原子力小委員会奮闘記(5) 曖昧な表現に終始した中間整理 統一地方選後に本格的議論となるか

『原子力資料情報室通信』第488号(2015/2/1)より

 本誌486号で中間整理案の概要について報告した。11月27日の第10回会合で筆者は、整理案に合意できない旨の意見書を提出した。会合の後、12月3日までに追加の意見があれば事務局へ提出することとなった。その後、中間整理案の修文を新たな案として、12月24日に第11回会合が開催された。
 会合はいきなり、修文を委員長一任で決定するとの断りから始まった。議題は自由討議で、今後の方向などを議論したいという委員長の意向が伝えられていた。整理案に関してはもう議論することがないと考えていたのだろう。ところが、会合では整理案への意見が多くの委員から出された。
 筆者も意見書を提出し、会合で意見を述べた。突然にいくつかの見過ごせない修文が入っていたからだ。大きくは3点あった。

見過ごせない中間整理案の修文

 その一つは「本中間整理は、原子力小委員会において議論してきた内容について、国内外に問題意識を発信し、同時に、政府の具体的な政策立案に活かすための提言である」という奇妙な一文が挿入されていたことだ。そもそも、取りまとめを作るほど議論が進んでいないから中間整理となっていたのである。形式も、事務局まとめ的な箇条書き部分と、委員会での主な意見としての箇条書き、そして招聘者からの意見のまとめ、となっている。整理案の内容が提言に格上げされると、これまで議論になっていた原発新増設などに弾みがつくと受け止め、これに反対した。①まとめと言えないものなので提言にならない、②事務局整理項目と委員会における主な意見という構成になっているが、整理案が提言とすれば両方とも提言と解釈できる。例えば「再処理から撤退すべき」という意見も提言と解釈できるが、それでよいか? 
 結果として、2日後に出された最終案からは提言という言葉は削除され「政府の具体的な政策立案に活かすために中間的な整理を行ったものである」となった。
 二つ目は「原発依存度低減の方針が決まったことにより、従前の各事業者の想定よりも早期に廃炉せざるを得なくなっている」の表現だ。小委で事業者は、新規制基準によって廃炉を余儀なくされるのだから政府は当然なんらかの対応策(支援策)を講じるべきだと主張していた。この議論の流れとは全く異なる経緯を突然に持ち出したのはなぜなのか? 政権の方針に従って事業者が対応しているという形式を作ることで、後の支援策を講じ易くするためか? いずれにせよ、ここは「ことにより」が「こともあり」に変更された。
 三つ目は「廃炉するだけでなく、早期に策定されるエネルギーミックスの議論を踏まえ、廃炉に見合う供給能力の取扱いを含めた我が国の原子力の将来像が明らかになっていなければ、判断がしにくいという意見があった。」の修文だった。アンダーライン部分が付け加えられたのだ。意見があったなら、委員会の主な意見として扱っておけばよいのであって、このような表現で事務局まとめに入ってくるのは奇妙だ。このような表現は他の箇所にはなく、しかも最終段階で突然に挿入された。筆者は削除を求めたが、採用されなかった。
 これは、非常にあいまいな表現でどうとでも解釈できる。事務局は、見合う供給能力は火力などでも可能で原発のリプレースを言ったのではないとマスコミに説明したとのことだ。しかし、当会合が原子力小委であること、また委員からはリプレースを明記すべきとの意見が繰り返しあった(特に増田寛也委員)ことを考えると、原発のリプレースを意味させたいと受け取るのが自然だ。委員の誰かがそうとう強引に修文を求めたのだろう。
 しかし、「意見があった」とするのは、経産省としてまだリプレースを明記したくない、あるいはその段階ではないとの判断が働いているとも読める。もともと小委の目的はエネルギー基本計画に示された方針の具体化であったが、中間整理案は具体化といえる内容ではない。原発の割合が決まっていないから具体化できないということだろう。割合が決まれば、それを維持するための具体策を示すことができる。だから現時点で出された整理案は方向性を示すに留めているといえる。

エネルギーミックスはどうなる?

 経産省は原発の割合を示すつもりならできるはずだが、原子力小委員会からは示さない方針と考えられる。脱原発世論や再稼働反対の世論などの強さから、避けたいと考えているようだ。また、自然エネルギーの割合を詰めてから、残りを原発に割り当てる方針のようだ。いわゆるエネルギーミックスは、長期エネルギー需要見通し小委員会で議論される。
 昨年11月18日に開催された国会エネルギー調査会準備会で、自然エネルギーに関する議論を私たちは経産省と行った。その際、彼らが示した自然エネルギー比率は2030年時点で水力発電を含めて約21%だった。これに原発比率がそれなりに高くなる危惧を抱いた。
 他方、第15回基本政策分科会(11月19日)に招聘された国際エネルギー機関(IEA)の「世界のエネルギー概観2014(World Energy Outlook 2014)」の図からは、日本における2040年時点の電源構成の予測では原発が約21%、自然エネルギーは32%程度(中位シナリオ)と読み取れる。2030年と40年ではほとんど変化しない。なお、電力需要は2010年に比べて若干増大(2030年で1%、40年で3%程度)すると予測している。小委の事務局に、この予測は政府の資料を元にしているのではないか? と問い質したが明確な回答は得られなかった。
 どうやら経産省は、民主党政権下で議論された3つの選択肢の20~25シナリオ(発電に占める原発の割合を20~25%とする案)を狙っているように推察される。シナリオの説明は「緩やかに原発の依存度を低減しながら一定程度維持。新設・更新が必要。原発に対する国民の信任が前提」となっていた。
 原発に対する国民の信任など得られるはずもない。エネルギーミックスの提示が4月の統一地方選挙に影響することを避けるために、中間整理案で具体的表現を避けたのだろう。エネルギーミックスの議論は選挙後に結果が現れることになると考えられる。その後に、リプレースやこれを支える支援策が出てくるだろう。

(伴英幸)

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