米国が核の先制不使用政策を採用しても日本は決して核武装しないと宣言し、さらに同政策を支持するようにとの要請

紛争において先には核を使わないとの「先制不使用政策(No first use)」を採用することをオバマ政権が検討中と伝えられています。米国の核兵器の役割を、米国や同盟国が核攻撃を受けた場合には核で応じる可能性があると限定するというものです。しかし、報道によれば、日本はこの方針に反対しています。

そこで原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)、ウエブサイト核情報の3者は7月27日、日本政府に対し、この政策変更に反対しないよう要請する書簡を送付しました。

なお、米国の反核平和団体関係者らの同趣旨の公開書簡も日本時間の7月27日朝発表されています(日本語英語)。


 

2016年7月27日

内閣総理大臣 安倍晋三様

外務大臣 岸田文雄様

防衛大臣 中谷元様

米国が核の先制不使用政策を採用しても日本は決して核武装しないと宣言し、さらに同政策を支持するようにとの要請

オバマ大統領が核のない世界に向けた措置の一つとして、先には核を使わないとの「先制不使用政策」の宣言を検討していると伝えられています。言い換えると、核の役割は、米国又はその同盟国が核攻撃を受けた場合には核で応じる可能性があるとの示唆により核攻撃を抑止すること(及び必要な場合には実際に核で応じること)に限るという宣言です。添付したのは、日本政府関係者がこのような政策に反対しているとの報道を受けて米国の反核平和団体関係者や専門家らが日本に米国の先制不使用政策支持を呼びかけた公開書簡です。

背景には、日本政府がこれまでも米国による核の先制不使用政策に反対する立場を表明してきたことがあります。例えば次のようなものです。「核の抑止力または核の報復力がわが国に対する核攻撃に局限されるものではない」(松田慶文外務大臣官房審議官 1982年6月25日衆議院予算委員会)。「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます」(高村正彦外務大臣 1999年8月6日衆議院外務委員会)。「先制不使用を約束してしまった場合、核の抑止力の効果がかなり薄れてしまう。日本の安全を守れるのだろうかという懸念を強く持っている。……米国と日本が先制不使用を約束したとしても、ほかの国が本当に先制不使用を守ってくれるのだろうかという問題がある」(森野泰成外務省軍備管理・軍縮課首席事務官 1998年8月5日広島の原水爆禁止世界大会の会合で)。

日本国民の大半は、他の国が日本に対して核兵器を先に使うことを考えた場合には米国による核報復の可能性の示唆によってこれを防ぐというのが核の傘(拡大核抑止)の考え方だと理解しているのではないでしょうか。これが不十分だと主張する日本政府は、いかなるシナリオにおいて米国が先に核攻撃をすることを願っているのでしょうか。

日本の先制不使用政策反対が重要な意味を持つのは、日本の懸念を無視すると、不安を抱いた日本が核武装するかもしれないとの考えが米国政府関係者の間にあるからです。

トーマス・グレアム元大統領特別代表(軍縮担当)は、1997年8月末に日本を訪れた際、米国が先制不使用宣言をすると、自らの安全が保障されなくなったと感じた日独が核武装するのではとの懸念がワシントンにあり、それが米国の先制不使用宣言に向けた動きの障害になったと述べています。今回公開書簡に署名しているモートン・ハルぺリン元国務省政策企画本部長も、この時同行していて同様の見解を示しました。北朝鮮程度の核能力であれば、通常兵器による報復の威嚇で十分に抑止できるとするウィリアム・ペリー元国防長官は「米国戦略態勢議会委員会」の委員長を務めた際、その最終報告書に関する公聴会(2009年5月6日)で次のように述べています。「ヨーロッパとアジアの両方において我々の拡大抑止の信頼性についての懸念が存在している。彼らの懸念について注意することが重要だ。抑止が我々の基準において有効かどうか判断するのではなく、彼らの基準も考慮しなければならない。それに失敗すると・・・これらの国々が、自前の抑止力を持たなければならないと感じてしまう。」ジェイムズ・シュレシンジャー副委員長(元国防長官)はもっと明確に「日本は、米国の核の傘の下にある30ほどの国の中で、自らの核戦力を生み出す可能性の最も高い国であり、現在、日本との緊密な協議が絶対欠かせない」と警告しています。

昨年の国連決議案において世界の指導者らに被爆地訪問を日本が訴えた際、あるいは、今年、ケリー国務長官の広島平和記念公園訪問に岸田外務大臣が同行し、オバマ大統領に安倍首相が同行した際、日本政府が主張したかったのは先制不使用宣言反対の立場だったのでしょうか。

私たちは昨年7月13日にオバマ大統領に送付した被爆地訪問要請書簡の中で、大統領が被爆地その他で発表する「核兵器のない世界に向けた政策――米国の核兵器の唯一の役割は米国及びその同盟国に対する核攻撃の抑止にあるとする『唯一の役割(目的)政策』を最初のステップとして採用することも含め――に反対しないよう日本政府に働きかけます」と約束しました。

核のない世界に向けた動きを促進するために私たちは次のように要請します。

  1. 米国が先制不使用政策を採用しても日本は決して核武装しないと宣言すること。
  2. オバマ政権が検討していると伝えられる先制不使用政策を始めとする核の役割低減政策を支持すること。
  3. 上記二つができない場合、日本政府はいかなるシナリオにおいて米国が先に核兵器を使って核戦争を始めることを願っているのかを日本国民及び世界に明確に説明すること。

伴英幸 原子力資料情報室共同代表

藤本泰成 原水爆禁止日本国民会議事務局長

田窪雅文 ウエブサイト核情報主宰

連絡先:原水爆禁止日本国民会議 〒101-0062東京都千代田区神田駿河台3-2-11連合会館1F