九州電力川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書について

九州電力川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書について

2014年7月25日

NPO法人 原子力資料情報室

 当室は、原子力規制委員会による九州電力川内原子力発電所の適合性審査結果について、以下のコメントを発表する。

 パブリックコメント募集については、こちらをご覧ください。

 

全体について

 審査書では「○○を設置する」や「○○を整備する」という方針を申請者が示したことで、「規定に適合していること」「ガイドを踏まえていること」を「確認した」としている。これらは、工事計画認可や保安規定変更認可を得て実際に設置・整備され、使用前検査を経て初めて適合するものであり、そのことを明記すべきである。

 災害の防止の担保では、「審査過程における主な論点」が記述されるなど、審査書のあり方について一定の改革がなされたと言えるが、更田委員は『週刊エネルギーと環境』2013年8月15日号で、次のように述べていた。「特に重要だと考えているポイントというのは、発電所をもっている事業者自身による自らの発電所に対する理解の深さですね」「万一事故が起きた時にそれがどう進んでいき、どう食い止めるかに関して、電力会社がどれだけ自分のものとして考え努力をしているか、そこをきちんとみたいと思っています」。

 きちんと見ることはできたのか。残念ながら、そうは見受けられない。

 

1. 原子炉安全専門審査会の不関与について

 旧原子力安全委員会の原子炉安全専門審査会は、原子炉設置変更許可に際し、行政庁審査のダブルチェックを行ってきた。しかし、今回の審査においては何らの関与もしていないように見受けられる。ダブルチェックは合理的でないとしても、原子炉安全専門審査会委員を審査会合に参加させるべきではなかったか。

 

2. 平和利用の担保について

 平和利用については、従来通り、商業発電用であること、使用済み燃料の貯蔵方針、再処理方針に変更がないことをもって担保されるとする形式的な審査にとどまっている。しかし、原子力規制委員会として初めて審査をするのであるから、より実のある審査に向けて改革の方向を示すべきではなかったか。

 

3. 高経年化問題について

 本審査書において高経年化の問題は対象外であるが、1号炉が1984年7月、2号炉が1985年11月に運転開始し、1号炉は2014年、2号炉は2015年に運転期間が30年を超える。1号炉については、「高経年化技術評価書」が審査中だが、各種設備が経年劣化を起こしている1・2号炉ともに、本審査書と同期して高経年化にかんする慎重な審査が必要である。そうでなければ、審査すべき設計方針が実現可能か判断ができない。

 およそ30年に及ぶ運転経歴をもつ川内原発には、必ず、配管系に経年劣化が生じていると見なさなければならない。とくに、放射線レベルが高く十分な時間をかけて検査できない箇所があるので、計算で疲労レベルを推定することになるが、計算条件に30年間に経験した地震動と熱履歴による影響を最も厳しく算定したうえで、判断をしなければならない。その詳細な審査結果を求める。

 

4. 技術的能力の担保について

4-1 技術的能力の担保については、申請者の言い分をそのまま受け入れているが、より実質的な審査が必要である。言い分を受け入れるだけで担保できるのなら、福島第一原発事故は防げたはずではないか。

4-2 緊急時の手順書にかんして、膨大な内容が見られるが、実際の事故時に有効なのか。手順書にもとづいて作業する人に即して審査すべきではなかったか。とりわけ核セキュリティのために見ることができないスタッフも出てくるだろうが、対応可能なのか。

4-3 複数の手順書において、作業要員が1名とされている箇所がある。また数分の余裕をもって問題は生じないとしている箇所が多数見られるが、訓練と現実の緊急時では状況が異なる。緊急時において、作業ミス等の回避はどのように担保するのか。

4-4 複数の手順書において、常時確保されている人員最大数52名全員での対処が予定されている箇所があるが、他の箇所で事故が同時に発生した場合、どのように対処するのか。

4-5 計測系の健全性の保証について、申請者は、原子炉の圧力、温度、水位など事故対応に必要な主要パラメータが使用不能となった場合に対応可能な代替パラメータを示し、審査書ではそれを妥当としている。しかし、主要パラメータの計測系を修復し、値を保証する方針と手順を示すべきである。

 

5. 確率論的リスク評価(PRA)について

5-1 総合資源エネルギー調査会原子力の自主的安全性向上に関する WG 第 7 回会合の資料 1(2013年12月10日)において「我が国の原子力事業者はこれまで確率論的リスク評価(PRA)を一部で使ってきたが、リスクがゼロでなく、重大事故が起こり得ることを認めることを恐れ、積極的な活用に至らなかった」、また、同WGが取りまとめた「原子力の自主的・継続的な安全性向上に向けた提言」(2014年5月30日)においては「我が国においては、PRA は、とりわけ外的事象に関してこれまで必ずしも積極的に活用されてこなかった」と記載されるように、過去、PRAは積極的には活用されてこなかった。

今回、事業者は、日本原子力学会の PRA に関する実施基準に基づき、これを実施しているが、過去の実態をかんがみて事業者にPRAを策定するだけの能力があるのか。また原子力規制委員会に実施内容を確認出来るだけのノウハウの蓄積は存在するのか。

