長計策定会議への意見書(8)
長計策定会議への意見書(8)
2004年9月22日
原子力資料情報室 伴英幸
1. 第7回策定会議資料第1号「エネルギーセキュリティの視点」および第2号「社会的受容性について」に関して
1.1. エネルギーセキュリティに係る「基本的認識」として「現行原子力長期計画において示されている『エネルギーベストミックス』および、その一端を担うものとして『基本的電源としての原子力』の推進の重要性は変わりない」とあることに異議を呈します。
現行長期計画にそう書かれているのは事実として、それを新計画策定会議の「基本認識」にしてしまうのは不当です。
第7回会議の意見メモに書いたように、使用済み燃料貯蔵施設の必要箇所数一つをとっても原子力発電を基幹電源とすることの無理が顕在化してきているのではないでしょうか。まして大事故や核拡散のリスクを考えれば、速やかな脱原発こそが望まれます。
1.2. 資料第1号によれば「基本シナリオの評価(試算)」が付され、資料第2号には「立地困難性のまとめ」というシナリオごとの評価表が含まれています。第7回会議の意見メモで求めたような評価の方法についての議論もないままに個々の評価(案)が出てくるという会議の進め方に大いに危惧を覚えます。改めて評価の方法についての議論から行なうよう求めます。
1.3. 資料第1号の「基本シナリオの評価(試算)」自体が、評価の方法についての議論も評価の内容についての議論もなしに作られた評価(案)のおかしさを如実に示しています。
「エネルギーセキュリティ」に関する評価と言いながら、きわめて単純な、そして信じ難い評価(プルサーマルは++、FBRは+++)をもっともらしく表にしただけで、まともな分析がないことは一目瞭然です。すぐに思いつくだけでも、以下のような点が考慮されるべきではないでしょうか。
・核燃料サイクルに固執しエネルギー政策を硬直化させることによるリスク
・事故や不正の発覚により多くの原発や核燃料サイクル施設が停止を余儀なくされるリスク(2003年4月の東京電力の原発設備利用率は3%、年間でも24%)
・国際的な核管理強化策などにより核燃料サイクル施設が停止に追い込まれるリスク
・原発やFBRについてのかつてのきわめて大規模な計画が大幅に縮小ないし頓挫したことのエネルギーセキュリティに与えた(あるいは与えなかった)影響
この計画については、第8回会議暫定版資料第2号の改定版で改定がなされていますが、あくまで「ウラン資源制約への効果」だけの評価です。評価にはそのことを明記するべきです。なお、基本認識として「需給が逼迫する可能性がある」と書かれていますが、「他方、ウラン資源制約が生じない可能性もある」ことを併記されるべきです。
1.4. 資料第2号の「立地困難性のまとめ」も(もともとこの資料全体が落第点と見られますが)同様に単純な評価に過ぎません。こうしたものをいくつ並べても「社会的受容性」についての「基本シナリオの評価」はできないでしょう。
中間貯蔵施設の必要箇所数については、第7回会議の発言メモに指摘した通り、明らかに過大です。これもたびたび指摘してきたように、シナリオの終点を超えて考えれば全量再処理でもいつか使用済み燃料処分場が「なし」ではなくなる可能性があります(あるいは、抽出したプルトニウムなどの処分が必要になります)。シナリオは、終点を定めることで逃げを打っている感なしとしません。
2. 第8回策定会議暫定版資料第2号「エネルギーセキュリティについて(改訂版)」に関して
2.1. 全量直接処分シナリオの評価でことさらに否定的な表現をとる必要はないと考えます。「再処理によってウラン資源制約に対応する」という考え方をとっていないのですから、むしろそのように表記すべきです。
2.2. 再処理―プルサーマルによるウラン資源節約効果がどこまで現実のものかの疑問は、山地委員がすでに指摘されています。効果が机上の空論でないとの説明はなされていないように思います。
3. 第8回策定会議暫定版資料第4号「環境適合性について(改訂版)」に関して
3.1. 全量直接処分シナリオについて「循環型社会の考え方(3R)に適合しない」というのは、まったく不当です。
・放射性物質は循環させるべきものでなく、隔離すべきものです。
・再処理は各種レベルの放射性廃棄物の量を増やします。また、環境に種々の放射
性物質を放出します。
・核燃料は数パーセントしか利用できずに使用済み燃料となります。使用済み燃料
を集めて再処理をし、プルトニウムを回収して新たな核燃料をつくっても、数パ
ーセントしか利用できずに使用済み燃料となります。これは「リサイクルできる」
というより「欠陥商品ではないか」という人もいます。
4. 再処理オプションの選択とプルトニウム利用、あるいは使用済み燃料の取り扱いに関して、日本よりも先行する海外の事例は、日本が政策を見直す上で大いに参考になるものです。最も興味深い事例は、再処理政策を維持し続ける英国およびフランスの状況、また、再処理政策を放棄し使用済み燃料の処分を検討・模索中のドイツの事例です。
特に、英国では、THORP再処理工場を所有する英国核燃料会社が大きな経営難に陥っていること、また、THORPは、契約分の再処理を終える2010年以降は、再処理から撤退するという報道もなされています。この経営難の一因として、巨費を投じて建設された同施設の操業の遅れが指摘されています。さらに、THORPが操業されているサイトでは、安全性すなわち放射能管理の点においても、欧州の管理基準を大幅に超えて放射性廃棄物の管理を続け、さらに、欧州委員会の査察を拒否し続けたために、欧州委員会から訴訟準備がなされるなど(2004年9月3日付けEU発表)、非常に大きな問題を抱えています。
これらの先行事例は、われわれが直面するかもしれない一つの未来を暗示しています。本策定会議において、英国、フランス、ドイツに関して、特にコスト問題と操業状況(ドイツの場合は政策変更に関って発生したコストおよび社会受容性など)について詳細な分析とその説明を求めます。
