新主体さがしは時間の浪費、「もんじゅ」は 廃炉にすべき―市民検討委員会が提言―
「もんじゅ」に関する市民検討委員会は5月9日に「もんじゅ」を廃炉にすることを求める提言を発表した。提言の相手は内閣総理大臣、内閣官房長官、文部科学大臣、経済産業大臣、環境大臣、内閣府行政改革担当大臣、原子力規制委員会、原子力委員会、会計検査院の9組織だった。ここでは経過と内容を報告したい。
ことの発端
原子力規制委員会(以下、規制委)は15年11月13日に馳浩文部科学大臣宛に「もんじゅ」に関して勧告を発した。内容は、①日本原子力研究開発機構(以下、原研機構)に代わって「もんじゅ」の出力運転を安全に行なう能力を有すると認められる者を具体的に特定すること、②これが困難ならば、「もんじゅ」という発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと、の2点であった。勧告の背景は、機器類の点検漏れや安全上の重要度分類が正しくできていないなど、再三の指摘にも拘わらず、保守管理が改善されなかったからだった。
「もんじゅ」は1995年に40%出力で初発電を行なったものの、その4ヶ月後の12月5日に冷却材のナトリウムが漏洩・炎上する事故を起こした。2010年にゼロ%出力で試験運転に成功したが、燃料交換装置である炉内中継装置の落下事故を起こし、再び停止が続いている。この間に、1万件を超える点検漏れや安全上の重要度分類の間違いなど、保守管理等の不備が浮上した。勧告文は原研機構に対して「規制官庁による指導も再三にわたって行われてきたものの、結果的に具体的な成果を上げることなく」、文部科学省に対して「二度にわたり要請してきたが現在に至るも十分な改善がみられていない」と指摘している。
これを受けて文部科学省は有馬朗人氏を座長とする「『もんじゅ』の在り方に関する検討会」を設置して、対応を議論している。御用納めの12月28日に第1回の会合を開いてから、今年5月末までに8回の会合を重ねて、報告書の案が出てきた。しかし、第1回の会合から廃炉は考えずに新たな主体探しを行なうとし、会を重ねるに従い、委員会は新たな主体に求められる要件だけをまとめる方向となっていった。第7回会議に提出された要点骨子によれば、①保全プログラムの遂行能力を有する、②発電プラントの保守管理・品質保証の体制・能力を有し、適切な人材育成ができる、③それらに関する情報収集・活用能力およびナトリウム冷却高速炉特有の技術力等を有する、④社会の関心・要請を適切に運営に反映できるガバナンスを有する、の4要件が掲げられている。このような当たり前すぎる内容が報告書案にまとめられていて、新主体の具体性が全く見えてこない。主体探しは文科省で行なうようだ。ところで、「高速増殖炉」でなく「高速炉」との表現が使われていることは、従来の増殖炉開発政策の実質的変更を意味しているといえる。
私たちは勧告を機に「もんじゅ」の抜本的見直しこそが必要だと考えていたが、文科省の検討会の第1回会合から、「もんじゅ」の維持ありきで検討が進められると理解した。そこで、「もんじゅ」に関する市民検討委員会を設置して、抜本的見直しを提言しようとしたのだった。原子力規制委員会は半年を目処に新主体を探すように勧告していたので、市民検討委員会はそれより早く提言をまとめることにした。
市民検討委員会とは
「『もんじゅ』に関する市民検討委員会」(以下、市民検討委員会)は、原水爆禁止日本国民会議ならびに原発反対福井県民会議からの委託を受けて、原子力資料情報室が組織したものだ。委員構成は、小林圭二氏を特別委員として、福武公子氏、筒井哲郎氏、田窪雅文氏に当室から西尾漠、伴英幸が加わり、伴が委員長を務めた。また、事務局を松久保肇が担当した。第1回会合を2月3日に行ない、4回の会合とインターネットを通したひんぱんな意見交換で提言をまとめた。第3回会合は地元敦賀市で行ない、併せて「もんじゅ」の見学や地元の方々との意見交換、記者会見も実施した。見学では、実物大の燃料棒模型、破損した温度計、配管断面、原子炉容器の蓋断面などの展示や事故後に建てられたナトリウム取扱施設などを見たり、敷地内展望台からもんじゅ施設を概観した(原子炉建屋には入れなかった)。交流会では、原子炉施設で作業した経験のある人の話を聞くことができ、提言内容を深めることができた。
「もんじゅ」の廃炉を提言
市民検討委員会の提言は、①新たな主体はありえない。主体さがしに無駄な時間をかけるべきでない、②「もんじゅ」は廃炉にすべきである、の2点である。さらに、この主張を補完するために各委員がまとめた論文を各論として付けた。全体で50ページを超える大部なものになった。
「もんじゅ」は旧動力炉・核燃料開発事業団(以下、旧動燃)が設計し設置した原子炉である。各機器類の詳細設計は三菱、東芝、日立の3大メーカーが担当・製造し、据え付けている。また運転関係は日本原電を中心に電力各社からの出向に依存するところが大きかった。全体を統括しているのが旧動燃である。原研機構に統合されてもこの体制は変わらなかった。
この20年の間に旧動燃で設計・開発に携わった職員はほとんど退職しており、「『もんじゅ』研究計画」(2013年9月、文科省)にみられるように実証炉計画の事実上の棚上げという政策変更も影響して、メーカーや電力の出向者たちも各社へ戻っている。保守管理能力の欠如はこうした状況が背景にある。
かといって、原研機構以上に「もんじゅ」を統括的に知る組織がないことも現実だ。なにより「もんじゅ」の維持を訴える人たちがそう主張している。しかしこの原研機構に「もんじゅ」を任せられないと規制委が烙印を押し、首の挿げ替えのような対応では認められないとも言っている。だから、文科省が進める主体さがしは時間の無駄といえるのである。新主体がありえないことは、各論1でさらに掘り下げて論じた。さらに、市民検討委員会は、新主体に関して考えられる原研機構との合併、あるいは分割、「もんじゅ」の譲渡、新法人設立などさまざまな場合を掘り下げて検討して各論3「『機構に代わる運転主体』の法的問題点」にまとめた。
廃炉は、ナトリウムを冷却材に使い高速中性子を利用する「もんじゅ」での爆発事故の危険性、核兵器級のプルトニウムを作り出すことによる核拡散上の懸念などの観点から、訴えた。仮に、発電炉でなく研究炉に改造する場合には膨大な追加工事費用が必要になり、その意味があるとも考えられない。これらは、「『もんじゅ』の重大事故とは何か」(各論4)、「核兵器問題から見た再処理・高速増殖炉計画」(各論8)で論じた。
「もんじゅ」開発継続の意義として、放射性廃棄物の有害度低減が謳われている。増殖炉開発という「もんじゅ」の政策上の位置づけの変更である。しかし、これもまた夢物語である。「『もんじゅ』での放射性廃棄物の減容化・有害度低減は無意味」(各論2)「『もんじゅ』の設置許可は無効である」(各論5)「『もんじゅ』の歴史から今を読む」(各論6)「海外高速炉の情勢について」(各論7)で論じた。この提言を福井県でも広めて、「もんじゅ」廃炉への動きを加速させていきたい。
(伴英幸)