台湾に続け! 多世代で脱原発運動のこれからを考える

『原子力資料情報室通信』第613号(2025/7/1)より


 5月16日から5日間、アジア初の脱原発が実現した台湾でノーニュークス・アジア・フォーラム(NoNukes Asia Forum。以下、NNAF)が開催された。1993年に初めて開催されてから今回で21回目。日本、韓国、フィリピン、インド、インドネシア、トルコ、タイなどから様々な活動をする人が集まった。各参加者からの報告は、「ノーニュークス・アジア・フォーラム ジャパン」の通信やホームページに掲載される予定。そちらも参照いただきたい(1)。

原発・気候は正義の問題

 1日目の国際会議では、各国の原発・気候問題の現状と脱原発運動について報告がされ、さらに日本・韓国・台湾の幅広い世代の活動家からの報告があった。日本の私たちの活動においても非常に参考になる観点が発表されていたので、共有したい。

 ユースの1人目の発表者、台湾からのEttaさんは、活動家であり文化人類学の研究者である。原発の国民投票が行われた2018年から、「Their NukeStory」というプロジェクトを始め、原発立地地域の人々の声を調査し始めた。そこには、生きてきた現実と、普遍的な科学とは異なる批判的視点があるという。

 Ettaさんは、social decommissioning(社会的廃炉)という言葉を用いて文化人類学的観点の重要性を説明した。廃炉は、発電所や廃棄物についてだけでなく、社会や人々の感情も含めたより広い影響についても含まれるべきだという。調査の中で「第三原発を見ると、40年間原発で働いた、亡くなった父親のことを思い出す」と語った住民の話を教えてくれた。

 Their Nuke Storyは、そこにいる人々の声を、彼/女らの言葉(つまり文化)で可視化する取り組みといえるだろう。原発に対する賛否をカテゴライズするのではなく、市民の複雑な想いを複雑なまま取り上げていることも重要な点であった。

 Ettaさんは、原発・気候問題は単に科学的なエネルギーの問題ではないことを強調した。私たちは、「エネルギー」政策を狭い会議室で決定するその権力に、人々の声を聴くことで抵抗する運動ができているのか、問われているように感じた。

 次に、各国の気候訴訟の報告が行われた。

 はじめに台湾の気候訴訟を先導している弁護士のZoeさんからの発表。この訴訟は、先住民、漁民、農民など、より気候変動によって暮らしを脅かされる人々を中心に、100人以上が原告となり起こしたものである。台湾においても日本と同様、憲法によって環境権が保障されておらず、その明記を求める訴訟でもある。台湾の温室効果ガス排出は、世界全体の1%にも満たないが、だからといって対策をしなくてもよいというわけではなく、その国の責任を負うべきと強調した。

 韓国からは昨年判決が出た訴訟について報告があった。胎児を含めた若い世代が原告となり、2020年に提訴。気候危機から安全が守られることが環境権として認められ、2031-2049年の温室効果ガス排出削減目標が設定されていないことは違憲であることなどが確認された。

 日本からは、「明日を生きるための若者気候訴訟」原告として、筆者と、台湾に留学中の大学生が発表した。台湾・韓国の事例では政府を対象としているが、この訴訟は民間の火力発電事業者を相手取ったものである。韓国の勝訴判決に続き、日本と台湾でも気候対策を前進させることができるか、そのために運動によって世論を高めることができるかが今後重要になる。

運動の連帯には何が必要か

 日本からの参加者、渡辺あこさんは、K-popが好きであるという自分のバックグラウンドから、日本の植民地主義と、原発や気候問題とを結び付けようと考えて発信する活動をしている。

 渡辺さんは、より日常的な言葉や振る舞いを通して政治のメッセージを届けることが必要ではないかと呼び掛けた。

 日本では教育のなかで、韓国や台湾に強いてきた植民地支配を学ばせてはもらえない。原発問題においても、広告で安全神話に触れることはあっても、本当のことは知る機会もない。私たちは問題に構造的に加担させられているからこそ、あらゆる生き物の尊厳や文化を守るために抵抗し続けたいというメッセージで締めくくった。

 韓国のコン・へウォンさんの発表は、様々な領域で活動する人々との連帯の可能性が運動に示唆を与えた。

 一般的に、原発・気候危機問題の情報を得ることはとても複雑で難しいという声がある。しかし、運動のために必要なのは、原発の原理や放射能の知識だけではない。私たちは、一緒に集まってともにたたかい、社会を動かす/作ることについて学ばなくてはならないと語った。

 気候危機は人々と生き物に不平等に降りかかるものである。へウォンさんは、女性・障害・反貧困団体と連帯した例を挙げた。気候危機の影響の経験は、ある少数者のグループにおいてももちろん同一ではない。エネルギーの話を超え、それぞれの経験を問題とつなげることが重要であると述べた。