5-2 確率をどのように計算するか。もともと大きな幅があり曖昧な概念であるが、福島第一原発事故が起こってしまった結果をどのように算定したのか。当然ながら、従来の値を適用することは出来ない。詳細な計算プロセスを示すべきである。

5-3 PRAのシナリオに、他の事故が同時発生することも想定される。そのような事象発生時、現状の体制では対策ができないため、適切な方針とは言えない。

5-4 同WGの「提言」では『PRA が各原子力事業者のリスクマネジメントの一環として位置づけられることを前提に、その質を高めていくため、a)PRA 実施状況のピアレビューによるPRA の質の向上(PRA 実施の慫慂)、b)PRA データから読み取れるリスクに関する第三者的警告、c)PRA を通じて抽出される脆弱点の事業者間、多国間での情報共有、d)国内研究開発や海外との連携を通じたPRA 手法の高度化や機器の耐久力(原子力機器にとどまらない外因事象による機器損傷データ)や故障確率等のPRA 基盤データの構築とそのデータの活用、e) レベル2、レベル3PRA、外的事象PRA 等の基盤研究・高度化の実施やPRA 活用ロードマップの策定等を進めることが必要である。』と記載されているが、このような検討は行ったのか。

 

6. 解析コードについて

6-1 様々な解析が行われているが、過去、JNESは審査の一環として独自に計算してきた。JNESが原子力規制庁に組み込まれたことから、今回の審査においても、審査の一環として、クロスチェックを行なうべきだった。

6-2 たとえば、シビアアクシデントの解析にはMAAPが用いられているが、MELCOR,SAMPSON,THALES等の他の解析コードでの検証も可能である。そのような他の解析コードを用いた検証が実施されるべきであった。

 

7. 避難について

原子力災害対策指針を作成したにもかかわらず、指針に適合しているか否かを審査しないのは無責任ではないか。現に米原子力規制委員会では、避難計画を審査対象としている。この審査を行なってこそ「災害の防止」が担保されるのではないか。

原子力規制委員会設置法の前文には政策に係る縦割り行政の弊害を除去し、並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って、確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務(原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関すること並びに国際約束に基づく保障措置の実施のための規制その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関することを含む。)を一元的につかさどるとともに、その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」とある。当然、主体的に計画の策定に関与し、本審査書においても、策定状況およびその実効性を、確認する責務を有しているはずである。

 

8. 消火設備について

モントリオール議定書により、オゾン層破壊物質であるハロンは原則、使用が抑制されることとなった。原子力施設においては、「ハロゲン化物消火設備・機器の使用抑制等について(平成3年消防予第161号)」及び「ハロン消火剤を用いるハロゲン化物消火設備・機器の使用抑制等について(平成13年消防予第155号)」に基づき、ハロンの使用が認められてはいる。今回、川内原子力発電所においても、ハロン1301の消火設備が導入されてるが、この必要性について本当にクリティカルユース(必要不可欠な分野における使用)のみの導入であるのかについて、実質的な審査は行われたのか。

 

9. 燃焼について

9-1 水素発生についてイグナイタを設置することで対処するとあるが、審査書に記載のある通り、水素が均一に分布するわけではなく、濃度が異なる場所が想定される。よって、イグナイタについても、より慎重な設置が必要であるし、また水素濃度についての把握もより細かく必要である。

9-2  審査書案の「Ⅳ 重大事故等対処施設及び重大事故等対処に係る技術的能力 Ⅳ-1 重大事故等の拡大の防止等(第37条関係) Ⅳ-1.2 有効性評価の結果 Ⅳ-1.2.2 格納容器破損防止対策 Ⅳ-1.2.2.4 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」によれば、申請者(九州電力)は「水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低い」としている。それに対して規制委員会は「その根拠を整理して提示するよう求めた」。申請者は、「実機において想定される溶融物(二酸化ウランとジルコニウムの混合溶融物)を用いた大規模実験として、COTELS、FARO 及びKROTOS を挙げ、これらのうち、KROTOS の一部実験においてのみ水蒸気爆発が発生していることを示すとともに、水蒸気爆発が発生した実験では、外乱を与えて液-液直接接触を生じやすくしていることを示した」。さらに委員会は、解析コードの見解を求めたりしているが、最終的には「規制委員会は、格納容器破損モード「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」において、申請者が水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いとしていることは妥当と判断した」が、この判断は問題である。
問題点1:申請者は実験データとして、COTELS 、FARO 及びKROTOSをあげているが、なぜかTROI 装置による実験結果には言及がない。なお、TROI とはTest for Real cOrium Interaction with water の略である。
問題点2:水蒸気爆発が高い割合で発生したTROIの実験結果を無視したのは、意図的かつ恣意的で悪質である。
問題点3:KROTOS の一部実験においてのみ水蒸気爆発が発生しているとしているが、これは正確ではない。あるいは意図的である。好意的に見て調査不足である。
説明:TROI装置による実験では(文献1、2など)、6回のうち4回は激しい自発的な水蒸気爆発が発生した。溶融物としては、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)のみと二酸化ウランにジルコニアを加えた場合について実験してどちらでも自発的な水蒸気爆発の発生を確認している。
 例えばTROI-13では二酸化ウラン:ジルコニア:ジルコニウム=UO2:ZrO2:Zr=69:30:1という溶融物を使用して、7MPa、TROI-5では1MPaの爆発が生じている。TROI-13は15kg程度溶解して実際に爆発したのは約8kgだが。それでも激しい爆発が起こっている。しかも自発的にである。
 申請者があげた大規模実験として、COTELS の実験装置では約60 kgの試料を用いるが、KROTOSでは約3kgであり、KROTOSより規模の大きい実験であるTROIを評価しない理由は理解できない。しかもTROIはKROTOSなどよりも最近に行われている。
 爆発の発生の有無には混合物の割合など、さまざまな因子が関与しており、爆発の条件を満たした場合は、容易に爆発が発生する可能性がある。ことほど左様に判断がむずかしい現象である。
文献
1.Jinho Song, Ikkyu Park, Y. Sin J. Kim, S. Hong, B. Min and H. Kim, Spontaneous Steam Explosions Observed In The Fuel Coolant Interaction Experiments Using Reactor Materials, Journal of the Korean Nuclear Society, Vol.33,No.4, pp.344-357(2002).
2. JH Song, IK Park, YS Shin, JH Kim, SW Hong, B.T. Min and H.D. Kim,Fuel coolant interaction experiments in TROI using a UO 2/ZrO2 mixture,Nuclear Engineering and Design,Vol. 222, No.1, May 2003, Pages 1-15.

