米印原子力協力協定に関する質問状
2008年9月17日
内閣総理大臣 福田康夫 様
外務大臣 高村正彦 様
米印原子力協力協定に関する質問状
核軍縮と平和のために努力されておられることに敬意を表します。
さて、私どもは、貴職ら宛に去る9月9日「インドを特例扱いするNSGガイドラインの変更にあたっての声明」と題する共同声明の提出とともに、「米印原子力協定に関する声明の提出と要請」を提出し、その際、「今回のインド例外扱いに至った経緯、これを容認した理由、今後の核兵器廃絶に向けた展望や対応等について」「質問状を提出させていただきますので、近日中に、担当官と市民団体との会合の機会を持っていただきたく要請いたします。」と申し入れました。
そこで、別紙の通り、質問事項を作成しましたので、回答の機会を設けられるようお願い申し上げます。
賛同団体(50音順):
核兵器廃絶市民連絡会
連絡責任者 内藤雅義
核兵器廃絶ナガサキ市民会議
代表 土山秀夫
核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)
共同代表 岡本三夫 河合護郎 森瀧春子
原水爆禁止日本国民会議
議長 市川定夫
原水爆禁止日本協議会
事務局長 高草木博
世界平和アピール七人委員会
事務局長 小沼通二
日本原水爆被害者団体協議会
事務局長 田中照巳
日本国際法律家協会
会長 新倉修
[別紙]
質問事項
1、原子力供給国グループ(NSG)臨時総会における日本の対応について
(1)原子力供給国グループ(NSG)臨時総会に参加するにあたっての基本姿勢
(イ)水平的核拡散問題への影響評価
外務省軍縮不拡散・科学部が本年9月9日に発表した「原子力供給国グループ(NSG)第2回臨時総会(概要及び我が国の対応)」(以下「我が国の対応等」といいます。)によりますと、2の「我が国の対応」において、「NPTに加入していないインドへの不拡散に与える影響」を考慮に入れながらも、今回の対応決定になったとされています(「我が国の対応等」2(2)(イ))。
Q1 1995年核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議の『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、核関連輸出に当たっては「必要な前提条件として、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを 要求すべきである」としています。今回の決定は、これに違反するのではありませんか。
Q2 米印原子力協定は、民生用施設と軍事用施設を分離し、前者のみを保障措置の前提とするものであり、これを前提に原子力協力を認めることは、インドをNPTの核兵器国と同等の処遇を国際社会がすることを意味すると考えますが、この点はどのように評価されたのですか。
Q3 この点については、インドの核兵器開発だけではなく、その他の国、とりわけ、北朝鮮、イラン、パキスタン、イスラエル等に対する影響も考慮したということですか。
Q4 これらの国に対して、インドを特例扱いにしたことについて、藪中外務省事務次官は、9月8日の記者会見で、これらの国とインドとは別だと述べていますが、別である理由を述べてください。
Q5 また、これらの国が、インドを特別扱いにしたことを理由に、核兵器を放棄しないと対応する可能性については、どのように考えられたのですか。
SQ1 とりわけ、パキスタンは、インドの特例扱いを理由に、自らも同様の扱いを求めて核兵器を放棄しないと考えますが、いかがですか。
Q6 イランは、アメリカがイスラエルについてもインドと同様に扱うことを求めるのではないかと危惧していますが、この点についてはどのようにお考えですか。
(ロ)地球温暖化問題について
今回の「我が国の対応等」によりますと「インド・・・の原子力平和利用が、地球温暖化対策として貢献しうるという意義」を考慮したとされています。
Q7 既に、原水禁と原子力資料情報室が質問しているところですが、インドにおける原子力平和利用が、地球温暖化対策としての温室効果ガス削減効果を、他の削減対策と比較しながら、数値を挙げて具体的にお示し下さい。
(ハ)インドの核問題への対応の評価
前記「我が国の対応等」では、「インドによる核実験モラトリアムの継続を重視しつつ、議論に参加した。」とされ、更に「NSG臨時総会において、参加各国による厳しい議論・交渉の結果」「ムカジー外相の声明において述べられた・・インドのコミットメント及び行動」「を通じて、インドに対する不拡散措置が現在より強化され、同国の原子力活動の透明性が高まるとともに、国際的な核不拡散体制の外にいるインドによる更なる不拡散のへの取組を促す契機となる」と記載されています。
しかし、IAEAの保障措置下に置かれるのは、既にIAEAの保障措置の対象となっている外国から購入した原子炉6つの外は、運転中及び建設中の国産の発電用原子炉16基のうちの8基にしか過ぎず、他の8基の国産発電用原子炉と、すべての研究炉、高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部とされ保障措置の対象外とされています。このため、海外から核燃料が輸入されることにより、インドの国産のウランにより核兵器が増産されると指摘されています。更に、ウラン濃縮やプルトニウム再処理といった機微技術がインドに提供された場合には、それがコピーされて核兵器生産に利用される可能性があるとも指摘されています。つまり、核兵器の生産を続けるインドに対する機微技術の輸出を明確に禁止しない今回の決定は、NSG参加国がインドの核開発に直接手を貸すことになりうるということを意味しています。
Q8 米印原子力協定ないしNSGガイドラインの変更によりインドの国産ウランが核兵器に回され、インドの核兵器増産に利用される可能性はないのですか。ないとすれば、その根拠を示してください。
