「核燃料サイクルを考えるシンポジウム」報告

『原子力資料情報室通信』第612号(2025/6/1)より


 2025年4月12日、「核燃料サイクルを考えるシンポジウム」(核燃料サイクルを考えるシンポジウム実行委員会主催)が日本教育会館一ツ橋ホールで開かれ、約300人が参加した。このシンポジウムは、先だって開催された「第40回4.9反核燃の日全国集会」など長年青森で原発関連施設・核燃サイクル施設の反対運動を続けている人達との連帯を意義の一つとして、また、核燃サイクルの問題が青森という一つの地域の問題なのではなく、電力を消費する私たち一人ひとりの生活と暮らしの在り方そのものを問う問題なのだということを東京でもしっかりと考える場を持つこと、を目的に開催された。主催者代表挨拶では、鎌田慧さんが、今まで青森以外で核燃料サイクル反対運動はふるわなかった。原発政策を維持する為だけの机上の空論の核燃料サイクルにどう反対運動をしていくか、最後には国会でどうやって中止するか。日本全体の核政策に対しての反対運動。原発、最終処分場、再処理工場と膨大な運動が必要だが、青森だけでなく東京でも、どう構築していくかを議論してゆく第一歩の集会として位置付けられると思う、と語った。

第1部:問題提起

 まず、鈴木達治郎さん(長崎大学RECNA客員教授)が、歴史的、経済的、政策的側面から「核燃サイクル再考:原子力政策の負の遺産」について話した。

 原子力推進の人達の間でも、核燃料サイクルは合理性がないという合意ができている。むしろ、経済性、核拡散・核セキュリティーにおいて不利と結論されている。それでも、核燃料サイクル政策(全量再処理)を変更できない理由として、大規模プロジェクトの「制度的・社会的」障壁と慣性が大きいとし、理由を指摘した。この政策の犠牲者は、国民と国際社会である。政策変更に伴うコストや損害をできるだけ低くし、その方が社会にとってプラスであると認識でき、段階的に核燃サイクルから脱却できる方法が必要である。そしてそのためには、使用済み燃料貯蔵容量の確保、独立した第三者組織による再評価、全量再処理から移行するための法改正、意思決定プロセスの改革、立地自治体、債務負担への対応、が必要と提言された。これまで意思決定に関わってきたのは、事業に関与する組織や個人であったが、唯一の例外が福島第一原発事故直後の「国民的議論」だった。政府内だけでは決められなかった「原発ゼロ」という政策を決定することができた。核燃料サイクルについてもこのような試みをすることが大事ではないか。すでに日本には60-70年代に国内石炭産業の撤退という巨大な産業撤退を政府の支援で実行した実績がある。核燃料サイクルからの撤退も、やる気になればできる、と締めくくった。

 続いて、澤井正子さん(元原子力資料情報室、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)が「再処理工場の危険性について」問題提起した。

 まず、米軍・自衛隊基地に近いなど立地の不適切さのほか、巨大な放射能集中(原発30基分の核燃料貯蔵)と大量の放射能放出(原発1年分の放射能を1日で出す)がある。また、再処理の工程では切断した燃料棒を高温の濃硝酸に溶かし油を接触させ、化学反応を使ってウランとプルトニウムを取り出し廃棄物はガラス固化体にする。ゆえに、工場は原子力施設と化学工場の危険性を併せ持ち、多様な事故の可能性を有する。他には、安全審査、耐震の問題がある。高い放射線汚染の為に新規制基準に対応するための耐震補強工事、補修、点検、検査が不可能な小部屋、設備、機器類が存在する(レッドセル問題)。しかも直接検査できない機器類は記録確認のみで国の検査がとおってしまうという現状がある(54,301箇所の検査対象のうち約70%が実検査なし)。活断層の問題もある。日本原燃が選定する出戸西方(でとせいほう)断層よりはるかに大きい六ヶ所撓曲(とうきょく)の存在が2008年以来指摘されてきたが無視されている。また、関連学会等では活断層と認定されている大陸棚外縁断層についても、認めていない。

