発見できない、「維持基準」も守れない再循環系配管の応力腐食割れ-福島第二3号炉、柏崎刈羽1号炉(『通信』より)

発見できない、「維持基準」も守れない再循環系配管の応力腐食割れ
-福島第二3号炉、柏崎刈羽1号炉

『原子力資料情報室通信』383号(2006.5.1)より(図版略)

 直径60センチで厚さ4センチのステンレス管(SUS316LC材)の内壁に1周分、およそ180センチにわたる亀裂をかかえたまま、原発が運転されていたということが3月23日に明らかになった。この原発は福島第二原発3号炉(沸騰水型炉、110万キロワット)で、ひび割れがあったのは再循環系配管だ(図1を参照)。ひび割れが溶接部の近くで起きていることおよび形状から、応力腐食割れが起きているとみられる。この再循環系配管で、亀裂の見逃しがあったことは381号の「短信」で伝えた通りである。別のひび割れ発見で取り替えた配管溶接部の試験片の検査で、たまたまみつかったものだ。

 東京電力の報告書「福島第二原子力発電所第3号機 原子炉再循環系配管に係る超音波探傷試験の判定について」によれば、2001年10月の定期検査期間中に行なわれた自主検査で超音波によるひび割れの影(エコー)が記録され、2003年9月の定期検査期間中に行なわれた自主検査でも同様の影が確認されている。2004年12月2日に定期検査で原子炉を停止するまでの間、あしかけ3年以上放置され、運転が続けられていたことになる。

 ひび割れは管の周方向には、とぎれたり、複数本のひび割れが並んだりしながら、完全に1周しているのが確認されている。深さ方向には、4つの位置で5箇所のひび割れの深さを断面観察で測定したところ、5.9~8.8ミリに達していることがわかった(図2を参照)。
www.tepco.co.jp/fukushima2-np/presrs/060207.pdf

 いわゆる維持基準として採用されている日本機械学会の「発電用原子力設備規格 維持規格(2002年度版)」では、ステンレス管の欠陥評価(EB-4000)の周方向の「許容欠陥寸法の限界」は角度にして60度となっている。今回みつかった福島第二3号炉は、全周にわたっているからひび割れの角度は360度であり、この「許容限界」を完全に超えている。基準違反の状態で原発の運転を続け、しかも、ひび割れの影が検出されていたにもかかわらず、それとは気づくこともできず2回も見逃していたのである。

 見逃しが起きた原因について、東京電力は「溶接部を検知した影だと勘違いしていた」とか、「まさか全周にわたるひび割れが起きるとは思っていなかった」といったような、いいわけがましい説明を行なっている。これらは、東京電力とメーカーや検査会社の技術的レベルが高くないことをはっきり示している。

 それを実証するかのように、柏崎刈羽1号炉(沸騰水型炉、110万キロワット)でも亀裂が見逃されていたことがあきらかになった。前記報告書および4月6日に評価がされたとする「柏崎刈羽原子力発電所第1号機 原子炉冷却材再循環系配管の欠陥評価について」によると、再循環水出口配管のノズルの溶接部2箇所で4つのひび割れがみつかった(図1を参照)。

 柏崎刈羽1号炉は現在定期検査中で、再循環系配管の溶接部には高周波誘導加熱による応力緩和措置が施されていた。福島第二3号炉でのひび割れ発見を受けて、検証のために超音波による検査を行なったものである。ひび割れは、深さ4.3~5.9ミリで、長さ11.0~41.0ミリである。もちろん、応力緩和措置をしたからといって亀裂が消えるわけではない。柏崎刈羽1号炉でも、過去の検査記録をたどっていくと2回前の定期検査時の記録にひび割れの影が残っていたことが明らかになっている。

 福島第二3号炉のひび割れ見逃しに対して原子力安全・保安院は、応急的な対策を電力各社に指示すると同時に、「PD認証制度」が発足したとことから欠陥評価の基準をゆるめるような決定をした。ひび割れの深さが測定しにくいステンレス管(SUS316LC材)に対して、これまで4.4ミリの「かさ増し」をして欠陥の構造強度の評価をするように指定していた基準を、「PD認証」を受けた者が測定・評価をする場合、4.4ミリの「かさ増し」を解消するというのである。

 ここでいう「PD認証制度」のPDは、Performance demonstration(性能実証)の略で、ステンレス管(SUS316LC材)の溶接部近傍の超音波による探傷検査の寸法測定について、ある技術レベル以上のものに対して認証する制度である。今年3月に行われた第1期の試験で合格したのはわずか3人とのことである(受験者は20人弱)。

 いずれにしても、再循環系配管のひび割れの超音波探傷については、寸法測定はおろか、満足にひび割れをみつけることもできないのである。超音波探傷の技術の信頼性が低いこと、その検査結果に基づいて行なわれる健全性評価も信用できないことをはっきり示している。ひび割れが隠れているのがこの2つの原発だけということはないだろう。

(上澤千尋)

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