原子力長計策定会議「新計画の構成」への意見

原子力委員会「新計画の構成(案)」に対する意見です。

(1)西尾漠
(2)山口幸夫

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(1)西尾漠

意見対象箇所:1ページ「はじめに」
意見及び理由:変化をこそ重視すべきである。
 新計画の策定にあたり、原子力委員会は昨年6月15日、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画の策定について」と題する文書を委員会決定しました。そこでは「新たな状況を生じてきてい」ることが新計画策定の理由の1つに挙げられていますが、「新計画の構成(案)」では触れられていません。しかし、2ページの「2.1 現状認識」に述べられている如く現行計画策定時からは大きな変化があり、あるいは現行計画策定時にも認識されていた変化がいっそう顕在化してきています。
 新計画の策定では、これらの変化をこそ重視すべきではないでしょうか。策定会議では複数の委員から現行計画の継承が論じられていましたが、それならば大げさな策定会議の必要もありません。
 変化をきちんと認識することの不十分さが、「3.1.原子力活動基盤の一層の充実」に見られるような平板な記述につながっているのだと思います。具体的な対応策すら見出せない現実を空語で糊塗している好個の見本は「(4)人材の育成及び確保」でしょうが、他の項目でも実態は変わりません。

意見対象箇所:1ページ「はじめに」、4ページ「3.2.原子力利用の着実な推進(1)エネルギー利用」
意見及び理由:新計画が何を目指しているのかを明らかにすべきである。
 現行計画策定時からの状況の変化を踏まえ、まさに「長期的かつ総合的視点から」新計画は何を目指すのかをまず明らかにすべきではありませんか。
 長期的視点の欠落が、かえって「3.2.原子力利用の着実な推進」中の「2030年以降も」や「2050年頃から」といった無意味で無責任な長期目標(?)の紛れ込みを許す結果となっているように思われます。これらは当然ながら削除すべきです。

意見対象箇所:1ページ「はじめに」
意見及び理由:原子力長期計画の限界をはっきりさせるべきである。
 原子力基本法は原子力の推進を「人類社会の福祉と国民生活の水準向上」という目的達成の手段としてうたっており、その故に原子力長期計画で脱原発の議論は取り上げられないとの説明が、策定会議の中で何度かありました。たとえば直近では第23回会議において近藤委員長は「原子力委員会の使命は、原子力の研究開発利用を通じて、将来のエネルギー資源を確保することを目的として設置されているものであるところ、原子力を一生懸命止めることを議論することがミッションかというと」うんぬんと発言されています。
 そうであるとすれば、「はじめに」で長期計画にはめられている枠をよりはっきりと明記するのがよいと思います。同時に、原子力行政・安全行政の全体が原子力の「推進」という基本法の2文字に縛られ、「安全の確保」も「広聴広報活動」もすべて「推進」のためのものとされざるをえない不合理さも指摘されることが望ましいでしょう。それによって世論を喚起し、立法府に原子力基本法や原子力委員会及び原子力安全委員会設置法等の法改正を促す効果が期待できます。

意見対象箇所:1ページ「はじめに」、3ページ「3.1.原子力活動基盤の一層の充実(2)原子力と国民・地域社会との共生」
意見及び理由:「国民の意見を踏まえつつ定め」る具体的な姿を示すべきである。
 「はじめに」で「国民の意見を踏まえつつ定めた基本的考え方」と書くのであれば、それに見合った中身が要ります。まさか今回の意見募集と新計画本体の草案についての意見募集および「ご意見を聞く会」で足りるということではないでしょう。
 「3.1.原子力活動基盤の一層の充実(2)原子力と国民・地域社会との共生」にはより積極的に「政策決定過程に国民の意見を反映させる」とあります。「国民にとって効果感があるものにしていく」具体的な姿が示される必要があると思います。なお、同ページでは、「原子力と国民・地域社会との共生」とくくられた中で、「広聴広報活動」、「学習機会の整備・充実」と並列的ないし付随的に「国民参加への取組」が記述されています。これではまったく不十分と言わざるをえません。他ならぬ長期計画への国民の意見の反映のさせ方が、別途提案されて然るべきではないでしょうか。

意見対象箇所:1ページ「原子力開発利用推進の基本的目標」
意見及び理由:無意味な「目標」を掲げる必要はない。
 ここに書かれていることは、スローガンとしても一般的に過ぎ、何も言っていないに等しいと思います。紙面の無駄以外の何ものでもありません。

