公開研究会報告:福島第一原発事故 わかっていること、わかっていないこと/原発がなくても電力は足りる―廃炉への道
『原子力資料情報室通信』第455号(2012/5/1)より
公開研究会報告
福島第一原発事故 わかっていること、わかっていないこと
原発がなくても電力は足りる―廃炉への道
山口幸夫
前号の3回連続公開研究会「①原子力規制庁のありかたを問う」報告に引き続き、今号では第2回(3/15)と第3回(3/22)の報告をまとめて紹介する。
※3回連続公開研究会の当日配布資料、録画映像を下記URLにまとめている
https://cnic.jp/1315
② 福島の原発はどうなっているか(3月15日)
長年にわたって原子力資料情報室で原子炉の事故・危険性の問題に取り組んできた上澤千尋が、東電発表、政府事故調の中間報告、独自の事故解析を混じえて、311の事故から1年たった現在の知見を語った。
しかし、真実はわからないことだらけである。実際の測定データとコンピュータシミュレーションとを比較しても、再現できないところが多々ある。実測値が信頼出来ないのか、シミュレーションに問題があるのか、あるいはその両方か、謎だらけだという印象を受けた。
上澤が示した問題点は以下の11項目である。
・地震によって何が壊れたのか、放射能は漏れなかったか。
・津波は何度襲来し、どこまで浸水したのか。
・外部電源および非常用電源の喪失はなぜ起きたのか。
・外部電源の水位計など、運転に関わるパラメータはどの程度信頼できるのか。
・炉心の溶融はいつ始まったのか。
・格納容器ベントはどのように機能したのか。
・1号炉と3号炉の水素爆発はどのように起きたのか。
・2号炉の格納容器はどのように壊れたのか(爆発したのか)。
・4号炉はどのように爆発を起こしたのか。
・放射能はどの時刻にどれだけ放出されたのか。
・溶融燃料、圧力容器、格納容器はいまどうなっているのか。
どれもこれも重要な疑問点である。これらが説明できれば、福島原発の事故が解明されたということになるだろう。
議論の手がかりは東電の福島事故調査報告(中間報告)である。1号機の原子炉水位、原子炉圧力、格納容器のドライウェル(D/W)と圧力抑制室(S/C)の圧力の4種のプラントデータが時間とともにどのように推移したかを追って、何がどのように起こったのかを上澤は推測した。
だが、整合性のある推論が難しい。東電自身はシミュレーションに合わない箇所、例えば水位計の実測値はオカシイ、とする。水位計は2ヶ所の水位の圧力差で計るのだが、上の水溜めに水がなくなっていた、と言う。また、原子炉格納容器が、地震から約15時間後に破損したとされるが、その直前数時間のデータが全く再現出来ていない。2号炉の圧力容器の熱電対温度計もオカシイ。
JNES(原子力安全基盤機構)のコンピュータシミュレーションでは、地震によって再循環系配管で0.3cm2の面積の亀裂が生じたとすると、水量の初期漏洩は約0.7トン/時にもなるのだが、漏洩がない場合との違いが区別できない。つまり、ずっと議論の対立点になっている、地震動によって破滅状況が始まったのか、津波なのかが、今のところ、わからないのである。
このような曖昧な状態はいつ、どうやって解明されるのだろうか。
③ 原発なしで大丈夫(3月22日)
(1)最初の講演は環境エネルギー政策研究所(ISEP)・主任研究員の松原弘直さんである。今、世界で何が起こっているか、と世界情勢を述べた。地球規模での人口増加、資源ピーク(エネルギー危機)、食糧危機、環境破壊、気候変動、そして経済成長の複雑な関係についてである。化石エネルギー資源に頼りきった従来の社会システムでは行き詰まる。そこで、どうしても再生可能エネルギーでやっていくしかない。だがそれは現実にできるのか、と問うて、十分可能だというのが講演の主旨であった。
5月5日には、日本の全原発が止まる。電気はどうなるか? とくに問題になるとされている関西電力の場合でも、2012年夏、火力、一般水力、揚水電力でまかなえる、電力融通というシステムもある、というのが松原さんの主張である。
世界の再生可能エネルギーの設備容量は急成長して3.81億kWを2010年に達成した。原発は停滞していて、3.71億kWである。もう落ち目だという。
日本の場合を検討して、再生可能エネルギーのポテンシャル、スマートグリッドへの変換、グリーン電力証書制度、市民ファンドによるエネルギー事業などの社会システムと法制度の整備によって原発なしで電力は足りると松原さんは明言した。
(2)次に原子力資料情報室の山口が、核エネルギー無しで、この社会は動きうるのでは、と問題提起した。1979年、アメリカの物理学者エイモリー・ロビンズが『ソフト・エネルギー・パス』を著して大きな議論を巻き起こしたが、それに刺激されて、現在のハードパス社会からソフトパス社会への転換を図らねばならないと考えたのである。
11項目にわたるキイワーズを示して具体的にソフトパス社会はどういうものかを説いた。「資源エネルギー」は、再生可能なバイオマス、太陽、風、地熱などにする。石油・石炭・天然ガス・ウランは必ず枯渇する。「廃棄物」は、自然に還るものに限る。現在は、ダイオキシンが排出されるし、大気・水・土壌の汚染が進んでいる。廃棄物が大量に出るような社会は持続しない。
ソフトパス社会というとき、「時間」もしくは「速さ」をどう考えるかが、一番むずかしい問題ではないか。時間を節約するのか、エネルギーを節約するのか。ひとは時間を節約するのが文明の進歩だと考えてきたが、果たしてそうか、というわけである。
「教育・学校」についても、大変革が必要だ。エリート教育ではなく、いろいろな個性との出会いの場として学校を考えなおす。専門家を養成するのではなく、ジェネラリストを養成したい。「科学」は持続可能な社会のための科学をめざしたい。おのずと「原子力ムラ」をなくすことが可能になるのではないか。
夢物語ではなく、望むと望まないにかかわらず、ソフトパス社会にならざるをえないのではないか、というのが山口の提起である。