六ヶ所再処理工場 稼動予定を14ヶ月延期
『原子力資料情報室通信』第424号より
六ヶ所再処理工場 稼動予定を14ヶ月延期
澤井正子
日本原燃は8月31日、六ヶ所再処理工場の稼働予定を14ヶ月延期し、2010年10月とすると発表した。延期の最大の原因は、高レベルガラス固化体製造工程の事故・トラブルだ。07年11月に始まった固化体製造試験は、溶融炉内の白金族元素の堆積、撹拌棒の曲がりなどのトラブル、09年1月にはセル内で高レベル放射性廃液約150リットルの漏洩事故が発生し、その復旧作業においても機器類のトラブルが続き、作業は長期間中断している。操業の延期は、今回で17回目である。
日本原燃は、14ヶ月間の作業を下記のように予定している。1)セル内の洗浄作業、2)セル内機器の点検(高レベル廃液に含まれる硝酸成分の影響を受けたと考えられる約220の機器全ての点検)、3)溶融炉の熱上げ・落下したレンガの回収、4)ガラスの抜出し・放冷、5)セル内機器の点検、6)溶融炉内の残留物除去、7)セル内機器の点検、8)溶融炉を「再熱上げ」、9)ガラス固化施設のアクティブ試験、である。
復旧作業はさらに長期化の可能性
最初の11ヶ月間は、事故を起こしたA溶融炉の復旧作業にかかる時間で、A、B二つの溶融炉のガラス固化体製造試験は、最後の3ヶ月で終了させる予定だ。このような計画自体実現性に乏しいと言わざるを得ない。それを証明するように9月14 日に再開された洗浄作業もマニピュレーター(遠隔操作器具)が警報を発しわずか1日で中断、結局同機器を取り替えることになった。マニピュレーター不具合の原因究明さえ、どのくらいの時間がかかるのか、全く不明である。復旧作業はさらに時間を要するだろう。
硝酸ミストの影響
その大きな要因の一つは、高レベル廃液とともにセル内で蒸発した「硝酸ミスト」の影響を、日本原燃が過小評価している可能性が高いことだ。再処理工場では比較的高濃度の硝酸をさらに高温で使用するので、原子力施設の中でも腐食による事故・トラブルは後を断たない。機器類、配管等の細部に放射能と硝酸が入り込み、徐々に腐食が進行していくが、事故・トラブルが発生するまで分からない場合がほとんどである。そのため原燃は、復旧作業中3回も220の機器の点検を予定しているが、マニピュレーターの例が示すように、点検作業さえ順調に行えるのか、大きな疑問だ。
核燃税の税率6倍に
青森県では、県財政の約一割近くを六ヶ所再処理工場からの税収が占めている。青森県だけに認められている法定外目的税「核燃料物質等取扱税(核燃税)」が日本原燃に課税されているためだ。使用済み燃料1トンあたり搬入時に1千940万円、貯蔵中130万円が毎年課税され、青森県の税収となっている。六ヶ所再処理工場に「核のゴミ(使用済み燃料)」が入ってくると、青森県が豊かになる(?)仕組みだ。工場の稼働予定が大幅に延期され、燃料のせん断が一切行われないと、燃料プールには7月末で2606トンが貯蔵中でほぼ満杯に近いので、新たな搬入もほとんどないという状況が確実になった。
核燃税は、搬入時に課税される税率が大きいので、現状のままだと青森県の2010?11年度の税収見込み約296億円が、約82億円に激減する。そこで県は「2010年以降の安定的な税収を図るため(三村知事)」、日本原燃と税率の見直しについて協議し、貯蔵燃料の税率を現行の約6.4倍、1トンあたり830万円とすることで条例改正を進めることになった。税率の引き上げは10年1月からで、11年度までの暫定措置とし搬入時の税率は変更しない。日本原燃は、「県民との共存共栄という点も考慮し、合意した」としているが、結局この負担は電気料金を払う国民にしわ寄せされることになる。
財政的な影響は六ヶ所村にも当然及ぶ。工場が竣工すれば、機械や装置は「資産」となり固定資産税の課税対象となる。評価は1月1日時点で行われるので、現行計画では2010年度の課税はできず、約15~20億円と見積もられている初年度税収はまた消えた。六ヶ所村にとって操業延期は何回も経験していることで、「幻の固定資産税」である。