意見対象箇所:2ページ「2.1 現状認識」、4ページ「3.2.原子力利用の着実な推進(1)エネルギー利用」
意見及び理由:原子力発電は「循環型社会の形成」や「エネルギーの安定供給の確保」に貢献しない。
 第28回策定会議の資料第1号「新計画の構成(案)」にはなかった「省エネルギー努力に最大限に取り組む」とか「安全性、安定性、経済性を絶えず向上させるなど」とかの記述が追加されたことは、当然の修正として評価しますが、「それならなぜ原子力なのか」との疑問がいっそうふくらんできます。同じことが「3.2.原子力利用の着実な推進(1)エネルギー利用」ではさらに顕著になります。
 原子力発電が「循環型社会の形成」や「エネルギーの安定供給の確保」に貢献しないことは、お手数ながら第21回策定会議資料第3号「御発言メモ」の伴英幸委員の意見書に添付していただいた拙稿「原子力か新エネルギーか」をご参照ください。

意見対象箇所:2ページ「2.1 現状認識」
意見及び理由:「新規設備の経済性の向上及び既存設備の有効利用」は危険を拡大する。
 もともと無理な経済性の追求は、健全な経済性につながらず、危険を増すのみです。「電力需要の伸びの鈍化」「大型原子力施設への投資に対してより慎重な姿勢」を好機として、脱原発・エネルギー低消費社会を目指すことこそが選ぶべき道だと思います。少なくともそうした考え方のあることを「現状認識」とすべきです。

意見対象箇所:2ページ「2.1 現状認識」
意見及び理由:核燃料サイクル分野への投資は効果が期待できない。
 「現状認識」としては「大きな投資が行われてきた」にもかかわらず成果がないことを記述すべきでしょう。なぜそうなのかから「現状認識」は出発すべきです。

意見対象箇所:2ページ「2.1 現状認識」
意見及び理由:放射線利用には危険も伴う。
 ここは「現状認識」なのですから、放射線利用に伴って現に起きている過剰照射など、さまざまな問題も指摘しておく必要があります。

意見対象箇所:2ページ「2.2 今後の取組の基本的方向」
意見及び理由:「基本的方向」の記述は必要ない。
 ここは紙面の無駄でしかありません。個々の記述への意見は放棄します。

意見対象箇所:3ページ「3.1 原子力活動基盤の一層の充実(1)安全の確保」
意見及び理由:「安全の確保」はそれ自体が大前提でなくてはならない。
 「安全の確保」が「原子力活動基盤の一層の充実」という中に位置付けられているのは不当ではありませんか。とりわけ「原子力施設の安全が確保され、そのための活動が確実に実施されることが大前提である」とした後、「また、関係者がその状況を国民に十分に説明し理解されるように努力すること」とつなげられていることには見識を疑います。
 実を言えばこの記述は、第27回策定会議の資料第4号「新計画のあり方(案)」では「原子力施設の安全が確保されていること、そのための活動が確実に実施されていることが国民に正確に理解されていることが大前提として必要である」とされていました。即ち安全の確保自体が大前提ではなかったのです。その点は修正されたとはいえ、根本的な思想としては修正されていないことが、現在の「安全の確保」の扱いに残っていると言わざるをえません。
 なお、「詳細版」にはあるものの「新計画の構成(案)」では事業者の責任についての記述がないことも、安全の確保の根本が軽視されている印象を抱かせるに十分です。

意見対象箇所:3ページ「3.1.原子力活動基盤の一層の充実(3)平和利用の担保」
意見及び理由:「平和利用の担保」の扱いが軽過ぎる。
 原子力基本法を改正するなら「平和利用の担保」と「安全の確保」を法の目的とし、原子力委員会・原子力安全委員会の設置の意義を鮮明にさせるのがよいと思っています(「平和利用」という用語には異論がありますが、ここでは措くとします)。その意義のあいまいさが両委員会の無用論として噴出しているというのは余談ながら、「平和利用の担保」の扱いが「原子力活動基盤の一層の充実」の1つでよいはずはないでしょう。
 ヒロシマ・ナガサキの被爆から60年の年に策定される原子力長期計画としては、少なくとも現在、原子炉等規制法に定められた原子炉設置許可時や再処理の事業指定時の「平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」の審査すら実質的には行なわれていない(「経理的基礎」についても同じ)ことの反省なども踏まえて、原子力委員会の役割の点検が必要ではないでしょうか。