5. 青森県の調査について
児島委員は、私の発言に大きな誤解をされましたので、策定会議で共通認識とするために、青森県の政策マーケティング委員会の「政策マーケティングブック2003~2004(ver.3)」より、該当箇所を抜粋します。この不安をそのままに、ウラン試験に入る(再処理を進める)ことは出来ないと考えます。
指標2:核燃料・原子力関連施設の安全性に不安を感じる人の割合(%)
原子力関連施設に不安を感じる人の割合は、02年値よりも0.3ポイント上昇しており、依然として80%以上の人が不安を感じています。
出所:県政策推進室「県民生活の現状に関するアンケート」
6. 「核燃料サイクルコストの討議方法について」(第4回技術検討小委員会資料第2号)に関して
6.1. 直接処分事業以外の事業については、電気事業分科会コスト等検討小委員会の「核燃料サイクルの各要素のトン当たり単価データ」を基とするとされています。原則はそれでよしとして(たとえば、TRU廃棄物処分など、個々のデータに疑問が生じる場合に、別に扱うべきことがありうるかもしれませんが)HLW処分については別途「割引率毎の処分単価」を明示すべきです。これは、すでに終了したコスト等検討小委員会のデータを書き換えるよう求めているのではなく、「拠出金単価」は別に提示するべきだということです。本策定会議における基本シナリオのコスト評価の要素のうち、HLW処分のコスト計算は最も重要なものであり、また、直接処分事業のコスト試算でもHLW処分コストのコスト計算を横において行なうわけですから、そのHLW処分の単価データが数値なしでブラックボックスのようにしか示されないとすれば、世間一般の人の目にはシナリオ評価全体がまったく説得力を欠くものとうつると思います。事情を分かっている人たちが納得していればよいということでは、とても信頼は得られないでしょう。
6.2. 第2再処理工場の「単価を50%にした場合のコストへの影響度について確認する」としていますが、現実的にはむしろ六ヶ所再処理工場の「単価を200%にした場合のコストへの影響度について確認する」ことのほうが意義のあることではないでしょうか。原発のコスト試算においては設備利用率70~85%と3段階での解析がされていますが、シナリオ1および2においては、再処理工場の設備利用率を東海再処理工場の実績に照らして50%とした場合のコストへの影響を確認するよう求めます。なお、核燃料サイクル開発機構の設備利用率の実績は、年間210トンの処理能力として約18%です。
6.3. 劣化ウランを処分する場合の費用算定については、シナリオ評価のコストには加えずに別記することを提案します。その際、対象となる劣化ウランは日本原燃㈱のウラン濃縮工場から排出されるものに限定して、総量を確定するべきです。その理由は、a)高速増殖炉が実用化されることを前提としていますが、その見込みはないと考えています。それは、燃料倍増時間が50年~90年という評価があり、そこからすれば高速増殖炉の実用化はない*と言えるからです。また、高速増殖炉懇談会では高速増殖炉は選択肢の一つとの位置づけがなされており、高速増殖炉の実用化の明確な見通しが出されていません。したがって、劣化ウランが将来処分するべき対象となる可能性が高く、すべてのシナリオに共通となります。b)仮に高速増殖炉で劣化ウランを使うとしても使い切ることは出来ないと考えます。可能だとの意見があるのなら、定量的に示してください。c)本来はフロントエンドで処分までを含めて費用設定するべきものです。海外から濃縮ウランを調達する場合は劣化ウラン処分に対する責任は発生していません。
*小林圭二著「高速増殖炉もんじゅ」(七つ森書館、1994年)P.303
もんじゅ事故総合評価会議「もんじゅ事故と日本のプルトニウム利用政策」(七つ森書館、1997年)p.217
6.4. 他方、回収ウランの処分費用については、再処理する場合にコストに加えるべきだと考えます。その理由は、回収ウランの濃縮計画がなく、再処理の場合にのみ発生するものだからです。
6.5. 「政策変更に伴う項目(2)今後の対応策」では、六ヶ所再処理工場の廃止措置について「ウラン試験開始後の状態で必要となるコストを試算」とありますが、前日に提示された暫定版の資料では「ウラン試験開始前も可」とカッコ書きがありました。暫定版の変更はあり得ることと了解していますが、その場合は説明の際にきちんと言及してください。「ウラン試験開始前の状態で必要となるコスト」も計算してください。
6.6. 六ヶ所再処理工場への既投資額などについては、発電単価を計算する必要はありません。これは、各シナリオのコストに加えられるべきものではないからです。その理由として、第4回の技術検討小委員会の発言メモを再掲します。
「実際にどれだけのコストが発生しうるかを検討することの意味はありますが、これをシナリオのコストに加算するのは不適当だと思います。仮に、現状維持のAシナリオと現状変更のBシナリオがあるとして、両者を比較する際、変更に伴うコストをBシナリオに加えるべきではありません。両者を比較してBシナリオがベターとなった後で、変更コストの回収方法が検討されるべきです(Aシナリオがベターならそもそも検討の必要はありません)。この場合、ベターでないAシナリオを選択肢固執してきた責任が問われることになりますが、Bシナリオに変更コストを加えて比較することはこの責任を見えなくしてしまいます。」
7. 技術検討小委員会(4)の諸量に関する意見
総発電量を25兆kWhとして計算するとしていますが、設備利用率が85%で計算されているようです。しかし、老朽化が進む中、これを維持することは困難であることは容易に想像できます。従って、設備利用率を75%と保守的に考え、総発電量を22兆kWhとして試算することを提案します。