イスラエル・米国のイラン「核施設」攻撃が何をもたらすか

『原子力資料情報室通信』第614号(2025/8/1)より

 2025年6月13日、核兵器保有国イスラエルは、イランの原子力関連施設などへの空爆や要人暗殺を開始した。イスラエルは以前からイランがこれらの施設で核兵器を開発していると主張していた。イランも大量のミサイルを用いて報復攻撃を行った。6月22日には米もイランのウラン濃縮施設など3つの施設を攻撃した。特に地下深くに建設された施設の攻撃は米国の持つ兵器でしか届かなかったのだ。ただし、破壊の程度は未確定だ。イランの核兵器開発は数か月遅れた程度とみる識者から数年は伸びたという識者までかなり幅がある。イスラエルとイランは米国およびカタールの仲介で停戦に合意。25日に戦争は休戦状態に入った。原子力資料情報室は、6月25日に、当事国に対し、直ちに攻撃中止・停戦を求める声明※1を発出した。

 核拡散防止条約(NPT)は原子力平和利用の権利を各締約国に認めており、ウラン濃縮もその範囲に入る。イランは自国の活動を平和目的であると主張している。イランの行動が地域の安全と安定を脅かす疑わしい行為であることは間違いないが、どのような問題があろうと、今回の攻撃は国際法上、違法なものである。また、「平和目的」名義の原子力施設への攻撃であり、きわめて危険な行為である。

 イスラエルと米国、イランの間にはそれぞれ意識の隔たりがある。イスラエルはイランが核開発を放棄しない限り、軍事力を用いて体制転覆を目指して、今も準備中だとみられる。一方、米国はこれ以上の軍事的深入りは避け、外交で解決を図りたいようだ。米政権側からのイランの核開発プログラムが完全に破壊されたという宣言は勝利宣言というよりも、これ以上は求めないというシグナルだとみられている。イラン側も外交で解決したいとみられるものの、米オバマ政権時代に国務長官を務め、イランとの核協議で中心的役割を果たしたケリー氏の“Iran is a proud, proud, proud nation. One of the things I learned in my negotiations was the level of pride was just enormous.(イランは誇り高い、誇り高い、誇り高い国です。私が交渉で学んだことの一つはその誇りの高さがとてつもないということです)”という証言からもわかる通り、きわめて国家の体面を重視する国だ。攻撃でウラン濃縮を放棄することは国内の体制弱体化を招くため、容易な話ではない。

 それでなくともイランは長年の経済制裁で国内の経済状況が悪化している。6月からは、40年以上受け入れてきた300万人以上とみられるアフガン難民が国外退去を強いられ始めている。イスラム革命とその国際的拡大を掲げてきたイラン政府は近年、イラン民族主義に舵を切りつつあるが、この動きもその一環と言える。多くのアフガン難民を受け入れてきたパキスタンでも2023年から2025年6月末までに200万人以上のアフガン難民を帰還させる方針だ。

 報道などによれば、アフガン側は歓迎しているものの、こうした避難民を受け入れる雇用は存在しない。アフガンを支配しているタリバン政権は国際的に殆ど承認されておらず、復興に向けた投資もままならない。アフガン難民とされる人々の中にはアフガンに足を踏み入れたこともない2世・3世も多くいる。仕事の無い若い世代はテロ組織の格好の勧誘対象となる。私たちは中東から中央アジアにかけての更なる不安定化を目前にしている。

 話を元に戻そう。イランは多くの「核施設」※2を保有していることは事実だ。そして近年イランは高濃縮ウラン※3の保有量を急拡大させている。2025年5月時点のIAEA報告では、60%以上に濃縮されたウランを408.6kgも保有していた。