Q9 機微技術がインドに提供されても、それが核兵器生産に利用される可能性はないと言えますか。言えるとするなら、その根拠をお示し下さい。言えないとするなら、なぜ、核兵器の生産を続けるインドに対する機微技術の輸出を明確に禁止しないガイドライン修正に賛成したのか説明してください。
(2)日本政府の最終対応について
(ア)National Statementについて
「我が国の対応等」によりますと、「大局的観点から、ギリギリの判断として、コンセンサスに加わった。その際、我が国は、仮にインドによる核実験モラトリアムが維持されない場合には、NSGとしては、例外化措置を失効ないし停止すべきであること、また、NSG参加各国は各国が行っている原子力協力を停止すべきであることを明確に表明した」とされています。そして、アメリカの軍備管理協会のダリル・キンボール氏のホームページによりますと、いくつかの国がNSGのインドに関する政策が実施されるべきかについてのNational Statementを発表したとされ、その中に、日本政府の名前が掲げられています。
Q10 このようなNational Statementがありますか。
Q11 そのNational Statementを公表するつもりがあるか(英語、あれば日本語も)お答え下さい。
ニュージーランド及びオーストリアの外務省のホームページには、これら両国のNational Statement が公表されています。今回の日本の決定については、被爆国として、国民に対する説明責任が強く求められており、これらの国と同様に、National Statementを公表すべきだと考えますが、いかがですか。
(イ)条件付容認について
Q12 9月2日ないし3日の新聞記事(日経、毎日)によりますと日本政府は、条件付容認と報じられていました。
どのような条件を提示したのですか、その条件と、最終的な合意との間に差はなかったのですか。
(ウ)インドの核実験がされた場合についての理解
「我が国の対応等」には、上記の通り、「我が国は、仮にインドによる核実験モラトリアムが維持されない場合には、NSGとしては、例外化措置を失効ないし停止すべきであること、また、NSG参加各国は各国が行っている原子力協力を停止すべきであることを明確に表明した」と記載され、また、藪中外務省事務次官は、9月8日の記者会見で「核実験が行われたら、当然今回の合意は基礎をなさない」と述べています。
これに対し、今回採択されたアメリカ提案の声明は、「協議する」とされているだけであり、当然停止は予定されていません。
Q13 何故、このようなズレにもかかわらず、合意したのですか。
Q14 ハイド法では、インドが核実験を実施した場合に原子力取引を禁止しているにもかかわらず、米印原子力協定(123協定)では、これと異なった内容となっています。アメリカは即時に停止しない可能性があるのではありませんか。
Q15 ロシアやフランスが、原子力供給を停止すると考えたのですか。そのように考えたとすれば、その根拠をお示し下さい。
Q16 今回の声明と異なる決定、すなわち、インドが核実験をした場合に、インドとの原子力取引停止をNSGで決めるには、再び全員一致が必要だと思いますが、違うのですか。
(エ)インドのNPT/CTBT署名の見込みについて
「我が国の対応等」においては、「インドに対し、非核兵器国としてのNPTへの早期加入、CTBTの早期署名・批准等を求めるとの我が国の立場に変わりはない。」と述べられています。
Q17 今回の処置は、Q2で述べたように、インドを核兵器国として処遇することを認めたことを意味すると考えますが、それにもかかわらず、NPTにインドが非核兵器国として加入すると考える根拠を示してください。
Q18 インドがNPT上の核兵器国と同様の処遇を受けることになることからパキスタンが核兵器を放棄しない可能性が高いとは考えませんか。その場合に、CTBTにインドが署名すると考えますか。
2、今後の対応について
(1)NPT体制の堅持についての取組について
今回、インドを例外扱いして、実質上、核保有国と認めたことにより、NPT体制に対する大きな穴が開いたと考えられます。
Q19 今後NPT体制を維持することについては、どのようにお考えですか。
Q20 今回のNSGルールの改定によるNPT体制への影響を最小限にするためには、どのようなことが重要であるとお考えですか。
Q21 それを実現するために、どのような努力をする予定ですか。
(2)日印原子力協定について
Q22 今回のNSGのガイドラインの変更によって日本がインドに対する原子力協力が可能になったと考えていますか。
Q23 もし、インドに原子力協力をするのであれば、インドが、NPTに加入し、CTBTに署名することを条件にすべきだと考えますが、いかがですか。
(3)核兵器廃絶について
Q24 新たな状況を受けて、日本政府としては、2010年NPT再検討会議に向けて、日豪委員会(ラッド委員会)について、その基本的構想や狙いをどのように考えていますか。
Q25 今後、日本政府としては、核不拡散と核兵器廃絶との関係をどのように考えて行くつもりですか。核兵器国による核兵器廃絶の意思を示すことが、核拡散防止のために重要であるとは考えませんか。
Q26 新たな状況を受けて、日本政府としては、1988年6月のラジーブ・ガンディー首相(当時)による、核廃絶を求める国連総会における演説をどのように考えていますか:
“Nuclear war will not mean the death of a hundred million people. Or even a thousand million. It will mean the extinction of four thousand million: the end of life as we know it on our planet earth. We come to the United Nations to seek your support. We seek your support to put a stop to this madness.”