原子力小委員会奮闘記(1) 動画非公開と 強引な議事運営
さる6月19日から、原子力小委員会が始まった。委員への就任を依頼されたので、これを引き受けて、脱原発の立場から意見を言い続けていくことにした。
同小委員会は、今年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画において「示された方針に基づき、必要な措置を検討し、講じていく」ことを趣旨として組織された。原子力資料情報室はエネルギー基本計画の内容を認めることはできないので(本誌479号参照)、その趣旨に賛成しての就任ではないことを経済産業省の事務局に明言した上で就任した。このことは第1回の会合でも明らかにした。
委員には、岡本孝司氏、山口彰氏、山名元(はじむ)氏など強固な推進派が名を連ね、総勢27名である。現政権は原発依存度の低減を掲げているからか、投資や経営の専門家が入っている。
委員の選任はどのような意図と目的で行われたのか、相変わらず委員の選出が経産省の密室で行われ選任過程に透明性がないことから、第1回の会合で英国の審議会制度を参考に選任過程の透明性に努めるように改善することを求めた。これは公職任命コミッショナー制度と言い、故日隅一雄弁護士編訳の『審議会革命』(現代書館2009年)で紹介されている。委員を公募し、省庁や政府から独立した委員会によって応募者の中から選任が行われ、任命は大臣が行うが、結果に対して市民はクレームを言うことができる。筆者の意見は無視され審議会のあり方の議論はされなかったが、いずれ実現したい制度である。
事務局から提出された論点案は、①福島の復興・再生に向けた取組、②原子力依存度低減に向けた課題(廃炉等)、③不断の安全性向上の追求、④技術、人材の維持・発展、⑤競争環境下における原子力事業のあり方、⑥使用済燃料問題の解決に向けた取組と核燃料サイクル政策の推進、⑦国民、自治体との信頼関係構築、⑧世界の原子力平和利用と核不拡散への貢献、の8点である。これまで委員会は2回開催されたが、第2回会合(7月11日)では結論を出したい順に整理されている。可及的速やかに実効に移す必要があるものとして、②⑤⑥が掲げられた。継続的に施策を実行するものとして③④⑥⑦⑧が提案され、中長期を見据えるものとして②(代替電源開発)と⑥がある(配付資料の番号は改めて振られているので、第1回資料の番号に合わせた)。
第2回会合では2名のゲストからプレゼンテーションを受けた。一人は元DOE副長官のウイリアム・マーチン氏で再生可能エネルギーも重要だが、エネルギーセキュリティを考えれば日本にとって原発は不可欠といった主張だった。もう一人は国会福島原発事故調査委員会委員長を務めた黒川清氏で「福島事故から学ぶ」こととして原子力関係行政プロセス全体の透明性が必要と強調した。
さて、第1回会合は、記者の頭撮りしか認めていなかった。動画の公開がされないことをその時に知った。動画公開をすると発言しにくくなる委員がいる、という理由にならない理屈だ。真偽のほどは分からないが、動画非公開を就任条件とする委員がいるとはこれまでの経験から考えられない。事務局が公開の方針を示せばそれで通るはずなので、結局は事務局の方針と言える。
しかし、動画の公開は当然のこと。第一にはプロセスの透明性の確保の点。この点、黒川氏から直接のサポート発言が得られなかったのは残念だが、同氏の主張の通りプロセスの不透明さが福島原発事故の根本的原因なのだ。第二に雰囲気は文字だけでは伝わらない点、そして第三に速報性の重要性の観点からだ。議事録は1ヶ月以内の公開としているが、委員会は月に2回ほどのペースになりそうだ。事務局は議事概要を丁寧に書いていると主張するが、概要は1週間以内に公開するとしても事務局のクレジットとなるので発言者名が書かれていない(書くためには本人の了解が必要)。これでは傍聴者以外は審議を追えない。今は動画公開を要求し続けようと考えているが、多くの声が届くといっそう効果的だろう。
さらに問題が起きた。原子力市民委員会が発表した「見解:川内原発再稼働を無期限凍結すべきである」*の配布を吉岡斉委員が求めたところ、事務局がこれを拒否した。事務局が紹介するので、配布しないが任意に持ち帰ってもらうことにしたようだ。しかし、事務局の紹介が極めて杜撰で、文書のタイトルすら言わなかった。これに対して吉岡委員がコメントを加えようとしたところ、安井至委員長は発言を拒否した。極めて不適切な議事運営であり、委員長として不適任である。
これらの対応は論点として掲げている「国民、自治体との信頼関係構築」を自ら崩壊させていると言わざるを得ない。佐藤栄佐久前福島県知事は国の原子力の進め方を「戦車で地方自治体を蹂躙するようだ」と評したが、今や戦車で「国民」を蹂躙する姿を表し始めたといえよう。
(伴 英幸)