川内原発は安全基準を満たしていない―水蒸気爆発の観点から
蒸気爆発について大変お詳しい高島武雄さんから、原子力規制委員会が実施した「九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書 (1 号及び 2 号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書(案)」に対するパブリックコメントへの応募意見と、その応募意見に対する原子力規制委員会の考え方の分析について、寄稿頂きましたので、以下に掲載します。
川内原発は安全基準を満たしていない
審査書案の「Ⅳ 重大事故等対処施設及び重大事故等対処に係る技術的能力 Ⅳ-1 重大事故等の拡大の防止等(第37条関係) Ⅳ-1.2 有効性評価の結果 Ⅳ-1.2.2 格納容器破損防止対策 Ⅳ-1.2.2.4 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」によれば,申請者(九州電力)は「水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低い」としている.それに対して規制委員会は「その根拠を整理して提示するよう求めた」.申請者は、「実機において想定される溶融物(二酸化ウランとジルコニウムの混合溶融物)を用いた大規模実験として、COTELS、FARO 及びKROTOS を挙げ、これらのうち、KROTOS の一部実験においてのみ水蒸気爆発が発生していることを示すとともに、水蒸気爆発が発生した実験では、外乱を与えて液-液直接接触を生じやすくしていることを示した」.さらに委員会は,解析コードの見解を求めたりしているが,最終的には「規制委員会は、格納容器破損モード「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」において、申請者が水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いとしていることは妥当と判断した」が,この判断は問題である.
問題点1:申請者は実験データとして,COTELS 、FARO 及びKROTOSをあげているが,なぜかTROI 装置による実験結果には言及がない.なお,TROI とはTest for Real cOrium Interaction with water の略である.
問題点2:水蒸気爆発が高い割合で発生したTROIの実験結果を無視したのは,意図的かつ恣意的で悪質である.
問題点3:KROTOS の一部実験においてのみ水蒸気爆発が発生しているとしているが,これは正確ではない.あるいは意図的である.好意的に見て調査不足である.
説明:TROI装置による実験では(文献1,2など),6回のうち4回は激しい自発的な水蒸気爆発が発生した.溶融物としては,ジルコニア(二酸化ジルコニウム)のみと二酸化ウランにジルコニアを加えた場合について実験してどちらでも自発的な水蒸気爆発の発生を確認している.
例えばTROI-13では二酸化ウラン:ジルコニア:ジルコニウム=UO2:ZrO2:Zr=69:30:1という溶融物を使用して,7MPa,TROI-5では1MPaの爆発が生じている.TROI-13は15kg程度溶解して実際に爆発したのは約8kgだが,それでも激しい爆発が起こっている.しかも自発的にである.
申請者があげた大規模実験として,COTELS の実験装置では約60 kgの試料を用いるが,KROTOSでは約3kgであり,KROTOSより規模の大きい実験であるTROIを評価しない理由は理解できない.しかもTROIはKROTOSなどよりも最近に行われている.
爆発の発生の有無には混合物の割合など,さまざまな因子が関与しており,爆発の条件を満たした場合は,容易に爆発が発生する可能性がある.ことほど左様に判断がむずかしい現象である.
文献
1.Jinho Song, Ikkyu Park, Y. Sin J. Kim, S. Hong, B. Min and H. Kim, Spontaneous Steam Explosions Observed In The Fuel Coolant Interaction Experiments Using Reactor Materials, Journal of the Korean Nuclear Society, Vol.33,No.4, pp.344-357(2002).
2. JH Song, IK Park, YS Shin, JH Kim, SW Hong, B.T. Min and H.D. Kim,Fuel coolant interaction experiments in TROI using a UO 2/ZrO2 mixture,Nuclear Engineering and Design,Vol. 222, No.1, May 2003, Pages 1-15.
2014.09.17
高島武雄
規制委員会の考え方は,「TROI実験で観察された水蒸気爆発は融点を大きく上回る加熱を行ったので考慮に値しない.だから無視した」と解釈できる.
果たしてそうだろうか? 実機の事故時には大量の核燃料と被覆材などが均一の状態で溶け合うとは考えられない.成分と温度の不均一性は当然考慮すべきではないだろうか.
従って,事故時を想定した温度条件での数回(6回?)のOECD SERENA 計画の実験だけで,自発的な水蒸気爆発はおきないと結論づけてよいものだろうか? ここまで結論づけるのは無理だろう. むしろ文献[1]にもあるように,「圧力や温度の急な変化などの外部からの刺激によって水蒸気爆発は起こるが,(自発的な)爆発性は低い(原文:The test results confirmed the low explosivity of corium in comparison to simulant alumina, although triggered steam explosions were observed.)」ということで「自発的な水蒸気爆発はおきない」とは言えないのではないか.
成分についても実機では共晶とならないから爆発性は低いとしているようだが,前述したように溶融物の不均一性を考慮すれば,規制委員会の考え方のような結論を導くことは無理があると思う.
文献
1.Seong-Wan Hong, Pascal Piluso and Matjazu Leskovar,Status of the OECD-SERENA Project for the Resolution of Ex-vessel Steam Explosion Risks , Journal of Energy and Power Engineering 7 (2013) 423-431.
九州電力株式会社川内原子力発電所1 号炉及び2 号炉の審査書案に対する意見募集の結果等及び発電用原子炉設置変更許可について(案)
平成26年9月10日
原子力規制委員会
一部抜粋
Ⅳ-1.2.2.4 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用
【ご意見の概要】
規制委員会は、格納容器破損モード「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」において、申請者が水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いとしていることは妥当と判断したとあるが、この最終的な判断は、一部実験結果からのデータのみで妥当性を欠いている。
問題点1:申請者は実験データとして、TROI 装置による実験結果には言及がない。
問題点2:水蒸気爆発が高い割合で発生した TROI の実験結果を無視したのは、意図的かつ恣意的で悪質である。
問題点3:KROTOS の一部実験においてのみ水蒸気爆発が発生しているとしているが、これは正確ではなく、あるいは意図的である。
申請者があげた大規模実験として、COTELS の実験装置では約60kg の試料を用いているが、KROTOS では約3kg であり、KROTOS より規模の大きい実験である TROI を評価しない理由は理解できない。しかもTROI は KROTOS などよりも最近に行われており、爆発の発生の有無には混合物の割合など、様々な因子が関与しており、爆発の条件を満たした場合は、容易に爆発が発生する可能性があることからも、判断が妥当とは言い難い。
TROI 装置による実験のうち、自発的な水蒸気爆発が生じた実験においては、溶融物に対して融点を大きく上回る加熱を実施するなどの条件で実施しており、この条件は実機の条件とは異なっています。国際協力の下で実施されたOECD SERENA 計画では、TROI 装置を用いて溶融物の温度を現実的な条件とした実験も行われ、その結果、本実験においては自発的な水蒸気爆発は生じていないことを確認しています。