いかにして「県民に信を問う」のか?
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を巡って、新潟県の情勢が緊迫している。原発事故から14年して、未だに事故の終息の見通しも立たないというのに、事故を起こした当事者の東京電力が、保有する原発を再稼働してよいのか、日本の全住民の意思が問われている。キイを握っているのは、新潟県民だ。
いま、何が問題になっているか、項目を列挙してみる。県民投票条例、特別重大事故等対処施設(「特重施設」)、新潟県技術委員会での議論、国策と民主主義、事故時の避難などが思い浮かぶ。
「柏崎刈羽原発再稼働の是非は県民投票で決める会」が県民投票条例制定を求めて賛同署名集めに取り組んだのは2024年10月末だ。有効数の36,325筆をはるかに超えて143,196筆が集まった。4月16日から18日の臨時県議会で審議される。これに対して花角知事は、4月8日に「意見」を表明した。「賛成」または「反対」の二者択一でいいのか、また、「県内すべての開票事務を県選挙管理委員会だけで担うことは実務上、極めて困難」と言う。知事選では「再稼働については県民に信を問う」と宣言して当選したが、この間の政府や経済界からの「国策」を掲げた強い圧力に耐えきれないかのように見える。
原発事故後につくられた新規制基準には、テロ対策施設の設置が義務付けられた。「特重施設」という。だが、設工認後5年以内に設置すればよいと猶予期間が設けられた。不可解だ。この施設は原発が稼働するさいに欠かせない存在なのではないのか。
東京電力は7号機のこの施設の工事完了期限は2025年10月13日だが、2025年の3月には完了予定としてきた。2024年4月に7号機に核燃料を装荷してあるので、知事の許可さえおりれば再稼働できるというわけである。もし、3月に間に合わず、10月13日になっても完了できなければ、再稼働した7号機は止めなければならない。
ところが、東京電力は2月27日になって突如、7号機と6号機についてのこの施設の工事完了時期の大幅な変更を発表した。
7号機:変更前2025年3月→変更後2029年8月(完了期限2025年10月13日)
6号機:変更前2026年9月→変更後2031年9月(完了期限2029年9月1日)
工事従業員が不足、先行事例が把握できない、工事の規模が建屋に比べ数倍におよぶ、という理由である。東京電力は技術的能力を有しているか、社会に対して誠実に対応しているかなどが問われている。そして、ずっとささやかれてきた、「まず、7号機を再稼働」は、この大幅な変更によって、まずは、6号機になるだろうとの憶測を生むことになった。
新潟県技術委員会と略称で呼んでいるが、正式には「新潟県原子力発電所の安全管理に関する委員会」という組織がある。2002年に発覚した東京電力柏崎刈羽原子力発電所のトラブル隠し事件を契機に発足した。2025年4月現在では委員11名からなり、事務局は新潟県原子力安全対策課である。
現委員会は2025年2月12日、知事に報告書を提出した。「柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認」という。原子力規制委員会の判断についてのとりまとめの議論で、「東京電力の運転適格性」、「耐震評価」、「残余のリスク」、「核物質防護、不正入域」の4項目では委員の間で意見の一致が見られなかった。そこで、「原子力規制委員会の判断を否定するものではない」と報告書には記載された。座長は「否定するものではない」の表現について「要するに、肯定、否定はしない」ということと説明した。ところが、座長と知事とのやりとりの中で、「(規制委員会の判断について)それを認める、ということで理解していいですね」と知事が問いかけ、「その理解で結構です」と座長が応じた。この応答を新潟県民はどのように受け止めているのだろうか。
(4月15日、山口 幸夫)