タニムラボレター No.029 「不検出」をもう一度考えよう
先日、久しぶりに福島に行き、昼は農家と都市生活者が一緒に作業をし、夜は原発事故によって発生した様々な問題を話し合う活動に参加しました。そこで不検出について印象的な意見が交わされたので取り上げます。
農作物などの放射能検査結果には、数値が表記される場合と、「不検出」「ND」「検出限界以下」「<●●」「―」などの表記がされる場合があります。後者は目的の物質(多くの場合は放射性セシウム)が検出されなかったという意味で使われています。NDはNot Detectedの略です。おなじ不検出の表記でも、その意味はそれぞれ違います。検出できる最小の濃度は検出器の種類、試料の体積や重さ、測定時間などで異なるからです。高精度測定ができるゲルマニウム(Ge)半導体検出器は、高価なので気軽に所有はできません。
厚生労働省がとりまとめた食品の放射能検査結果1)を参考にこの問題を考えてみましょう。11月に検査されたレンコンは12サンプルでした。産地は千葉、埼玉、新潟、茨城、山梨でしたが、このうち放射性セシウムが検出されたのは千葉県産のものだけでした。1キログラムあたりセシウム134が0.841ベクレル、セシウム137が2.26ベクレル、セシウム合計が3.1ベクレルです。他の11サンプルからはセシウムが検出されなかったと分かります(表)。
表をみて、放射性セシウムの摂取をできるだけ抑えることを目的にレンコンの産地を選ぶなら、あなたはどこを選びますか? 千葉県産を避けるべきなのでしょうか?
「<●●」の数値がその測定で検出できる最小の濃度ですが、2行目の埼玉県産のレンコンのセシウム合計は9.0ベクレル以下という表記での不検出でした。真実の濃度は8ベクレルかも1ベクレルかもしれませんが、この表から判断することはできません。つまり、千葉県産の3.1ベクレルよりも濃度が高い可能性がありますから、埼玉産と千葉産のどちらを選ぶべきか判断できません。他のサンプルも同じ状況です。これでは困ります。
原発事故から4年になろうとしているいま、農作物のセシウム濃度は特定の品目をのぞけば不検出ばかりです。わずかな濃度まで検出できる手間のかかる測定をすれば数値が出て「検出」になります。放射性物質の検出有無だけに着目するのでなく、不検出が並ぶデータからどんな判断ができるか、必要な判断をするためには測定精度や頻度をどのように改善するべきか、考えなおすべき時期にあるのだと思います。
1) www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html
(谷村暢子)