新大綱策定会議奮闘記(7)えっ、原子力35%??異常な事態

『原子力資料情報室通信』第455号(2012/5/1)より

新大綱策定会議奮闘記(7)
えっ、原子力35%?? 異常な事態

 基本問題委員会ではエネルギーミックスの議論をしているが、3月に入ると事務局から電源構成の割合に関して成長率などを盛り込んだ定量的な評価を行う意向が強く示された。評価は2030年時点で行うという。

 これに対し、8名が連名で、事務局が行う数値評価は選択肢ではないこと、新たな社会像とそれを実現する政策の基本方針を軸とした政策議論こそが、選択肢の議論を進めるべき本来の姿だとする意見書を提出した。8名は、阿南久、飯田哲也、植田和弘、枝廣淳子、大島堅一、高橋洋、辰巳菊子(敬称略)と伴だ。各人がそれぞれ提出するよりインパクトが大きいので連名で出すことにした。

 三村明夫委員長(新日本製鉄会長)は、自分は経済分析のことはよくは分からないと言いながらも、それでも定量的な評価を実施すると、強硬姿勢だった。

 結局、この定量的な評価結果に基づいて、それらの案を実現していくための政策パッケージが組み込まれていくことになるのだろうと思っている。しかし、定量的な分析結果に政策パッケージがぶら下がるのは本末転倒で、これでは、省エネルギーの抜本的強化、再生可能エネルギー開発・利用の最大限加速化といった政策の基本方針に沿って議論はされないだろう。電力の一般消費者まで含めた全面的な自由化を進めるべきという主張を筆者含めて複数の委員から提案しているが、事務局の定量的な分析を中心としたやり方では、このような議論は行われないと思われる。

5つの意見分類

 ミックスの割合を数値で示さなかった委員もいたが、多くの委員からさまざまな割合が出てきた。筆者は、結局は事務局が計算器を回して数値を出してくることは避けられないと考え、原発をゼロとし、省エネと再生可能エネルギーを中心とした姿を念頭に数値を当てはめることにした。コスト検証委員会で検討された潜在量を2050年には達成するべきとの考えから割り振って提出した。
 事務局はこれを5つに分類した。①原発に係わる全コストを事業者(受益者)に負担させた上で市場メカニズムにゆだねることでしかるべき割合に落ち着く。政策は市場の失敗などに対応したものとする、②原発の比率をできるだけ早くゼロにするとともに、エネルギー安全保障、地球温暖化対策の観点などから再生可能エネルギーを基軸とした社会を構築する、③原発への依存度を低減させて一定比率を維持する(原発依存度20%)、④原発を引き続き基幹エネルギーとして位置付ける(原発依存度25%)、⑤現状程度の設備容量を維持(35%)、の5つである。
 そして①は定量評価できないので、数値評価の対象を②~⑤の案とした。計算にはひと月かかるという。5つの機関に依頼して客観性を持たせるから時間がかかるのだそうだ。

仕組まれた35%?

 山地憲治委員は原発の割合を18%と35%の2案を提出していた。彼の現職は地球環境産業技術研究機構の理事・研究所長であり、同機構は温暖化問題の炭素貯蔵などを研究している。彼は東大原子力工学科を卒業して電力中央研究所に入所、その後東大教授を務め、2010年から現職につている。一貫して原子力を推進する立場で活動している。
 基本問題委員会では、原子力依存を減らして行くのが方向であるのに増やしているとして、35%を取り下げるように複数の委員から迫られたが、現行エネルギー基本計画と比較すれば減らしている、と詭弁を弄してこだわった。彼はまた、今国民は感情的になっているのでこれに流されてエネルギー政策を議論するべきでない、とも言い放った。原子力産業に身を置いていた人間としての福島原発事故への反省は微塵も感じられない。
 35%はただひとり山地委員だけが主張したものだが、三村委員長は「一つの案として生かしておく」と採用した。
 山地委員の意図がいっそう明瞭となったのは、3月28日の新大綱策定会議の席上だった。この会議では各委員の意見分類として4つの選択肢が示されている。1)原発規模を福島原発事故前の水準程度に利用して行く、2)原発規模を低減させ、一定の水準で利用して行く、3)一定の期間をもってゼロとする、4)今年より利用しない、の4つである。事務局は、ここは基本問題委員会での議論を受けて、割合は決まると主張していた。ところが山地委員は、新大綱策定会議での1)と2)の主張に対応して、基本問題委員会で割合を提案したというのである。
 なぜたった一人の案を、しかも減原発依存という基本方針に真っ向から反する意見を採用したのか? 初めから策定会議と基本問題委員会の事務局同士が申し合わせていたとしか考えられない。

20%ですら政府方針に反する

 福島事故前は約5000万キロワットの設備容量があった。福島原発が廃炉となり、原発の運転年数を40年とすることが原則とすれば、2030年時点で稼働している既存原発は19基、出力は約2000万キロワットである。事故前の設備利用率70%で計算すると原子力は12%、利用率80%と高く見積もっても14%ほどにしかならない(委員会案では、2030年時点の電力需要量を1兆キロワット時としている)。従って、この案は建設中や増設予定(許可申請中)の原発の運転入り、あるいは40年を超えて運転する原発を前提としていることになる。35%は、加えて新規建設や60年運転を前提としたものになる。

 基本問題委員会が今年はじめにまとめた基本方針は、?省エネ・節電の抜本的強化、?再生可能エネルギーの最大限の加速化、?火力発電のクリーン利用、?原発の依存度をできる限り減らす、である。なのに、そのような案が出てくるとは!!
(伴英幸)


 新人目線で傍聴の感想をお伝えします。今回は選択肢の見せ方についてです。基本問題委員会では「原子力発電への依存度のできる限りの低減」を掲げ、エネルギー選択肢を提示しました。原発比率は0、20、25、35%です。選択肢に35%があると、20%と25%は高くない値に見えます。それを狙って35%を採用したのでしょうか? 2010年度、原発電力の実績は26.4%でした。原発比率4つのうち2つは原発依存の低減をしていません。
(谷村暢子)


●伴英幸提出の新大綱策定会議奮闘記
(6)核燃料サイクル技術検討小委員会のまとめ
  https://cnic.jp/1336
 ・今後のエネルギー政策は?脱原発こそ進むべき道
 https://cnic.jp/1317
(5)形式的やりとり続く各委員会
  https://cnic.jp/1296
(4)原発の安全文化は根付かない
  https://cnic.jp/1248
(3)基本問題委員会も設置され、エネルギー政策の見直しへ
  https://cnic.jp/1233
(2)柏崎刈羽原発「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりません」(清水電気事業連合会会長)
  https://cnic.jp/988
(1)脱原発・核燃料サイクル政策の転換を求め続ける
  https://cnic.jp/977

●【VIDEO】CNIC伴英幸による委員会報告(2) 2012/2/2
  http://www.ustream.tv/recorded/20164870
 【VIDEO】委員会報告(1) 2011/10/06
  http://www.ustream.tv/recorded/17706995

 

 

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