“安全性の確保を最優先”に原発を運転できるのか住民が問う、東電柏崎刈羽原発

『原子力資料情報室通信』第608号(2025/2/1)より

「最近の我が国を取り巻く情勢変化も踏まえ、再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入する。その上で、今後も原子力を活用し続ける上では、安全性の確保を最優先とし、「安全神話」に陥って悲惨な事態を防ぐことができなかったという反省を一時たりとも忘れてはならない」。政府は第7次エネルギー基本計画(案)の冒頭部分で、このように自戒をまじえながら原発活用への思いを述べている。

だが、“安全性の確保を最優先”にしたならば、原発を動かすことはできないのではないか。それこそが東京電力福島第一原発事故の教えではないか。なぜなら、この事故の解明は、未だ、途上にあり、どこをどのように改良すれば、安全が確保できるといえる状態になるかが解らないからである。或る原子力発電所について全体のシステムの安全性を保証できるという判断は、現状では不可能なのである。原子力規制委員会は、委員会自身がいうように、新規制基準に適合しているか否かを判断するだけで、安全を保証するのではない。

そういうことは、(案)を起草した官僚たちは知っている(はずである)。しかし、このように書かねばならない状態におかれていることが、多くの有権者からの信を失う原因になっていることは知らないようである。有権者たちが原発の再稼働に反対する主たる理由の一つに、建前論ではなく本音の議論が成り立たない現状がある。本当のところはどうなのか。これがずっと隠されてきたことが大きいのだ。

■新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発が再稼働できるのか否か、現実味を帯びてきた。

経済産業省資源エネルギー庁は、「地元理解」の促進へ向けての説明会を始めた。暮れの10日、十日町市をかわきりに、県内28市町村で(柏崎市と刈羽村は再稼働同意しているので除く)、新年の2月末までかけて開いてゆくという。

この日、午後6時半から1時間半の予定が30分ほど延長したが、ひたすら資料を早口で説明するエネ庁の担当者と40名ほどの参加者とのあいだに、相互理解は実現しなかった。参加者からは、
・本当に電力は逼迫しているのか
・避難道路ができたとしても、地震で壊れず、雪を融かす道路になるのか
・福島事故の検証も不十分、復興もできていないのに、東電に原発を動かす資格があるのか
・原発事故の「損失」を考えると、原子力は安上がりではない
・地震国日本に地層処分の適地があると思っているのか
・外国からのミサイル攻撃を受けたらどうなるのか
などの質問が相次いだ。しかし、回答者の説明が不明確だったり、はぐらかしだったり、噛み合わなかった。こういう説明会は、単なる時間かせぎだったのではないか、という参加者からの感想は重い。翌日の各紙の見出しは、参加者からは批判的な声、安全性を懸念する声、といったものが多かった。そういう批判の声がでても、国は、「説明会をしました」という「エネ庁の実績」は残ると考えているのだろう。

参加者の一人は、柏崎刈羽原発の再稼働を知事や議員といった一握りの人に決めてもらうのではなく、県民一人一人が考え、判断して決めるために、「県民投票で決めよう」という署名運動の意義があると語った。

■「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(以下、技術委員会)から、「柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認(案)」(全130ページ)が暮れの26日、令和6年度第5回技術委員会資料として公開された。

あの福島事故の翌年3月、技術委員会は新潟県からの要請を受け、柏崎刈羽原発の安全に資することを目的に福島事故原因の検証を開始した。その結果の報告書は2020年10月26日付けで県知事に提出された。その間のさまざまなプロセスが極めて不適切だったことが問題になったが、ここでは触れない。

技術委員会は、最終的に22項目に集約された問題点について、東京電力と原子力規制庁からの説明を聞き、技術委員会(11名)として次のように所見をまとめた。

「当委員会は22項目のうち18項目において現時点で特に問題になる点はないと結論し、残り4つの確認項目については委員の一致を見なかった点や核物質防護に関する不適切な事案が発生しているとの指摘等があったものの、他機関の調査・文献等の確認も含めた審査や多大な時間と労力をかけた検査に基づく原子力規制委員会の判断を否定するものではないとの結論に至った。」

ここで4つの確認項目とは、「11運転適格性の判断、18耐震評価、20残余のリスク、22核物質防護、不正入域」である。「原子力規制委員会の判断を否定するものではない」とはなんとも歯切れが悪い。

技術委員会を毎回傍聴している県民たちが「技術委員会に県民の声を届ける会」を結成し、充実した議論を展開する場を設けてすでに33回を数える。「会」で議論し、技術委員会の審議内容に疑問があるとき、誤りがあると判断されるときは遠慮ない声を技術委員会へ届けてきた。原発問題を我が事とした見事な市民活動だ。いくつか例を上げれば―
・東京電力の運転適格性の確認問題
・6号機直下の断層問題
・柏崎刈羽原発の耐震評価問題
など、技術委員会の議論の不備を鋭く指摘し、柏崎刈羽原発の安全性は大丈夫なのかと問うてきた。これらはどれも、技術委員会の存在意義にかかわる重要な指摘である。

改憲を行う『柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会』
柏崎刈羽原発の再稼働の是非を県民投票で決める会 www.kenmintouhyou.net/

■「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」の運動(本誌605号)は新潟県下で大々的に展開され、新年の1月6日現在で140,897筆に達した。

県内の有権者数(1,816,246)の1/50=36,325人の約3.9倍にあたり、直接請求の成立要件を大きく上回る。署名収集期間が市町村首長の選挙にかかる期間は署名禁止になっているので、全県の署名運動が終わるのは少し先になる。各地区の署名運動の様子を生々しく伝える「活動交流ニュース」は11月30日の第1号から1月6日までに23号に達した。

全県20万筆の目標にどこまで迫ることができるだろうか。各市町村で「めやす目標」を掲げていたが、203%の津南町を筆頭に、151%の十日町市から103%の弥彦村まで、8市町村を数える。2018~19年の宮城県で取り組まれた女川原発再稼働の是非を問う県民投票条例の直接運動では11万1,743筆、2020年の茨城県での東海第二原発に対するそれは8万6,703筆だった。

「脱原発の社会を目指します」、「再稼働の是非は県民に信を問います」を公約に掲げて当選した花角知事には、この運動の結果を受け入れるほかに選択はない。

(山口 幸夫)


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