有価証券報告書に基づく原発維持費推計

『原子力資料情報室通信』第613号(2025/7/1)より


 原子力事業者の多くは上場企業であり有価証券報告書の作成義務がある。また日本原電(JAPC)は2019年までは有価証券報告書を発行していたが現在は簡略化した会社概況書を公表している。

 有価証券報告書には、電気事業営業費用明細として原子力事業にいくら使ったかが明記されているので、主にこの数字を使うと、原子力事業者が年間概ねいくら原発に費やしているかを確認することができる。i) そこで2004年に電気事業連合会が発表した方法を用いて、各年度別の原発維持費を算出した。留意してほしいのは、一般に費用はOPEX(資本支出)、CPEX(運営維持費)という分類で理解されているが、本稿でいう維持費の中には資本費に分類される減価償却費なども含まれていることだ。また、安全対策費は当該施設の供用開始から減価償却が始まる(それまでは建設仮勘定に計上)ので、含まれていないものもある。

 結果はグラフにまとめた。2005年から福島第一原発事故が発生した2010年度までと2011年度から2023年度までで比較すると、前者は年度平均1.9兆円、後者は年度平均1.7兆円を要した。一方、発電電力量は前者が平均270TWh、後者は41TWhとなった。発電電力量は85%減だが、費用は11%減にとどまったことになる。

 ここには大きく2つの理由がある。最初の理由は原発は運転していてもしていなくても大きな維持費がかかることだ。もう一つの理由は福島第一原発事故後の損害賠償費用などが計上されたことだ。

 2011年度から2023年度の原発維持費合計は22.4兆円かかっている。4月5日付け産経新聞によれば、電力中央研究所は再エネ賦課金が25年度までの累計で25兆円を超えると報告しているが、その伝で行けば、原発の維持費も同様に2011年度~2025年度までの累計で26兆円程度になる。再エネ賦課金で導入された電源の発電電力量は今回評価した2023年度までの累計で861TWh、原発は528TWh、一方、費用は再エネ賦課金が20兆円、原発が22.4兆円なので、再エネ賦課金で導入された再エネの方が明らかに安価だったことになる。

(松久保 肇)

図 有価証券報告書に基づく原発維持費

図 原発発電電力量

i) 実際には財務費用なども発生しているため、そこまで単純ではない。

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