【視点】敦賀2号の審査中断

『原子力資料情報室通信』10月号掲載予定原稿事前公開

 原子力規制員会(規制委)は8月18日、日本原子力発電(原電)敦賀原発2号機の新規制基準適合性審査の中断を決定した。審査資料の書き換えにつき、「①調査データのトレーサビリティが確保されること、及び、②複数の調査手法により評価結果が審査資料に示される場合はその判断根拠が明確にされること、の2点が確保される業務プロセスの構築が確認されるまでの間は、審査会合を実施しない」としている。

 実は、同原発の審査中断は初めてではない。審査に入る前から、敦賀原発敷地内断層が活断層なのか活動性はないのか、断続的に議論が続いていた。そして2019年8月に原電が、提出した審査資料に約1000件の誤記があったとして「記載不備」を申し出、同月と10月の審査会合はその問題にあてられ、事実上審査は中断された。さらに20年2月、「このようなことが二度とないように」という原電の和智信隆副社長の宣誓から始まった審査会合で原子力規制庁(規制庁)の審査担当者らが、審査資料に重大な書き換えがあると指摘、10月に元資料が提出されるまで中断した。他方で規制委は、書き換え問題についての原子力規制調査を審査に加えることとし、原電本社の立ち入り踏査などを実施。11月から「データ書換えの原因調査分析に係る公開会合」も開始している。

 問題となっている資料は敷地内断層のボーリング柱状図データで、地質が固まっていない「未固結」の記載があったものが「固結」に書き換えられたりしているというもの。他にもさまざまな書き換えがあり、総じて「みずからの主張に有利なように変更をされたというふうに理解をしています」と2020年3月26日の衆議院原子力問題調査特別委員会で規制委の更田豊志委員長が答弁した状態になっていた。

 そもそも、有利にだろうが不利にだろうが、後に得られた別の知見と矛盾するからなどと言って元データを書き換えること自体、やってはいけないと考えるのが、どの学会でも学会外でも常識だ。すなわち②で求められている「複数の調査手法により評価結果が審査資料に示される場合はその判断根拠が明確にされること」という、ごく当たり前のことである。その常識を原電は破った。意図的なのか単に非常識なのかが大いに問題だが、いずれにせよ更田委員長は語る。「国会での御答弁で使う表現としてふさわしくなければ申しわけありませんけれども、ひどい話だと思っています」。

 7月19日の「データ書換えの原因調査分析に係る公開会合」で原電は社内調査の経過を説明した。安全審査対応ゼネラルマネージャーと上司2人でそれぞれ書き換えを可とするか不可とするか認識に違いがありながらゼネラルマネージャーの決定で済んでしまったという。①で求められている「調査データのトレーサビリティが確保されること」という、これまた当たり前のことも原電の説明はきわめてあやふやだ。

 そんな当たり前の2点に絞って改善させるというのは軽いのではと、8月18日の委員会会合後の記者会見で質問が出た。更田委員長は「要するに、当たり前のことができてなかったことが問題になっているので、当たり前のことがちゃんとなったらやりましょうということだと思います」と答えているが、あまりに親切すぎないか。

 委員会会合では更田委員長は「基本的な科学的な作法にのっとってもらわなかったら話にならないというのはあって、今回はお話にならないケースだと思っているのですね」とも発言している。そんな資料を提出してくること自体、原子炉設置許可の基準のひとつ「発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力」が原電に欠けていることの証明ではないか。約1000件の誤記また然りである。敦賀原発2号機の原子炉設置変更は直ちに不許可にすべきである。     

(西尾漠)