政府の汚染水放出決定に断固として抗議する
2023年8月23日
原子力資料情報室
政府は気象条件が許せば、ALPS処理汚染水の海洋放出を24日に実施すると発表した。21年4月13日の閣議決定に沿って何が何でも放出を進める姿勢である。漁業者団体との文書で交わした約束を踏みにじり、農業者や観光業者らの懸念を蔑ろにして、放出を決定した。中国政府は税関における水産物の汚染度測定の強化を実施、また香港政府は放出に対抗して東京をふくむ10都県からの水産品の輸入を禁止すると述べている。すでに「実害」が発生している中での決定である。太平洋諸島フォーラムが委託した専門家の疑念にも答えていない。
政府はIAEAの権威を借りて疑念の払拭を期待したが、IAEAの包括的報告書はさまざまの疑念に答えていない。それどころか、政府の放出行為の正当性を保証できていない。さらに、IAEA報告書は30年に及ぶ放出による環境影響評価を実施していない。東京電力あるいは日本政府にそれを求めてもいない。原子力規制委員会も原子炉等規制法に環境影響評価の実施を求める条項がないことから、まともにこの問題を扱っていない。そして、8月17日に行われた東京電力と市民グループの質疑において、東京電力は必要な具体的放出計画が策定できていないことを認めた。計画なき放出なのである。こうした無責任な体制の中で放出が決定されているのである。
東京電力ならびに政府、IAEAはともに、長期にわたる放射性物質の放出による環境汚染、放射性物質の環境中での振る舞いなど、きちんと検討・評価せず曖昧なままである。例えば、放出汚染水に含まれるウランや超ウラン元素は、量的に少ないとしても、海洋環境の中で崩壊系列に従い、次々と娘核種が誕生し平衡状態に達するまで増え続ける。濃度規制に適合していると主張するが、薄めれば安全という論理を私たちは受け入れない。
政府の決定は、廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)に違反している。放出できずにタンクに貯蔵したものを、放出を回避できる他の方法があるにもかかわらず、意図的に海洋投棄するからである。また、海洋法に関する国際連合条約(第194条)にも違反している。同条項は、「いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い」ることを求めている。リスクを伴い「実害」が発生する海洋放出は最善の方法とはとうてい言えない。
これらさまざまな問題に対して、政府の主張は福島の廃炉を進めるために避けて通れないというものだ。しかし、すでに遅れに遅れているデブリ取り出しと、その状態の把握もできていない困難さを考えるなら、現実を見据えた対応が必要であり、国内外の状況を直視すれば、政府が方針を見直すことが合理的であり、今こそ求められていることである。
原子力資料情報室は放出に代えて、ALPS処理水のセメント固化を求めている。政府は、水和熱によるトリチウムの蒸発といった反論にもならない反論を述べているが、全量放出に対しては比較にならない程度の漏洩であり、容易に漏洩を止める対処ができるのである。
文書で交わした約束を一方的に放棄する政府の行為は、道理と倫理に悖るものであり、政府のみならず政治への信頼は完全に失われる。社会規範が崩壊するのだ。「今後数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応する」と言うが、誰がこれを信ずるだろうか。
あらためて、海洋放出の停止と方針転換を求める。
以上