 

10. 地震について

10-1 基準地震動を 申請者は2014年3月5日の審査会において、540 cm/s2から620 cm/s2に変更し、この変更について、「規制委の担当者は『九電の意識が高かった』と評価」(2014年7月16日付毎日新聞)されているが、2014年3月14日付読売新聞は「九電は、『すべてに反論していたら再稼働が遅くなる』(幹部)と、規制委の意向に沿って想定される地震の揺れ(加速度)を、申請時の540ガルから最終的に620ガルに修正。カギとなる最大の地震の揺れ(基準地震動)の審査をクリアできた。九電幹部は引き上げの根拠について『ある意味、エイヤっと大きくした部分もある』と話した」と報じている。

今回の申請において変更された数値は、申請者の意識が高かったわけではなく、申請者の「損得勘定」(7月18日付朝日新聞)の結果として出されたものと見受けられる。科学的でもなく、安全文化の構築も行っていない。2013年7月の「大飯3、4号機の現状評価書」において否定された「新規制基準を満たす最低値を探ろうとするかのような姿勢」そのものではないか。

10-2 申請者は2008年岩手・宮城内陸地震と2000年鳥取県西部地震について震源を特定せずに策定する地震動の対象から排除し、原子力規制委員会はこれを確認している。しかし、過去10年で5回にわたって想定した基準地震動を超過する地震が発生している以上、過去の基準地震動策定方針は根本から見直すべきである。よって、日本における既知の最大地震動を排除するべきではない。

 

11. 火山について

11-1 火山について、申請者は発生間隔を9万年と想定しているが、これは鹿児島地溝全体としての噴火の発生間隔を平均したものである。噴火の発生間隔は平均で出せるものではなく、極めて非科学的な導き方だ。そのような想定を前提にしていては、現実性にかける対策しか提示されないのはもちろん、審査が行われていないも同然である。

11-2 現在、活動の可能性が確認された場合、モニタリングを強化することが対策とされている。しかし、原子炉の停止、燃料の取り出しを行う条件、輸送等に要する時間や燃料の輸送方法、輸送先等は、現在でも検討可能なことであり、本審査書において検討すべき内容である。具体的で明確な方針があるべきである。

 

12. いわゆる「テロ対策」について

人為的な事故については検討不足な箇所が多数見られるが、本審査書において審査されるべき内容である。人為的な飛来物(航空機・ミサイル等)、送電線の切断等にはどのように対処するのか。再稼働を前提とする場合、検討は必須項目である。

 

13. 品質保証について

申請者は品質保証についてマネジメントレビューをおいているが、安全性よりも経済性を優先した安全対策ではいけないということが、福島第一原発事故の教訓の1つであったはずである。安全対策と経営問題の競合をどのように解決するかのプロセスが検討されていない。

 

14. 被曝労働について

シビアアクシデント時、作業員には高線量の被曝が想定されるが、業務命令でどこまで対応するのか。緊急作業100 mSvを超過した場合の対応はどのように考えているのか。

 

15. 流入地下水について

福島第一原発では、1日あたり400トンの汚染水が新たに増えており、事故処理の困難さの最大の原因になっている。これは流入地下水に起因している。川内原発も、現状で1日あたり300トンの地下水を汲みあげており、事故が起こると福島第一原発と同じような難題が生ずるおそれがある。

審査書ではこの点、「耐震性を有することから外部の支援を期待することなく排水可能である」としているが、津波による破壊、ガレキの井戸への混入等によって使用できなくなることも想定、検討するべきである。

 (以上)