 電気事業連合会は、実証研究と称して関西電力の使用済みMOX燃料をフランスで再処理する方針を示した。その回収プルトニウムはフランスに譲渡し、高レベル放射性廃棄物が日本に返還される。プルトニウムを取り出しても使わないのなら、なぜフランスの環境を汚し、税金から莫大なお金を払ってまで再処理をするのか? 英国は民生用のプルトニウムはゴミであるとして地層処分することを決定した。そんな時代に、日本では原発延命のための使用済み燃料貯蔵施設、ゴミ対策としての「新しい再処理」になっている。核拡散の問題もある。核廃棄物は”負の遺産”ではなく”害物”である。みなさん一緒に再処理を止めるために頑張りましょう、と呼びかけた。

第2部:パネルディスカッション「核燃サイクルを多様な視点で考える」

 当室の松久保肇事務局長がモデレーターを務め、パネリストとして第1部からの鈴木さんと澤井さんに3名の方が加わった。

 まず自己紹介・プレゼンテーションがおこなわれた。

 鹿内(しかない)博さん(青森県議会議員・原子力・エネルギー対策特別委員)は、再処理を口実に核のゴミが青森に集まってくる実情、その背景や地元住民としての危機感などを、語った。国や事業者が約束を守らず、国民の不信は募る一方の中、今一番の問題は下北半島を高レベル放射性廃棄物の最終処分地にしないこと。先人から受け継いだ豊かな自然や文化を未来に引き継ぐ責任と使命のために、これ以上負の遺産と不安を増やさないために、原発・核燃料サイクル政策はやめるべきと訴えた。

 つづいて、足立心愛(ここあ)さん(元Fridays For Futureオーガナイザー、record 1.5、日本若者協議会)が、気候変動、環境正義、将来世代の視点から発言した。2050年に44歳の足立さんにとって、気候変動は自分事として真剣に考えざるを得ない問題。気候変動に寄与していないグローバルサウス、経済的に困窮している人、将来世代などの社会的に弱い立場におかれる人が、大きな被害を受けるという格差の問題、「他の誰かに押し付ける」構造は原発・核燃料サイクル政策にも共通している。自分たちが決めていない核燃料サイクル政策によって、将来世代が金銭的負担や安全性への懸念を負わされる。当事者や若者の参加する意思決定プロセス、科学に基づいた政策決定や、将来世代に負担を強いないエネルギーの在り方を一緒に考えていくことが必要と述べた。

 田中美穂さんは、カクワカ広島(核政策を知りたい広島若者有権者の会)共同代表。核兵器禁止条約について国会議員に面会して見解を聞き、ウェブサイトに掲載している。原発と核廃絶は一緒に考えなければならない問題とし、共にすべての工程に犠牲が伴う植民地主義の問題だと指摘した。ニュークリアジャスティスということも広めてゆきたい。限られた人たちの利益の為に被害を受ける人々、そして多くの人が無関心でいられるマジョリティーという構造を解体することが自分たちに課せられたこと、と語った。

 パネルディスカッションでは大きく2つのテーマが取り上げられた。最初のテーマは「環境正義の観点から」。正義という概念、公平、公正に決定されているかはとても重要だがどうすればよいのか? 青森に核のゴミが集中する、廃炉廃棄物については次の世代に重荷を押し付ける形になっている等の公平・公正さに欠ける状況についてどのように議論していけるのか? そして、2つ目のテーマは、「核兵器の観点から」。核燃料サイクル政策を持つ日本は潜在的な核兵器保有国という側面をもつ。核兵器廃絶には核物質を作るのを止めることが必要だが、どの様なステップを踏むべきか? 日本で核兵器廃絶と核燃料サイクルが関連して考えられないのはなぜなのか?などの活発な意見が交わされた。

(報告:髙桑 まゆ)

このシンポジウムはYouTubeでご覧いただけます。
www.youtube.com/watch?v=fVhqfTUQ64c&t=3602s

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