 ちなみによく90%以上に濃縮されたウランが問題となるが、それ以下でも核兵器は製造できる。IAEAはウラン235が20%以上に濃縮されたウランを高濃縮ウランと定義し、有意量(核爆発装置製造を否定できない量)をウラン235量で25kgとしている。90%濃縮のウランだと27.8kg、60%濃縮で41.7kg、20%濃縮で125kgに相当する。これは爆縮型の例だが、ガンバレル型だとさらに多くの量が必要になる(90%濃縮:53.8kg、60%濃縮:120kg、20%濃縮:800kg)。量は多いものの爆縮型よりも製造は容易だ。

 この数字から明らかなとおり、イランは核兵器を製造する気であれば、可能な量の濃縮ウランを確保していた。IAEAはイランが核兵器開発している証拠はないと報告し、米国家情報長官が3月26日に、イランは核兵器を製造していないとの評価を継続している、と米議会に報告している。これまではイランには製造意図はなかったと考えられる。

 ただし、高濃縮ウランを製造するということ自体が疑わしい行為であることは事実だ。高濃縮ウランの用途は主に、核兵器か、研究炉、原子力潜水艦に限られる。近年は核拡散防止の観点から、多くの研究炉が燃料を高濃縮ウランから低濃縮ウランに切り替えている。イランには原子力潜水艦計画はあるが、技術的には相当先のことになる。ちなみに、原子力潜水艦は、通常は90%濃縮の場合500kg程度、小型の場合で50kg程度を用いるという。

 今回のイスラエル・米国の国際法上の不法行為を改めて確認しておこう。イスラエルはイランの核開発が自国への脅威だとして先制攻撃を開始した。だが国連憲章2条4項は(加盟国は)「武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と武力による威嚇または行使の一般的禁止を規定している。42条で安全保障理事会での決定に基づき、武力行使が可能になるが今回はそのような決定は一切存在しない。51条で武力攻撃があれば、安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間、個別的又は集団的自衛権の行使を容認しているが、今回はイスラエル側の先制攻撃だ。

 ジュネーブ条約第一追加議定書(イスラエルは不参加、米・イランは署名・未批准)は56条で、原子力発電所について「攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは」攻撃を禁止している。ただ攻撃を受けた施設は、アラク重水炉が未稼働、濃縮施設のあるイスファハン、ナタンズ、フォルドゥは原子力発電所ではなく、対象外だと考えられる。

 ウラン濃縮施設などへの攻撃が条約の禁止対象外だったとしても、民生用原子力施設攻撃という、心理的なハードルを軽々と越えたイスラエルや米国の行為は、原子力「平和利用」の土台を削っている。これまで、IAEA総会決議で繰り返し民生用原子力施設への武力攻撃および脅威は国際連合憲章の原則、国際法およびIAEA規約に違反すると明示しているのも、民生用原子力施設を攻撃しないという国際規範を形成するためだった。こうした努力が、ロシア・ウクライナ戦争や今回のイスラエル・米国によるイラン攻撃により水泡に帰そうとしている。

 今回の攻撃前にイランは濃縮ウランの一部は攻撃された施設から移動していたとみられる。イラン側は攻撃された地下施設の一部へのアクセスを試みているが、現在のところそれほど活発ではない。施設にある量が不明なうえ、どれだけ輸送したかも不明だ。今となってはイランがどれだけの高濃縮ウランを持っているのかもわからない。これまで曲がりなりにも保障措置を実施していたIAEAもイラン国内から退去している。もし120kg輸送できていたとしたらガンバレル型で1発、爆縮型で3発分に相当する。つまり、核兵器製造という観点では、もはや濃縮施設の有無は関係ない。施設の攻撃では何も解決しない。どれだけ細い道でも、外交だけがこの問題を解決する。唯一の戦争被爆国として日本政府に関係国を説得することを求めたい。

(松久保 肇)

※1:https://cnic.jp/61474、なお本稿は声明をもとに大幅に加筆修正した。
※2:https://cnic.jp/61390にイスラエルとイランの核施設をまとめた。
※3:濃縮ウランとはウランに含まれるウラン235を一定の濃度まで濃縮したウランのことを指す。

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