畑についても土壌、水質の放射能検査をきめ細かに行ない、作付けができるかどうかを国が責任を持って早急に判断し、作付けできない場合は、生産者にその補償をする。これらの対策が早急に求められている。

 

 

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