意見対象箇所:4ページ「3.2.原子力利用の着実な推進(1)エネルギー利用」
意見及び理由:既設プラントの「高度利用」は「安全確保活動」ではない。
 「高度利用」の中身はここでは不明であり、説明がなされていないのは困ったことです。その上で「高度利用」が「こうした安全確保活動」と呼ばれるべきものであるとは信じられません。削除すべきでしょう。

意見対象箇所:4ページ「3.2.原子力利用の着実な推進(1)エネルギー利用」
意見及び理由:再処理・高速増殖炉などについての記述は適切でない。
 いま以上に核燃料物質の流れを複雑にし、新たな施設をつくることは、経済性のみならず、本来の意味の循環型社会の追究、エネルギーセキュリティの確保、将来における不確実性への対応能力等を総合的に勘案しても、また核不拡散や放射線災害の危険性等から考えても、思い止まるのが合理的であり適切です。

意見対象箇所:5ページ「3.2.原子力利用の着実な推進(2)放射線利用」
意見及び理由:「放射線の生体影響研究と放射線防護」の記述漏れがある。
 現行長期計画にある項目です。今回は削除するという理由はないでしょう。なお、現行計画では、国際協力のうち「原子力安全に関する協力の推進」を独立させて記述し、その中で「放射線被ばく医療分野での国際的な協力」などが重要としています。

意見対象箇所:5ページ「3.3.原子力研究開発の着実な推進」
意見及び理由:安全研究をこそ重視すべきである。
 開発、とりわけ「大型研究開発施設」の建設を安全の確保より優位におく考え方自体が改まらない限り、「安全の確保」は絵にかいた餅にしかなりません。

意見対象箇所:6ページ「3.4.国際的取組の着実な推進(1)核不拡散体制の維持・強化」
意見及び理由:「軍縮外交」ではなく、核兵器の廃絶に向けた働きかけが必要である。
 現行長期計画には「核兵器廃絶を目指し、2000年NPT運用検討会議で合意された『全面的核廃絶に向けての明確な約束』を含む将来に向けた『現実的措置』の実施に向けて積極的に働きかけていく」とあり、CTBTやFMCTについても記述があります。「新計画の構成(案)」は、明らかに後退しています。

意見対象箇所:6ページ「3.4.国際的取組の着実な推進(3)原子力産業の国際展開」
意見及び理由:原子力発電の導入・拡大は「我が国にとっても利益のあること」ではない。
 「各国が原子力発電を導入・拡大することは、エネルギー資源をめぐる国際競争の緩和や地球温暖化の抑制につながり」というのは事実に反しています。少なくとも論証されていません。原子力産業にとって利益のあることかもしれませんが、「官民協調して対応する」べき根拠はありません。この項目は削除することが適当と思います。

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(2)山口幸夫

「新計画の構成」に対する意見

「新計画の構成(案)の ”はじめに”」のところで

“原子力研究開発利用推進の基本目標をまず設定し、そのための基本的方向、基本的考え方”という構成で整理するのは、おかしいと考えます。

(1)「原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来における資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会と国民生活の水準向上とに寄与することを目的にする」という原子力基本法の第1条のはじめの部分を、“原子力研究開発利用推進”と表現するのは間違いです。研究は推進しても、開発や利用は待つ、様子を見るということがありえます。
 (2)そう言うわけを述べます。原子力基本法から50年たった現在、「安全の確保を
前提に」は崩れたではありませんか。近年の事故を挙げるだけでも、もんじゅ事故、動燃再処理工場の火災・爆発事故、東電原発トラブル隠し、関電美浜3号炉の配管破裂事故と続きました。これからも、続くでしよう。維持基準によって、老朽化のすすむ原発の安全を確保するのは無理です。すなわち、技術的に核エネルギ?を制御できないと言うのに十分な時がたち、経験をしたのではありませんか。
 (3)いまや、原子力基本法じたいを議論すべきときなのです。原子力委員会がその議論をしなかったら誰がするのですか。そこは政治家にゆだねるというのでは、主体性がなさすぎます。

そこで、提案します。

 「構成」のまず第一番目に、原子力の是非、および、原子力を扱うさいの範囲と将来展望、とを論じる柱をたててください。