東通原発1号運転開始 日本の原発の将来を見通す
東通原発1号運転開始-日本の原発の将来を見通す
西尾漠(共同代表)
2005年12月8日、東北電力の東通原発1号機(BWR、110万kW)が営業運転を開始した。
www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/
www.tohoku-epco.co.jp/whats/news/2005/51208a1.htm
これにより日本の原発は計54基、合計出力は約4800万kWとなった。他に試運転中の北陸電力・志賀2号機(ABWR、135.8万kW)があり、北海道電力・泊3号機(PWR、91.2万kW)が建設中である。これらを合わせると約5000万kWである。
日本は、アメリカ、フランスに次ぐ世界第3位の「原発大国」である。電力会社の総発電電力量に占める原子力発電の量は、事故などで止まっている原発の多い年を除けば35パーセント前後だ。2005年10月に原子力委員会が決定した「原子力政策大綱」では「2030年以後も総発電電力量の30~40%程度という現在の水準程度か、それ以上の供給割合を原子力発電が担うことを目指すことが適切である」としている。
aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki.htm
aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1-3.pdf#page=36
大綱には資料が付いていて、2030年から2100年まで5800万kWでずっと続く「中長期の方向性」がグラフに示されている。
aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1-3.pdf#page=95
とはいえ、1994年に決められた「長期計画」では2030年に1億kWだったのだから、
aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki1994/chokei.htm#sb30104
ずいぶんと控え目な数字だ。古い原発を建てかえる計画とされていて、その場合には出力が大きくなることを考えれば、基数は減っている-つまり全部は建てかえできないと見ているのだろう。そもそも5800万kWにしたところで、実現の可能性は乏しいと言える。2030年度までには多くの原発が廃炉となって、建てかえもできず、キロワット数も減少するのではないでだろうか。
そうなれば原子力産業が維持できないから、急速に全廃に向かうかもしれない。
さて、54基の原子炉があるが、発電所の数では17であり、そのうちのいくつかは近接している。どの発電所でも、建設計画が明らかにされたのは1970年より前のことだ。1971年以降に計画が発表された地点で、実際に建設に入ったところは1つもない。つまり、日本の数多くの原発は、原発とはどんなものかわからないうちに建設することが決められていたものだけということである。
実際に原発が運転を始めて、その危険性が知られるようになってから計画が浮上した地点では、いまだに1基の原発も建設されていない。東通原発1号機は実に12年ぶりの新規地点での運転開始だが、1965年5月の東通町議会の誘致から40年余りを要した。
ただし、最初の1基目がつくられてしまったところでは、そこに増設されることへの抵抗は弱い。原発の建設時に政府からもらえる交付金は約200億円にもなる。運転開始後はその交付金もわずかな額となり、固定資産税収入も年々減っていく。建設工事の周辺事業(本体工事は大手の企業しか請けおえない)でうるおう地元の中小企業も、運転開始後は急激に収入が落ち込む。「次の原発がほしい」と考える人たちが出てきてもおかしくないだろう。「どうせもう原発はあるのだから、危険なことに変わりはない」とのあきらめもある。
これが、日本に多くの原発がつくられてしまった“秘密”だ。他に、国のすることには逆らえないとする考え方が、過疎地ほど根強いことなどもある。結果として、54基の原発があるわけだ。
しかし、相次ぐ電力会社の不正の発覚や、1999年9月に茨城県東海村のウラン加工工場JCOで臨界事故が起き、2人が死亡、周辺住民も被曝したこと、2004年8月に福井県美浜町の美浜原発3号炉で起きた5人死亡・6人重火傷の配管破断事故などによって、原発を容認してきた地元住民の意識にも変化がある。
国の政策に追随してきた県や市町村も、姿勢を変えてきている。10基計909.6万kWの原発を有する福島県は、2030年までに全原子炉が運転開始後40年を超えて廃炉となることを想定し、原発のお金に頼らない県づくりをめざすと広言している。東京電力は原発の寿命を60年と想定し、2030年までに廃炉となる炉はないとしているが、60年の寿命は現実的でない。
2000年3月から始まった電力小売りの部分自由化が、自由化の範囲を拡大していること、電力需要の伸びが止まったことなど、電力を巡る状況の変化もあり、電力会社は事実上、原発の建設意欲を失った。建設計画が既に発表されているものも、毎年計画を後ろにずらすことが何年もつづいている。
東通原発計画にしても、当初の計画は東京電力と東北電力がそれぞれ1000万kWという巨大なものだった。しかし現在、東北電力の2号機(ABWR、138.5万kW)と東京電力の1、2号機(ABWR、各138.5万kW)の計画はあるものの後退をつづけており、中止の噂が絶えない。今回運転に入った東北電力の1号機が発電する電力も、東北電力にはそれに見合った需要増はなく、東京電力にかなりの量を引き受けてもらわなければ、運転ができない。事実上の共同原発である。他方、電気事業の自由化によって東京電力と東北電力は直接の競争相手となった。協力と競争という矛盾を抱えて、前途は多難のようである。
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原発ステータス
2005年12月時点の状況
運転中・54基(東通1含)
-計4822.2万kW
試運転中(志賀2)建設中(泊3)
-計227.0万kW
着工準備中(島根3)
-137.3万kW
追記・島根3号は2005年12月22日、「着工」となった。
www.energia.co.jp/atom/press05/p051222.html
安全審査中(大間・敦賀3・4)
-計445.9万kW
基本計画了承済(許可申請準備中)(上関1・2)
-計274.6万kW
廃炉
東海-16.6万kW
ふげん-16.5万kW
凍結中
もんじゅ-28.0万kW
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東通原発1号営業運転開始
東北電力東通1号機(青森県東通村)が12月8日営業運転を開始した。同原発は沸騰水型原子炉(マークI改良型)出力110万キロワットで、98年に着工し05年11月から試運転を行なっていた。東北電力は現在女川原発1~3号機すべてを停止しても需要を満たしており、同原発の電気はほとんど東京電力に売却される見込みである。東通村ではこの他に東京電力1号機(2013年度)、同2号機(2015年度以後)、東北電力2号機(2016年度以後)の運転開始が予定されているが、需給動向から計画の延期・凍結の可能性も高い。
『原子力資料情報室通信』379号(2006.1.1)短信
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