 フィリピンのNuclear-Free Bataan MovementYouthで活動するベレンさんとジョシュアさんは、福島第一原発事故以降、日本で起きていることをフィリピン政府に伝えるアクションを行ってきたと報告した。

 フィリピンでは2012年以降281人が殺害され、活動家にとってはアジアのなかで最も危険な国である(2)。そのような環境下で活動している彼/女らにできる私たちの連帯を考えなくてはならないと思う。

ユースワークショップ報告

 最終日、ユースのみでの意見交換が行われ、より踏み込んだ話し合いや課題の共有ができた。

 20歳の曽根俊太郎さんは、6歳のときに福島から家族で避難した、原発事故の当事者である。高校生平和大使で活動した背景から、経験を伝えていくことが核なき世界をつくるために必要だと語った。韓国の「脱核新聞」で、事故当時のことや現在の想いが語られている。ぜひご覧いただきたい(3)。

 ディスカッションでは、社会運動の課題に焦点が当てられた。金銭的・時間的な活動しづらさ、ジェンダーバランス、運動が広がらないことなど。

 筆者が知る限り、日本の脱原発運動の中心となっている人の割合は高齢男性が多く、ジェンダーの観点が充分には意識されていない。それが、若い世代の参加を遠ざけている要因の1つであると感じている。フィリピンのバターン原発反対の団体では、性的マイノリティを自認する人の割合も高いのだという。

会議の外で見られた喜びの輪と連帯

 国際会議以外の交流にも大きな意義を感じた。

 脱原発を祝う5月17日夜、私たちは台湾電力の本社前で行われる集会に参加した。音楽やスピーチを聴きながら、大きなスクリーンに映った、数十年にわたって活動してきた人々の姿を見た。そこにはNNAFの参加者もいた。私の前に座っていた台湾と日本の参加者が、涙を流して抱き合い、喜びを分かち合っていた。

 互いの活動や価値観を交換する時間もあった。韓国のNGO団体 緑色連合は、各国の活動家たちにインタビューをし、NNAF開催中にもSNSやネット記事を通して発信していた。筆者を取り上げている記事をぜひお読みいただきたい(4)。

 今後の連帯につながる関係構築をすることには、会議とはまた異なった希望が感じられ、NNAFの醍醐味とも言える時間だった。

今後の運動に活かせることは何か

 今回のNNAFは、開催期間中の5月17日に台湾の最後の原発が停止する歴史的な回になった。喜びが広がる一方、各国の深刻な現状を前に、より運動を前進させ連帯する必要性を皆感じていたと思う。

 報告を書きながら、NNAFの意義について改めて考えた。私たちはこの集まりを充分に活かすことができているのだろうか。他国の運動から学ぶことは山ほどある。NNAFで1,2年に一度顔を合わせ、報告・交流することだけが運動の連帯ではない。

 原発の問題は、一部のユースにとっては非常に関心の高いことであるが、依然として参加率が低いという課題が挙がった。特に日本における脱核運動は、継承と同時にアップデートが必要である。NNAFの場も例外ではない。そのため、多世代での国際会議は互いの関心や価値観を聴き合う重要な場であり、この機会は継続させたい。

 ユースの発表ではそれぞれの視点から、今後の脱核運動に必要な要素が盛り込まれていた。それは、脱原発・気候危機打開に、多くの交差する視点を取り入れるべきという政策への提言であるだけでなく、それを求める運動への提言であり、私たち自身に向けられている。

(川﨑 彩子)

1) ノーニュークス・アジア・フォーラム ジャパン
nonukesasiaforum.org/japan/

2) Global Witness,“ Standing firm The Land and Environmental Defenders on the frontlines of the climate crisis ” 2023.9.13
globalwitness.org/en/campaigns/land-and-environmental-defenders/standing-firm/

3) 탈핵신문(2025.5.29)「6살 때 후쿠시마 핵사고 겪은 청년은 지금」
(脱核新聞(2025.5.29)「6歳の時に福島原発事故を経験した青年は今」)
www.nonukesnews.kr/news/articleView.html?idxno=11249

4) OhmyNews(2025.5.22)「”기후정의에 원전은 필요 없다” [아시아, 탈핵의 문을 열다 – 대만에서 함께 한 여정⑤] 일본 활동가 가와사키 아야코와 와타나베 아코」
(「気候正義のために原子力発電所は必要ない」アジアが脱原発への扉を開く – 台湾で共に歩む(5) 日本人活動家 川﨑彩子さん、渡辺あこさん)
www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0003133039

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