長計策定会議日誌(8)

長計策定会議日誌(8)

2004年10月4日
伴英幸

9月24日には午前9時から技術検討小委員会、午後1時から策定会議と2つの会議が同日に行なわれた。

技術検討小委ではコスト試算の諸条件を最終確定した。直接処分の場合には、使用済み燃料が4メートルを超え、上下と中ほどでは燃焼の違いにより、温度分布が偏るだろうから10℃の余裕を見るべきとの意見(山名委員)が出ていて、それに対する温度解析が事務局から発表された。経過はややこしいので技術検討小委の資料を参照してください。結論として、その通りの10℃の余裕を見ることになった。過度に保守的な設定ではないかと疑い質問したが、六ヶ所再処理工場の許可上の集合体平均燃焼度の最高が55GWd/tUであることを失念していた筆者の誤解もあったようだ。結局、処分場はずいぶんと広い面積が必要になった。最大では、ガラス固化体の場合の4.4倍も広くなった。当然にコストに跳ね返ってくる。

また、その結果、硬岩系(花崗岩)の処分場の場合には、処分容器一つに4体の使用済み燃料を入れることができなくなった(100℃を超えてしまうから)。これは、地下1000メートルでは地温が45℃と高いことも関係している(調査によれば100メートルごとに3℃高くなる)。

考えてみれば、今回のコスト試算は貯蔵期間を50年でそろえたシナリオ比較であって、それが直接処分法およびコストの最適なものとは言えないだろう。例えば、これまでの策定会議で出ていたように、処分までの貯蔵期間を90年程度に延ばせば発熱量を減り、処分場面積は少なくなり、あるいは4体の処分も可能となり、それらの変化はコストにも反映してくるのだろう。シナリオ比較のためのコスト試算であるが、逆に、直接処分政策に変われば、改めて、最適な設計やそれに基づくコストがはじき出されることになるのだろう。そのとき、「処分ありき」の設計がされないように、また、十二分の安全が確保されるようにすることが重要だと思う。がしかし、地震大国日本に十二分の安全が確保できるだろうか? 選定された場所が10万年とか20万年にわたって地震によって寸断されないことは結果でしか分からないことを考えると、安易に処分などと言えないと忸怩たる思いがある。やはり、厄介な放射性廃棄物は生み出さないこと! へ思考は返ってくる。

策定会議は、三村青森県知事のご意見を聞くことから始まった。六ヶ所再処理工場が受け入れプールが稼動し、本体がほぼ完成するところまで来て、政策変更を議論していることへの大きな戸惑いと批判を展開していた。再処理工場が廃止されることになれば、受け入れた使用済み燃料は搬出してもらいたいと強調していた(搬出という用語を直接には使わず、覚書に従い協議という表現だったが)。すかさず、この日から復帰?した藤委員が美浜3号炉事故の謝罪をしつつ、六ヶ所再処理工場の事業遂行の覚悟を語っていた。勝俣委員は同日に東電福島原発での不正が社内窓口へ内部告発があり、不正を認めた調査結果を記者発表したからだろうか、いつもよりすこし小さく見えた。2年前の内部告発で東電は洗いざらい調べたと言っていたが、未だに出てくる。

この日の策定会議では、10項目の総合評価が経済性と核不拡散性を除いて事務局案が埋まった。以前の++などの評価を引っ込めて、むしろシナリオ間優劣が曖昧になった印象だった。とはいえ、全量再処理シナリオが有利だと言いたげであるが…

渡辺委員が政策変更の問題点だけをあげつらうのではなく、継続する場合のコストパフォーマンスも明確にしておくべきと、すばらしい発言をしたのは印象的だった。まったくその通りだ。同委員も指摘するように六ヶ所再処理工場がトラブルなく稼動するとは言い切れない。笑えたことは、藤委員が社会的受容性という評価軸に重みを付けるべきだと発現をしたことだ。前回に伴は重み付けの議論をするべきことを指摘したが(無視された)、どうやら各自が勝手に重み付けをした意見を言えばよいらしい。

28日には、平山新潟県知事のご意見を伺った。正式な策定会議ではないが、時間の関係で原子力委員会の定例会の後にご意見を聞く会が行なわれた。委員の出席は少なかった。平山知事はもんじゅ事故直後の96年1月に栗田福井県知事(当時)、佐藤福島県知事らと国に対して提言書を突きつけた人である。現在の原子力政策には国民的合意が得られていない!と明言した提言書は、日本の原子力史上初の出来事であり、政府に対して強烈な衝撃を与えた。その彼が、8年後のこの日、国民的合意は深まっていないと明快に述べた。

9月18日に青森で1万人訴訟原告団の総会後に長計策定会議の現状の報告を行なった。23日には、とめげん世田谷主催の講演会、10月4日には原子力行政を考える宗教者の会主催の講演会でそれぞれ長計策定会議の現状報告を行なった。このような活動も最近は増えてきている。多くの方が関心を寄せてくれることは、ありがたいことだ。忙しさも増すが、何より、多くの人のエネルギーをもらって元気付けられることが嬉しい。

翌5日の朝刊で直接処分のコスト試算結果の報道を読んで仰天した。調べれば少なくとも5大紙は報じている。マスコミの情報収集力にも驚く。伴は情報室の他のスタッフと、試算結果が誰にでも追試が可能なものかどうか(つまり、情報公開の点で満足できるか)、内容の点で十分納得できるものか、全体の論理構成の点で妥当かどうかなどのチェックを6日までに終えるように急いでいたところだ。もし、情報公開の点で不十分な点が見つかっても、いったん報道されれば、もうこれ以上の公開は拒否されるだろう。この状況で2日早く報道することのメリットを理解できない。落胆。