被曝労働に関する動き
『原子力資料情報室通信』第424号(2009/10/1)より
被曝労働に関する動き
渡辺美紀子
●梅田さんの心筋梗塞についての検討会はじまる
前号、フォトジャーナリストの樋口健二さんに「30年目の真実、死亡扱いされていた原発親方」で、1979年に島根原発と敦賀原発で働いた梅田隆亮さんのことを報告してもらった。梅田さんは、2008年9月に松江労働基準監督署に労災申請を行なった。
梅田さんの労災申請に対する「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」について厚生労働省に問い合わせたところ、8月25日時点で準備中とのことだったが、9月9日に第1回検討会が開催された。核医学を専門とする米倉義晴氏(放射線医学総合研究所理事長)が新たに加わっている。この検討会は個人事案であるという理由で、すべて非公開で行なわれている。
梅田さんは現在、体調不良と闘う毎日を送っている。一刻も早く労災が認定されることを望みたい。
●長尾裁判清水意見書に対し公開質問状
東京電力を提訴した長尾裁判は東京地裁、東京高裁で原告敗訴になった。裁判で争われていたのは長尾さんが多発性骨髄腫であったかどうか(診断論)と多発性骨髄腫と被ばくの関係(因果関係論)だった。東京地裁判決はその両者とも否定した。しかし、高裁では「長尾さんは多発性骨髄腫であった」と原告側の主張を明確に認めた。最高裁では因果関係について争われることになる。
「長尾さんは多発性骨髄腫ではなかった」の根拠は、東京電力からの依頼により提出された清水一之医師の意見書に基づいている。意見書で清水医師は、多発性骨髄腫患者である長尾さんの診断名自体が誤りである、診断はMGUSと孤立性形質細胞腫の二つの疾患であると主張した。この診断は清水医師が日本からただ一人出席した国際骨髄腫作業グループが作成した多発性骨髄腫の診断基準にも、自身で発表した新しい診断基準に関する解説論文にも矛盾するものだった。
長尾裁判を支援する会は、清水医師のこのような一連の行為は医師としての倫理にもとるものだと考え、6月17日、専門医としての社会的責任を問う公開質問状「骨髄腫専門医の社会的責任に関しての質問」を日本骨髄腫研究会の清水一之代表幹事、張高明会長、川戸正文・高木敏之監事あてに送った( takasas.main.jp/column_090701.html )。現在のところ回答はないままである。
●日本原燃、再処理工場稼働に向けて体内汚染の除去剤の承認求める
10月1日、放射線医学総合研究所緊急被ばく医療センターにて、第1回「放射性物質による体内汚染の除去剤の早期承認に関する検討委員会」が開かれる。
これは日本原燃から日本保健物理学会長宛に「放射性物質による体内汚染の除去剤の早期承認に関する要望書」が提出されたことについて学会理事会で審議した結果、臨時委員会を設置し、保物学会としての対応案について諮問することが決まったものだ。
この臨時委員会の主査は明石真言・放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター長で、キレート剤等の放射性物質による体内除去剤についての国内外の情報を収集・検討し、日本保健物理学会としての見解、関係省庁へ提出する要望書の原案作成など学会としての対応案をまとめるという。
六ヶ所再処理工場稼働にそなえて、深刻な体内汚染をもたらすような労働者被曝や事故を想定しての対応とみられる。