危機が続くロシア・ウクライナ戦争と原発
くすぶり続けていたロシアとウクライナ間の紛争が全面戦争に突入して4年が過ぎた。ロシアは占領した地域(ウクライナの国土のおよそ15%)の併合を一方的に宣言している。
激しい戦闘のなかであまりに多くの命が失われた。国連によれば、2025年4月末時点のウクライナ民間人死亡者は少なくとも13,134人、負傷者も31,867人に上る。多くの子どもも犠牲となった。戦火を逃れた難民は国内外で1,000万人を超える。両軍の死傷者数は未公表だがウクライナ側は40万人(うち6~10万人が死亡)、ロシア側は95万人(うち25万人が死亡)と推計されている。ロシアは国際法上許されない侵略戦争を行い、あまりにも大きな悲劇を引き起こしている。
ロシアは昨年、核兵器の使用要件を定めた政策文書を改定し、大幅に核兵器の使用条件を引き下げた。2023年には包括的核実験禁止条約の批准を撤回しており、核実験を実施する懸念もある。もともと批准していない米国は第一次トランプ政権下で核実験を検討した経緯があり、第二次トランプ政権下でも検討する懸念がある。昨年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、核廃絶に向けた市民社会の努力の一方で、核をめぐる緊張が高まっていることは悲しく、恐ろしい。


ザポリージャ原発の状況
この戦争では、周知のとおり原発が標的になった。ロシア軍は開戦直後、廃止措置中のチェルノブイリ(チョルノービリ)原発を一時占拠した。欧州最大の原発であるザポリージャ原発は開戦後まもなく占拠され、今もロシア軍の支配下にある。幸い占拠は免れたが、ロシア軍はウクライナ第二の規模を持つ南ウクライナ原発に向けても侵攻した。ウクライナは当時、電力供給の約6割を原発に頼っていた。原発占拠は電力危機に直結した。
占拠時の交戦では稼働中だったザポリージャ原発の施設の一部が損傷するなど、きわめて危険な状況となった。さらに占領が長期化するザポリージャ原発周辺では頻繁に戦闘が行われている。
ロシア・ウクライナともに相手方が原発を攻撃していると非難している。2024年8月にはドローン攻撃による冷却塔火災が発生した(図1)。実行者は今もって不明だ。今年に入っても原発の訓練センターなどへのドローン攻撃が複数回報告されている。また2023年6月には、ザポリージャ原発も冷却水として取水していたカフホカダムが決壊し、巨大なダム湖が消失、甚大な被害を引き起こした(図2)。すでに原子炉は停止しており冷却水の必要量はかなり減っていたが、危険なことに変わりない。敷地内で冷却水用の取水井戸を掘り、対処している。
ロシア側はザポリージャ原発の再稼働を繰り返し示唆している。環境NGOグリーンピースは衛星写真分析から、ロシアは占領中のザポリージャ州とドネツク州で送電網の建設を始めており、ロシアのロストフ州の送電網とザポリージャ原発を接続する計画だと分析している。両国の休戦交渉でもザポリージャ原発の帰属は大きな問題となっている。

ザポリージャ原発以外の原発
ザポリージャ原発以外の原発でも度々弾道ミサイルが原発上空を飛び、中には原発近くに落ちるものもある。またドローンもたびたび飛来している。今年2月14日にはウクライナ北部にロシア側から大量のドローンが飛来し、1基がチェルノブイリ原発の建屋カバーに激突し、爆発炎上した(図3)。
2024年8月から始まったウクライナのロシア・クルスク州への逆侵攻(2025年3月までに大部分で撤退)では、ロシア側は近くにあるクルスク原発への攻撃を懸念していたことが報告されている。
国際条約はダムや原発などへの攻撃を禁じているが、今回の戦争では稼働中の原発が戦略目標とされた。国際原子力機関(IAEA)は原発周辺に交戦禁止区域を設定すべきと勧告している。確かに戦時下の原発を守るには必要なことだ。でも、誰がその交戦禁止区域を守るのだろうか。
ロシア・ウクライナ戦争は戦時下における原発のぜい弱性を白日の下にさらした。原発は戦争で攻撃対象にならないという暗黙の前提はもはや成立しない。それは東アジアに生きる私たちも例外ではない。報道iによればロシア軍の機密の攻撃対象リストに茨城県東海村の原子力施設が載っていたという。北朝鮮も日本の原子力施設を攻撃対象だと言っている。交戦によって原発事故の危険が高まるだけではない。交戦時に地震や津波などで原発事故が起きたとき、その事故への対処はまず不可能だ。私たちの生存権を守るためにも原発は無くさなければならない。
(松久保 肇)
i) 2024年12月31日付Financial Times


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