40年間未点検―敦賀1号炉・再循環ポンプなどの溶接部 他の沸騰水型炉でもつぎつぎと未点検が判明
40年間未点検―敦賀1号炉・再循環ポンプなどの溶接部
他の沸騰水型炉でもつぎつぎと未点検が判明
■溶接部があることを日本原電は知らなかった!?
日本原子力発電は7月21日、敦賀1号炉(沸騰水型炉、35.7万kW)の再循環ポンプに、営業運転開始の1970年以来1度も点検したことのない溶接部があることを明らかにした。
敦賀1号炉では来年の1月から始まる定期検査期間中に再循環系配管の大規模な取り替えを計画している(『原子力資料情報室通信』第432号)。取り替え計画の検討していた今年3月に、米国のメーカーから図面や書類をとりよせたところ、それまで知られておらず未点検の溶接部が存在する疑いが出てきた、と日本原電は説明している。6月10日に敦賀1号炉が湿分分離器のドレンタンクからの蒸気漏れで停止した際に、3基ある再循環ポンプのうち1基を実際に調べたところ、図面に記載された溶接部が存在することが、6月15日までに確認された。
未点検の溶接部が見つかったのは、再循環ポンプのケーシング(外殻)というステンレス鋳鋼製の部分である。図に示したように、「延長ノズル」、「下部ケーシング」にそれぞれ1か所、「コアクロージャ」(製造時の放射線検査で線源を入れるための穴をふさいだ跡)に4か所の溶接部が1基の再循環ポンプに見つかった。敦賀1号炉には3基の再循環ポンプがあるから、再循環ポンプとしては18か所の溶接部が未点検のままであったことになる。
日本原電は再循環ポンプ以外にも9個の弁に未点検の溶接部があるとしているが、詳細は公表されていない。新聞報道によると、緊急炉心冷却系の1つである炉心スプレイ系の弁も含まれているとのことである。
■「高経年化技術報告書(40年目)」の認可は無効
沸騰水型炉において再循環ポンプは、原子炉を流れる冷却水の量を調整すると同時に、原子炉の出力を調整する役割を担っており、原発の心臓ともいうべき重要な機器である。再循環ポンプが破損したり、再循環ポンプから冷却水が漏れたりすると、大きな事故に直結する。
再循環ポンプのケーシングに溶接部があるということは、溶接部の近傍に応力腐食割れという損傷が発生する可能性があることになる。
日本原電が2009年2月に策定し8月に認可された敦賀1号炉の「高経年化技術報告書(40年目)」においては、当然ながら、今回確認された溶接部の点検・保守計画は含まれていない。再循環ポンプのケーシングに溶接部などないことになっているから、原発の老朽化で考慮すべき現象としては疲労破壊のみとされている。この報告書をふまえて敦賀1号炉の営業運転を2016年まで延長しているのだから、日本原電は今の段階ではそれを撤回し、すぐにでも敦賀1号炉の運転を止めるのが筋ではないか。
今回の再循環ポンプ1基の実地調査で、日本原電は溶接部の液体浸透探傷検査を行ない健全性を確認した、と説明している。また、定期検査ごとに漏えい検査も行なっているから問題はないともいっている。これは安全上大きな問題をはらんでいる。液体浸透探傷検査で見つかるのは表面の傷だけであって、内部に進行中のものがあっても見つけることはできない。漏えい検査も、漏えいするような傷が内部から表面に達していなければ、問題なし、ということになってしまう。「壊れていなければ安全」というのでは、再循環ポンプの重要性を考えたら非常にお粗末な安全意識である。
■浜岡、福島第一・福島第二・柏崎刈羽でも
未点検の溶接部が存在することが明らかになったのは敦賀1号炉だけではなかった。
9月9日、中部電力は浜岡3・4・5号炉の原子炉隔離時冷却系ポンプと原子炉冷却材浄化系弁に未点検の溶接部があることを公表した。また、9月15日には東京電力が、福島第一6号炉、福島第二1・3号炉、柏崎刈羽1・2・3・7号炉の原子炉隔離時冷却系ポンプ、高圧炉心スプレイ系ポンプ、残留熱除去系ポンプ、原子炉冷却材浄化系弁に溶接部が存在し、これまで未点検であることが明らかにされている。これまでに判明している分を一覧表にまとめておく。
日本原電もふくめて、各電力会社がこれらのポンプ類の図面を持っていなかったというのは、にわかには信じがたい。「製造時の検査記録、過去に 実施した分解点検や試運転時の漏えい確認、定期的に実施している定例試験等により健全性を確認しております」などと、いうのは安全意識が欠如しているとしかいいようがない。
追記:志賀原発、島根原発でも,未点検のポンプや弁があることが明らかになった。
(上澤千尋)
〈参考資料〉
■7月21日 敦賀1号炉
日本原電
敦賀発電所1号機 原子炉再循環ポンプ等の点検について
www.japc.co.jp/tsuruga/news/info/20100721_plr_pump_tenken.html
■9月9日 浜岡
中部電力
浜岡原子力発電所における供用期間中検査の管理状況に関する調査結果について(原子力安全・保安院への報告)
www.chuden.co.jp/energy/hamaoka/hama_info/hinf_topics/__icsFiles/afieldfile/2010/09/09/220909kyouyoukikanchuukensa.pdf
■9月15日 福島第一,福島第二,柏崎刈羽
東京電力
当社原子力発電所における供用期間中検査計画の管理状況に関する調査結果について
www.tepco.co.jp/cc/direct/10091501-j.html
■9月29日 志賀2号炉
北陸電力
供用期間中検査計画の管理状況に関する調査結果について
www.rikuden.co.jp/press/attach/10092903.pdf
保安院
志賀原子力発電所第2号機の原子炉隔離時冷却系のポンプ支持部材の溶接箇所の確認について
www.nisa.meti.go.jp/oshirase/2010/220929-2.html
■10月1日 島根1号炉
中国電力
島根原子力発電所における供用期間中検査の
管理状況に関する調査結果について
www.energia.co.jp/atom/news/101001-1.html
保安院
中国電力株式会社島根原子力発電所のポンプ及び弁の溶接箇所の確認について
www.nisa.meti.go.jp/oshirase/2010/221001-3.html
■10月12日 浜岡原発機器点検
中部電力(10月12日)
浜岡原子力発電所3、4、5号機 機器の点検周期を超過した点検計画
および実績に係る調査について
www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3105516_6926.html
安全委員会への保安院の報告(10月14日)
中部電力株式会社浜岡原子力発電所の点検周期を超過した機器等に係る調査結果に対する指示について
www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2010/genan064/siryo1.pdf