2015年:20年目の 曲がり角を迎えて
「原子力規制委員会と経済産業大臣が『廃炉か40年超運転か』の判断を急ぐよう電力各社に求め、大きな曲がり角を迎えている」――と、あるところに書いた。「いや、そうだろうか。福島原発事故が起こった時、これでもう日本の原発はすべて永久に止まると多くの人が思っただろう。それからすれば、こんな曲がり角でよいのか」と。
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昨2014年12月6日、福井県敦賀市で開かれた「’14もんじゅを廃炉に!全国集会」で、原子力発電に反対する福井県民会議の中嶌哲演さんは、原子力発電を巡る時代の変化は、福島原発事故を待つまでもなく、1995年に始まっていたと語った。曲がり角というか分かれ道というか、それは20年前にすでに見えていた。
1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災は、原発に限らず、あらゆる「安全神話」を白日の下にさらけ出した。4月14日には電気事業法の改正が成立し、卸発電と特定地域内の電力小売りが自由化されて、いわゆる「電力自由化」の第一歩が踏み出された。7月11日、電気事業連合会が、新型転換炉の実証炉をつくる計画の見直しを事業主体の国策会社「電源開発」(のち完全民営化)や国に申し入れ、8月25日の原子力委員会で建設は正式に中止された。電力業界が公然と国策に反旗を翻したのは、初めてのことである。
そして12月8日、高速増殖原型炉もんじゅでナトリウム噴出・火災事故が発生する。事故を受けて翌1996年1月23日、福井・福島・新潟3県の知事が、「今後の原子力政策の進め方について」の内閣総理大臣への提言をとりまとめた。「陳情」でも「要請」でもなく「提言」は、まさに画期的なものだった。
新潟県巻町(現・新潟市)議会では1995年6月26日、原発建設賛否の住民投票条例案を可決、96年8月4日の投票実施(有効投票の61%、全有権者の54%が反対)につながる。
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20年後の今年2015年こそ、原発廃止へのより大きな曲がり角であり、廃止か延命・再推進かの、おそらく決定的な分かれ道である。
川内原発に始まる再稼働は、何としても食い止めたい。止める力も残っている。それでも力ずくで強行されてしまうかもしれない。しかしなお「原発はほぼゼロ」の状況に変わりはなく、ここでがんばっただけ、その後の動きに歯止めがかかる。そして、原発廃止への分かれ道を確かなものにできる。
2012年6月20日に原子力規制委員会設置法が成立、付則で原子炉等規制法が改正されて、原発の運転期間は原則40年とされた。特別点検と経年劣化評価を実施して保守・管理方針を策定し、1年3ヵ月~1年前に委員会に認可を申請して、認可を得られれば1回だけ、最長20年の延長ができる。ただし13年7月8日の施行時点で40年を超えているものがあり、超えていなくても審査中に超えてしまうものもありうる。
敦賀1号、美浜1、2号は2013年7月8日には40年を超えていた。14年末には島根1号、高浜1号も超えた。玄海1号、高浜2号は15年末までに超えることになる。そんな7基については、施行3年後の16年7月7日で40年と見なすこととされた。運転期間の延長を望む場合は、その1年3ヵ月~1年前、すなわち15年4月から7月の間に原子力規制委員会に延長認可の申請をしなくてはならない。
延長認可とは別に、新規制基準にも適合していなければ、そもそも再稼働することができない。老朽炉にとって許認可のハードルは高く、不許可ならもちろん、2016年7月7日の時点でまだ審査中だった時には、再稼働も40年超運転も、自動的に認められないことになる。遅くとも15年早々には適合性審査の申請をしなくては間に合わない。原子力規制委員会と経済産業大臣が求めたのは、そういうことだ。
7基のうち高浜1、2号について関西電力は2014年12月1日、特別点検に着手したと発表した。原子炉容器の中性子照射脆化や各機器の腐食、コンクリート強度などを調べるものだ。特別点検着手は、40年超運転の意思表示である。他の5基は廃止の見込みが高いので、高浜1、2号の申請が無ければ「運転延長ゼロ」という実績がつくられてしまう。東京電力没落後の電気事業者のリーダーとしては、何が何でも申請するしかないのだろう。
老朽炉を新規制基準に適合させることが可能と判断しても、そのためには大規模な改修が必要となり、多額の費用を要する。高浜1、2号以外は出力が小さいことを考えると、延長期間のうちに投資の回収はとてもおぼつかない。また、延長をすれば、事故=莫大な出費のリスクは高まり、使用済み燃料や各種放射性廃棄物の後始末の費用が増える。電力需要も低減しているし、それなら廃炉にと考えるのが自然だろう。
とはいえ、その時には、損失を一気に計上しなければならない。「不良債権」のツケが回ってくる。そこで2013年10月、会計ルールの原則をあえて踏み外し、運転終了後も主要設備の減価償却や廃炉費用の積み立てができるようにされた。それでも電力会社の側は、負担がなお大きいとしていっそうの対策を求め、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会の廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループで再び検討されている。
そうした対策によって原発の廃止が加速されるならと歓迎する考えもあるが、それならば、早く廃炉にするほど優遇されるとか、同上分科会の原子力小委員会への意見書で吉岡斉委員が提案するように「原発の全廃へ舵を切る会社については、それを応援するための特別の支援を検討」するとか、もっと効果的に廃止を促すしくみにすべきだろう。そうでないと、この対策は、目先の老朽炉のためだけでなく、新増設炉の投資額回収を容易にする策ともなりうる。原子力小委員会では、何人もの委員・専門委員から、老朽炉の廃炉と抱き合わせで新増設をと声高に語られているのだ。
原子力小委員会事務局の資源エネルギー庁の最大の狙いは、電力自由化の進展下でも電力業界が原子力事業から逃げ出さないよう、福島原発事故の「『事故前政策』よりもはるかに手厚い支援・優遇」(吉岡斉委員意見書)を与えることである。廃炉会計の見直しは、その1つにすぎない。文部科学、経済産業などの副大臣らにより、原子力損害賠償制度の見直しも別途進められている。
再稼働が、原発をいま動かすかどうかではなく、投下した資金を回収できるまで原発を長く動かすことであるのと同様に、原子力小委員会での議論は、老朽原発の廃炉を奇貨とし、新増設によって一定規模の原発を維持することを意味している。
電力需要の動向を見ても、原発廃止は必然である。問題は、廃止か延長かではなく、老朽原発の廃止を原発延命への隠れ蓑にするか全原発の廃止に向けた第一歩とするかだ。私たちのなすべきことは自明だろう。
(西尾漠 原子力資料情報室共同代表)