福島はいま(30)15年の歳月、あきらかになってきた矛盾

『原子力資料情報室通信』第621号(2026/3/1)より

■忘却は人の常とはいうものの、原発再稼動の是非を問うた世論調査の結果をみるとおどろく。2013年6月、「反対58%、賛成28%」(朝日新聞)だったが、2025年12月になると、「反対21%、賛成48%」(毎日新聞)と大きく逆転した。調査によって多少の違いはあるだろうが、傾向は信頼できるだろう。これは忘却のゆえであろうか。
福島第一原発事故(福島事故)を起こした東京電力は、昨今の「原発回帰」のうねりに棹さして、新潟県の柏崎刈羽原発6号機を14年ぶりに稼働へと動き出した。
「県民に信を問う」と繰り返してきた花角知事が国や業界からの強い圧力に屈し、再稼動を承認。東京電力は26年1月20日に再稼動と決定した。しかし、作業を始めるや制御棒をめぐるトラブルが続発し、23日に原子炉は停止に追い込まれた。
2月9日に再び起動したが、原子炉内の中性子測定装置の不具合で、また、停止。2月14日に起動させた。3月18日に営業運転開始を目指している。

■司法・立法・行政の三権分立は近代国家の基本的仕組みだと教わった。だが、どのような分立なのか、分立の具体性は時の流れと社会の在りように依存する。「国策民営」の原発では、国と東電の双方に福島事故の責任は問われる。だが、司法は国の責任をいっさい認めようとしない。
福島事故で避難を強いられた住民が国と東電に賠償を求めた集団訴訟9件の決定が示された(2026/1/22)。最高裁第一小法廷は、東電には賠償を命じ、国の責任は否定した。
ALPS処理汚染水差止裁判の第6回で(2026/1/26)、日本近海と世界の海の海流によって福島事故で海に放出された放射性物質がどのように拡散していったか、原告側弁護団は研究者たちのシミュレーション結果を示した。日本列島の沿岸部は太平洋側だけではなく日本海側も汚染されることが判った。被告の国は、原告366名全員の原告適格性がないとの主張を崩されるだろう。

■基準値という概念は、物事の判断には欠かせないが、「科学的判断によれば」などと一言で済まされる場合がある。
福島県の小児甲状腺がん患者は少なくとも415人の多数にのぼる(本誌前号、崎山比早子論考)。通常の数十倍も多発しているのに、それを認めない科学の〈専門家たち〉がいる。政府も東電も放射線被ばくが原因であることを認めない。スクリーニング、あるいは、過剰診断の可能性を主張している。
崎山さんたちは、これらを否定する。UNSCEAR2020/2021年推定被ばく線量が過少評価であることや、被ばく線量と甲状腺がん罹患率に相関関係がみられるので、原因は放射線被ばくであることを示している、と考えている。
かつて、アリス・スチュワート博士(英)から直にうかがった「ピンポイント放射線をも避けよ」という警告が思い出される。放射線が細胞の中の核にあたると遺伝子に突然変異が起こり、最終的には人体に影響を与えるというのであった。
現在、放射線には安全量はない、リスクは線量に比例して増加するという「しきい値なし直線(LNT)モデル」が確立している。原発をすすめる行政や〈専門家〉と被害を受ける側の市民との立場では、何が最重要か、見解が分かれるのはしばしばみられる。電気は便利だが、ほどほどでよい。なによりも、人命や健康や住み慣れた土地が大事だと考える人たちこそが重んじられる社会が望ましい。

(山口幸夫)

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